第7話 弟と、狐の子

 兄様から話を聞いて、数日。どうしても、いろんなことが気にかかって、いっそのこと、浅草まで行ってみようか。そうしたらあの時の声の主にもう一度会えるんじゃないか。なんてことを考えてしまう。

 一人であまり遠出をするなとは兄様たちに言われているけれど、それでも自分の好奇心が先に立つ。

 今までそんなことは殆どなかったのに。ただ言われたこと言われたとおりにやって、できる限り兄様や姉様の影で、目立たないようにして。だって、僕は。


「おう、前見て歩きやがれ!」


「す、すみません!」


 考えながら歩いていれば、思い切り正面衝突。怒鳴られて、謝りながら人の少ない横道へ。そうして改めて何をやっているんだろうと、自分で自分にあきれてしまう。

 僕を突き落としたのと、明彦兄様?を殺したのが同じとは限らないし、何より本当に殺されたのか、僕には知るすべがない。先日の件に関してはすでに警察には話をしてある。まぁ、目撃している人がいるとは行っても、情報が少なすぎて、警察の腰は重そうだけれど。僕が余計なことをすべきではない。


「おや、また会ったね」


「!?」


 振り返れば、年は40代くらいの、すこし上背のある男性が後ろに立っていた。ニコニコと穏やかに笑っていて、見た感じは、人のよさそうなおじさん。けれど、どこか、あまり近づいてはいけないような気配もあって。この前、見た顔と似ているような気もした。


「先日は悪かったね。ちょっと肩を叩いたつもりだったんだけれど、怪我はしなかったかい?」


「……」


「あはは、警戒されるのも当然だ。ならこうしよう、あそこのミルクバーで、シベリアでもどうかな?」


「いいえ。帰るところですから。失礼します」


 軽く頭をさげて、家へと向かう。ああ、でも、このまままっすぐ家に帰らないほうがいいのかな。あの時にあそこにいたのは本人が認めているわけだし。

 そんなことを考えながら、家の方向には向かいつつうろうろ遠回り。家に帰ってから兄様に言ってのほうがいいのかな。表から入るのはなんとなく気が引けて、離れに直結している裏口に回ろうと裏通りに入って。


「っ…ぁ!?」


「全く……あの子と違って、やっぱり警戒心強いなぁ」


 思い切り後ろから殴られた。グラグラと視界が揺れて立っていられない。やっぱりついてきていた。倒れそうになるのを堪えて声を上げようとすれば、腹に膝が入る。


「はる!」


 意識を失う直前、誰か、聞いたことがあるようでない声が、僕の名前を呼んだ。

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