第22話 シャンブロウ種についての
いずれにせよ、このコロニーの様子も一度ざっと見渡しておきたかったところなので、プレィ・パァクを探しがてらに連れていってあげる、と鷹は相棒に約束した。
そしてその相棒が寝付いてから、彼はマルタから受け取った情報を開いてみる。他の情報は、オリイが起きている時にきちんと見た方が効率が良い。だが、これだけは相棒に見せる訳にはいかなかった。
シャンブロウ種についての、レポート。
もっとも、シャンブロウ種については謎が多いのは事実である。
理由は、幾つかある。シャンブロウ種自体が、現在「絶滅」していること。天使種は、ある特徴を持つ稀少種族をことごとく戦争の中で滅ぼしていった。鷹はその「ある特徴」に気付いていた。
天使種が、最も隠したがっている自分達の特徴とそれは同じなのだ。
大して長くもない期間に、一つの惑星を出発した人類が、急激な変化を起こした、その最大の理由。そして認めたがらない、理由。
変化する種族には、二つのタイプがある。一つは、元々ある人間の特性をその環境に合わせて高めたり低めたりする種。そしてもう一つは、あまりにかも過酷な環境のために、とりあえずその地に生息する別の次元の生命体と融合する種だった。
天使種は、その後者に属する。
そして、天使種は、自分達と同じタイプの変化種を狩ったのだ。
その様に変化する種の存在を、残しておくことは、彼等の指導者達、「偉大なる第一世代」には許しがたいことだったらしい。
鷹は第七世代で、初期世代のように強烈な能力を持っている訳ではなかった。むしろ、不老不死という特性以外は、そこらの変化しない種と大して変わらない、という冷静な認識があった。そして、自分達とそれらの種とどう違うのだ、という疑問も。
シャンブロウ種は、その特徴が顕著な、融合体型の変化を遂げた種族だった。
融合体型の変化の種は、移民船の初期のものがたどり着いた場所に多い。それはまだ、どの星域に原地球人類が住み易い環境があるのかも、全く掴めないような時代であり、それだけに、それを承知で飛び出す者には、並々ならぬ覚悟が必要だったとされる。
鷹にとっては、自分の直接の先祖がそうであるはずなのだが、その先祖がそのまま生きているという現実が彼にはあった。
何しろ第1世代から第7世代まで、全て、よほどの病気か、完全に肉体を破壊されることが無ければ、そのまま生き続けているのだ。そうなってくると、時間の感覚が他星系の人間とはずれているな、と気付くのはそう難しくはない。
だがシャンブロウ種はそうではない。融合体型の変化種だが、格別長く生きる、という情報は彼女のレポートには無かった。平均寿命は50年。むしろ原地球人類より短いくらいだった。
*
最初にシャンブロウ種が他の星系とコンタクトを取ったのは、既に母なる地球を人類が見捨てた後だった。戦争に必要な資源を求めて旅する船が、彼等の惑星を見付けた。
その惑星の人間達は、皆一様に髪がある程度長く、ひどく無口だった。そして、綺麗だった。
その美しさに、最初の船の乗組員は、外の世界に出たい、と言う住民を連れ出した。彼等の惑星は、決して居住に適した所ではなかったが、資源は豊富だった。
奇妙なことに、彼等の代表は、惑星自体は捨てても構わない、と明言したのだ。代価として全ての住民にもう少し住み易い場所の居住区を提供してくれるなら、この惑星の資源そのものを渡そう、と。
無論もちかけられた側は飛びついた。最初の船は、その雇い主である惑星の当時の宗主の元へ向かい、連れ出した住民との対話により、その条件を呑んだのだ。
その時点ではこの種族は「シャンブロウ」とは呼ばれていない。種族の名は無い、という彼等に、その宗主は「マロード」という名を仮に名付けた。消滅した言語で、「客人」を表す語だった。
そして宗主はその住民の一人の娘を自分の側に置いた。美しいその娘は、日々忙しない宗主にとって、静かで安らげる存在だったらしい。
その様にして、その星系の人間は、次々に送り込まれてくるその種族「マロード」美しい人間達と交わって行ったのだという。
平和な時期は、数十年続いた……彼等が、その正体を表すまで。
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