第3話
「クソがっ!!」
津田とのやり取りを思いだした善之は、苛立たしげに転がってる小石を蹴っ飛ばした。
色んな意味で蹴り慣れているからか、その小石はかなりの距離転がっていく。
「あんなのが同じ部にいたら俺も殴ってたな……」
「俺は小物過ぎて気になんないな!」
同意する勝也に対し、殴りかかる寸前のような雰囲気を出していたはずの竜一が、自慢するように呟いた。
この中で一番短気なのに、よく言うよと4人は思う。
「何であんなのがいるんだよ?」
「あいつがこの高校にいるなんて知らなかったんだよ!」
勝也の問いも
暴力事件によって部活も辞めさせられ、善之の中学時代は他の生徒から腫れ物に触るかのように扱われた。
よく話す者もおらず、ほとんどボッチ状態だった。
そんなことになる原因の当事者がいる高校になんて、誰が考えたって進学したくないものだ。
みんなの言うことも分かる。
確かにその後の中学生活のことを考えれば、殴ったのは尚早だった気もしないでもないが、殴ったことでスッキリした善之は、津田への興味が完全に失せた。
その後海たちと出会い、学校外で楽しく過ごしていたのもあって、津田の進路なんて気にもしていなかったのが仇になった。
「サッカー部に入ってあんなのがいたら俺も殴っちまうよ……」
「……やり過ぎたら、場合によっちゃ学校もやめさせられるぞ」
垂れ目で人の良さそうな雰囲気の勝也が言うと、何だか逆に怖いセリフだ。
それに対し、海が当たり前のことを突っ込む。
殴ったら停学は当然。
理由次第では退学だってありえる話だ。
ここにいる4人が我慢できずに手を出したら、津田のような人間を一発で済ますはずがない。
そうなったら、確実に退学になるだろう。
「1年我慢できるか?」
この中では一番まともな海が、問題児の4人に問いかける。
3年の津田が部活内で偉そうにできるのも、卒業するまでの1年間だけだ。
津田がいなくなれば、そこまで我慢しなくても良くなるだろう。
「「「無理!!」」」
海の疑問に、善之、竜一、優介の3人は悩むことなく声をそろえて答えた。
今日善之とのやり取りを見ていただけだが、とてもではないが我慢できる自信がない。
短気の竜一だと、1ヵ月も持てば良いくらいだろう。
「俺もきついかな……」
勝也の場合は他の3人とは微妙に違う理由の問題児だったのだが、我慢してまでこだわるほどサッカーがしたいとは言いにくい。
何もしないでいるのはエネルギーがもったいないため、4人と何か発散させられることがしたいというのが本音だ。
「軽音部は?」
「……2年前に廃部」
サッカー部は無いと決まり、海は話を変える。
それに答えたのは優介だ。
どうやら、優介はサッカー部より軽音部のことを調べていたらしい。
何故軽音部かというと、全員が優介の家で楽器を習っていたからだ。
優介の家はライブハウスの経営をしており、遊びに行ったときに貸し出し用の楽器を渡され、そのまま優介の父親に指導されることになってしまった。
それもあってか、みんなある程度楽器が弾けるようになっているので、何もしないでいるよりかましだと考えて聞いたのだが、廃部とはついてない。
「使ってた部室は?」
「吹奏楽部が使ってるらしい」
廃部したとしても部室が残っているなら、また部として使わせてもらえるかもしれないという考えもあり問いかけるが、それも調べてあった優介から答えがすぐに返ってきた。
ここの高校の吹奏楽は少し有名らしく、毎年まあまあの人数が入部している。
そんなとこから部室として奪い取れるとは完全に無理。
その部室は諦めるしかない。
「人数は揃ってるんだし、許可取ればまたどっか部室としてくれないかな?」
「明日にでも聞きに行ってみるか?」
別に部室なんてどこでも良い。
どこか空いてるところを使わせてもらえれば十分なので、5人は翌日空き部屋がないかを聞きに職員室へ向かった。
「軽音部? 無理だな……」
翌日、5人は職員室にいた学年主任の山田に軽音部をまた作りたいという話をしに行った。
この山田は、顔に似合わず英語を教えており、海の父の友人であるため何回か顔を合わせた経験があるからか、5人にとっては話ができる教師だ。
彼に相談してみたのだが、結構あっさりと否定されてしまった。
「何でっすか?」
「練習する場所がない」
理由を善之が尋ねると、どうやら部室にできるようなところがないらしい。
「それに、お前らじゃ信用もできないからな……」
「そりゃねっすよ! まだ入学して問題起こしてないでしょうが!」
新しく部を作ると言うのもそんな簡単なものでもないらしい。
というよりも、単純に善之たちのことがいまいち信用されていないようだ。
山田だからこのように言ってくれているのだろうが、中学時代の問題児たちが集まることに、教師側からすると許可を出しにくいということなのだろう。
「じゃあ、フットサル部は?」
「……誰が顧問をするんだ?」
フットサルなら、海の家で練習するので部室や部費が無くても名前だけあればいい。
別に部として認められなくてもやりようはある。
ただ、高校の部として認められた方が大会に参加したりするときに行動しやすいという思いから尋ねると、顧問のことを聞かれた。
部にするには顧問の教師が必要なのだが、問題児の面倒を見たくないのか誰も引き受けてくれなかった。
「「「「「先生」」」」」
「アホなこというな。俺は剣道部の顧問だ」
剣道部はたまに大会で上位に食い込んだりするからか、この高校ではまあまあステータスが高い部である。
なので、顧問も何人かいるので山田に頼んでみたのだが、やっぱりだめそうだ。
「フットサルってあれだろ? 雑に言ったらミニサッカーだろ? サッカー部の猪原先生に頼めよ」
「あの先生じゃ駄目だ」
サッカー部の練習を見に行った時、善之は顧問の猪原の様子も見ていた。
しかし、すぐにダメだと思った。
「何で駄目なんだ?」
「津田がいるからっす!」
詳しい理由もなく駄目といわれてもどうしようもない。
その理由を山田が尋ねると、善之が答えを返した。
「あぁ、アイツとお前は中学の時悶着あったんだっけ? あいつは真面目にやってるんだ。お前も腹立ったからって我慢すればいいじゃないか?」
「……やっぱりか」
山田からその言葉が出たため、善之はうんざりしたような表情になる。
「なにがだ?」
「大体の教師はあいつの表の顔に騙されて、真面目だって言うんすよ。裏の顔も知らねえんじゃ、話になんないな……」
善之の反応に、山田は首を傾げる。
山田の目から見ると、津田の素行が悪いようには見えない。
中学時代の話は善之から聞かされていたので、少し気になってはいたが、津田が何かしている所は見たことはなく、印象としては真面目な普通の生徒にしか見えない。
しかし、善之たちからすると、津田は教師が見ている前で何かするようなヘマをするような男ではない。
それほどまでに奴は狡猾な男なのだ。
山田もそこが見抜けていないようだ。
それを言ったところで、証拠もないのだからどうしようもない。
善之たちは諦めて、職員室から出て行くことにした。
「おい!」
「すいません。失礼します」
善之たちが勝手に出て行ってしまい、山田は首を傾げた。
1人遅れた海だけが頭を下げ、職員室の扉を閉めたのだった。
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