お姫様さま!?

僕の目の前に広がっていたのは、馬が逃げ、魔物の魔法で一部が焦げた豪華な馬車に、たった今その馬車を守っていた最後の兵士を倒そうとする猪の姿だった。

そして兵士は相手の力が強すぎる為か防戦一方だった。

その瞬間だった。遂に兵士に隙が出来てそこに猪の魔物が《ファイアボール》を放った。




「クソっ間に合え!」




僕はとっさに兵士の前に飛び出てファイアボールを《アイスボール》で相殺した。




「なっ!」




いきなり飛び出て魔法を消した僕に驚く兵士を尻目に僕は猪の魔物目掛けて走った。

この猪の魔物は森の中で見たものより二回り大きかった。

ただでさえ体高が大人の肩近くまである魔物が更に二回り大きくなったものならば大人の身長を超える位までくる。

そして魔物は生まれてから歳月を重ねるたびにどんどん強くなる。

この魔物は森の中の奴とは多分比べ物にならない位強いと思う。

正直に言ってよく兵士が耐えれたものだと思う。




そんなことを考えながらも魔物との距離はどんどん縮まる。

魔物は僕に魔法を放ってくるが僕はそれを相殺しながら近づく。

かなり近づいたところで僕は魔物に向かって《サンダーランス》を放った。




「プギギィィィー」




魔物は声を上げるが見た感じあまりダメージを受けている様には見えなかった。サンダーランスがダメだと思った僕は近接戦に持ち込むことにした。《アイテムボックス》から僕が適当土を魔法で固めて作った剣を取り出し魔物の胴体を斬りつけた。すると血飛沫が舞う。




「プギギィィィーーーーーーーーーィィィ」




さっきとは少し違う鳴き声を上げた魔物を見た僕は相手が行動する前に立ち位置を変え切り続けた。

僕は魔物の攻撃を喰らわない様に動きながら攻撃しているため魔物は僕を標的から外し兵士の方へ急にもう突進しようとした。

だけど兵士は防戦していたとはいえ身体にかなりの怪我を負っていた。

僕は兵士の方へ行かせない為に土魔法アースバンドで魔物の四肢を完全に拘束した。魔物はアースバンドを外そうと必死に抵抗しているものの全く外れる気配がなく、僕はそのまま身体に《身体強化》の魔法をかけて力任せに猪の魔物の首を跳ねた。

首を切られた魔物からアースバンドを解くとその場に倒れた。




ズドンッ




重量感のある音が空気中に響く。とりあえず猪の魔物の死体をアイテムボックスの中にしまい兵士を治す為に兵士に近寄り回復魔法ハイヒールをかけた。兵士を緑色の光が薄らと包むと兵士の傷は全て治っていた。




「傷が治った?」




とりあえず傷の治った兵士に声をかけた。




「あの、傷は大丈夫ですか。傷が治っても流れた血は戻ってませんから無理はしないで下さい。」




声をかけると兵士は




「君が傷を治してくれたのか?礼を言う。私の名前はヴァルツ王国騎士団団長アレクシア・テリウスだ。よかったら君の名前も教えてくれ」




え?騎士団団長?それってかなりのお偉いさんだよね。

あ!魔物に殺された他の兵士の鎧とこの人の鎧しっかり見たら全然違うわ。僕が動揺していると団長さんは、




「どうした?大丈夫か?」




団長さんに声をかけられると僕は慌てて挨拶をした。




「レイです。いきなりですいません。なんであの魔物に襲われていたんですか?」




すると団長さんは、




「レイか分かった。だがすまない今はそれよりもお姫様の無事を確認しなくてはならない。質問は必ず答えるからついて来てくれ。もし怪我をしていたら君の魔法だけが頼りだから」




僕はとりあえずお姫様さま?の無事を確認する為に団長さんについて行くことにした。




焦げた馬車の近くまで来るとここで待っている様にと言われ馬車の外で中に入った団長さんを待った。と、思ったら直ぐに出てきた。




「レイ君すまないけど君に頼みたいことがある。中にはヴァルツ王国の姫アイリス・ヴァルツ様と獣王国の姫システィア・ハウデン様が乗っているのだが先程の戦いで怯えてしまって私が近くと怖がられてしまって。そこでお姫様と年の近いレイ君なら多分なんとか出来るはずだからよろしく」




「なんとかなるって言われても、それに自分で言うのもなんですけど僕はどこのどいつかもわからない人なんですよ。そんな簡単に信用していいんですか?」




僕は自分のことを信用し過ぎてる団長さんに質問した。




「信用も何も君は私のことを助けてくれたじゃないか。もしかしてアレは全て偶然とでも?しかもレイ君は私達を見捨てることも出来たはずなのに助けた。それは君が助けたいと思ったからじゃないのか?助けたいと思って助けてくれたなら私は君が信用するに値する人間だと思う。あと多分君は人が困っていたら助けてしまうじゃないか?理由はこれでいいかな?」




この人、短時間で僕の性格を簡単にだが把握している。

確かに見捨てることもできたし困っている人がいたら出来るだけ助けたいと思う。

少し驚いている僕の顔を見た団長さんは




「私と君がいて、私はもう怖がられた。そしたら残すは君だけしかいない。馬車の中に入ってお姫様の無事を確認してきてくれる?」




こんな風に言われたら断るなんてことができるわけがないましてや団長さんは怖がられてしまって入れないなら僕が行くしかない。

僕は団長さんに何が起きても文句言わないでくださいよと言うと、団長さんは大丈夫大丈夫と言って僕を馬車の中に入るように言ってきた。




ガチャッ




出来るだけ静かに扉を開けた僕は中を覗いた。すると椅子の上に女の子が二人角に固まってこちらを見ていた。二人しかいないが着ている服が高そうなのでこの子達がお姫様で間違いなさそうだ。

僕は出来るだけ怖がらせない様に優しい笑みを作りながら出来るだけ小さく優しい声でお姫様に入っていいか聞いた。




「ねぇ、中に入っていいかな?」




すると白い虎柄の獣耳の生えた獣王国の姫がコクンと頷いた。

僕はお姫様と対面の席に座り質問した。




「さっき魔物に襲われたことは分かる?」




コクン




「それで魔物の魔法が当たったのは分かる?」




コクン




「それで僕は君達の護衛をしていた騎士団の団長さんに言われて来たんだけど大丈夫怪我はない?」




すると、




「だ、い、じょうぶ」




かなり小さく弱々しい声だが獣王国の姫の隣にいたヴァルツ王国の姫が返事をしてくれた。

僕はお姫様に念の為に回復魔法をかけていいか聞くといいと言ってくれたのでかけることにした。




「《ハイヒール》」




別に声を出す必要はないけどいきなりよくわからない魔法をかけられるよりはマシだと思ったので一応声を出してみた。

お姫様達は緑色の薄い光に包まれた。




「「あたたかい」」




光が消えたあとだいぶ落ち着いたのか二人は普通に話せる様になっていた。




「そういえば自己紹介してなかったね。僕の名前はレイだよ。歳は君達と同じ位で10歳だよ。よろしく」




僕の自己紹介が終わるとヴァルツ王国のお姫様が




「私はヴァルツ王国の第三王女のアイリス・ヴァルツです。レイ君より年下で8歳です。助けてくれてありがとうございます」




それに続き、




「私は獣王国ハウデンの第四王女システィア・ハウデン、アリスちゃんと同じで8歳です。よろしくお願いしますレイ君」




おお、さすがお姫様教育がしっかりされている様で8歳とは思えないしっかりとした挨拶が返ってきた。

すると扉が開かれ中の僕と話している姿を見た団長さんは、




「だいぶ落ち着いたね。これからのことを話したいから外に出てきて」




それだけ言うと団長さんは扉を閉めて戻っていった。




「それじゃあ外に出ようかお姫様達」




僕は扉を開けて外に出て後ろにいるアリシア様とシスティア様に言うと二人は扉の手前で止まっていた。

体が震え先程の恐怖が蘇っている様だった。

僕は二人の手を取り安心させる様に言った。




「大丈夫だよ外に魔物は居ないから。それに何があっても僕が守ってあげるから」




二人は僕の言葉を信用してくれたのかゆっくりとだが降りて来てくれた。するとシスティア様が、




「まだ、怖いから手、繋いでていい?」




確かにまだシスティア様の手が震えていた。そして、アイリス様も手が震えていた。




「もちろんいいですよ、システィア様。よかったらアイリス様も手を繋いだままで宜しいですか?」




「ありがとう」




システィア様の返事を聞いたあとアイリス様もコクンと頷いた。

するとシスティア様が、




「レイ君、私に様はいらないからティアって呼んで」




さすがにお姫様相手に愛称で呼ぶのは問題がありそうなので断わろうとしたら




「さすがにお姫様を愛称呼びするのは「私のこと嫌い?」」




これはせこいでしょ、何もされてないのに嫌いなわけがないせめての妥協でティア様って言おうとしたら




「ではティア様と「ティア」」




「ではティア様と「ティア」」




「ではティア様と「ティア」」




「分かったよティア言葉使いもこんな感じになっちゃうけどそれでもいい?」




さすがに根気負けをした僕は一応確認した。




「うん!」




こころなしか少し頬が赤くなり声が元気になったが震えが止まっているから問題は無い。

すると今度はアイリス様が少し頬を膨らまし、




「ティアだけずるいレイ君私のこともアリスって呼んで」




僕はティアみたいに「ではアリス様と「アリス」」が続く様な気がして素直に了承した。




「分かったアリスこれでいい?言葉使いも雑になるけど」




「ありがとうレイ君」




アリスも頬が少し赤いが震えが治まっていたので特に問題は無かった。

震えが止まったので手を離そうとすると離してもらえずより強く手を握られた。さすがにまだ怖いのだろう強く握られたので素直に手を繋いだままにすることにした。僕が手を繋いだままにするとわかったのか二人は手の力を緩めた。




僕達三人馬車の外で待っている団長さんのもとに向かって歩き出した。

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る