願いと罰と……〈2〉

 リリスの強さは僕が演じ見せているものとは違う。

 汚れなき想いと信念。それは天界に住む者達がどう足掻いても持ち得ないものだろう。

 彼女と共に歩んでいけたなら。

 いつかは僕も、運命に牙を向くことが出来たのか。


 出会い別れてから長い時が過ぎた。

 リリスと交わした再会の約束。それが……罰を下す形で叶えられるとは。


 氷に閉ざされるまで怖れを見せなかったリリス。


 ——あなたへの手紙は人を真似たものよ。坊っちゃんが出会った少年を私はずっと見ていたの。彼の坊っちゃんへの興味は、純粋で可愛らしくて……それでいて芯が強いものだった。天使として、最後に見ていたのが彼でよかったと思ってる。


 人への興味を僕に呼び寄せたリリスの笑み。それは美しく、ひとつの夢を僕の中に描きだした。


 いつかの未来、朝と夜が訪れる世界で彼女と巡り会えるなら。

 命尽きるまで……繰り返し。


 寒さに震えながら牢獄の中を歩く。まっすぐに、リリスを閉じ込める氷に向かって。





 僕を包む暗闇と焔が照らしだした氷の中のリリス。閉ざされた目と唇。体に巻きついた鎖が冷ややかな光を放つ。命無き者を嘲り僕を笑うように。


 人間界に棲む不死の血が生みだした妖魔もの

 僕の力で、妖魔と同化したリリスの命。


「何を語ろうが、君には聞こえないが」


 暗闇に消える僕の声。

 語る相手を前にしながら、届かない滑稽さが僕を支配する。


「君の願いが届いたとしても、すぐに叶えられはしないだろう。何故なら、賛同する者と反発する者……世界がひとつになるには長い時がかかるのだから。それでも僕は、君と共に世界と向き合おうと思っている。君が愛した限りある命を僕も愛していきたい。君に会うまで、僕にあるのは与えられたものへの疑問だけだった。こんな僕が……君を同志と呼ぶなんて」


 凍える寒さの中、僕を温めるものはなんだろう。

 暗闇の中。

 君が眩しく見えるのは、君と出会う未来を夢見るのは何故なのか。手を伸ばし触れた氷の壁。冷たさの先にある君の手に触れることが出来たなら。


「人間界。君が憧れ、愛した人の世界」


 長い時の流れの中、君がどれだけの者達を見ていたのか。知らないまま君を罰してしまった。

 話したいことがある。

 今も君を前に、話したいことがあふれてるのに。


 妖魔と同化した君が対峙する者達。

 僕に出来ることは、君と共に彼らを信じること。


 同じ想いを秘めて生きている。それはひとつだけの、君と繋がっている宝物。



 君と共に生きていく。


 いつかの未来、君の笑顔と出会うために。



 同志と呼んだ君の手と



 触れあえる時を待ち続ける。









 次章〈黄昏庭園と願いのモノガタリ〉


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