予選編3 毒を喰らわばダイニングテーブルまで

 東もだいぶ遊び尽くしてきた。

 あの後、修道院の中は全員殺した。

 集落エリアも、待ち伏せや籠城ろうじょう(籠民家?)しているプレイヤーを蹂躙じゅうりんした。


 そうしたら、修道院に森にいた人達の団体さんが移民してきた。


 初期位置を捨ててより有利な場所を取りに来たのだろう。


 みんなオリジンスキルや作戦を色々用意していて飽きない。モンスターにはない良さを味わっていた。




 そんなこんなで愉しみながら、修道院に来た人を狩り直しに来た。



「いやぁ、こないで」


 ガタガタと震える同い年くらいのプレイヤー。


 は、取り巻きと思われる沢山のプレイヤーに囲われて偉そうにしていた子だ。



 第一声は


「私達と一緒に最後の三人を目指さない?


 とは言っても、私以外の二人は私にどれだけ貢げるかによってみんなの中から決めるけど」


「それともこの人数に、勝てるとでも?」


 高飛車な態度も心底惚れ込んでいるファンの方々にはツボらしく、選ばれようとアピールが飛び交うばかりだった。


 人数は15人はいただろうか?

 大きなプレイヤーの集団だからマップでとても目立っていたんだよね。



 プレイヤーネームは『ヒオリン』。気合いの入ったアバターは確かに美少女で、ファンがつくのも頷ける可愛さだ。


 課金アイテムに装備は無いが、見た目のみ変えられるオシャレ要素は有る。恐らくはそういったモノなのだろう、やたらキラキラした服をしている。


 今はその美少女アバターも顔面蒼白になってしまっているが。


「オレはね、男女平等なんだ。病気や事故が美少女だけを避けることなんてないでしょ?それとおんなじ。」



 美男子でもピザデブでも殺す

 ショタでも老紳士でも殺す

 美少女でも醜女でも殺す

 老婆でも幼女でも殺す

 プレイヤーなら殺す

 全てを残らず殺す

 平等にただ殺す

 慈悲なく殺す

 確実に殺す

 必ず殺す



「安心してよ。痛めつけるかもしれないし、ちょっと巫山戯ふざけたりするかもしれないけど、絶対に君は殺してあげるから。」


「どこに安心できる要素があるのよ!頭オカシイんじゃないの!?」


「この大会ではよくそう言われるね。でも、君もオレを殺そうとしていたんだ。このゲームに参加した時点で同じ穴のナントカってやつだよ。」


 この予選で何度も聞いた「こういうゲームだから」って言い訳。

 変じゃないかな?仮想空間であっても殺しは殺し。法律的には裁きは下らなくとも、プレイヤーに死の恐怖を与える事に現実と違いはない。


 オレは確かに狂ったように殺しているけど、被害者そこから目を逸らしてはいない。

 本当は『参加した全プレイヤーが頭オカシイ』が正解なんだ。

 不思議だ。なんで2万3千もの人がそれに気付かず参加してるんだろうか?


 だ、Variable Real Onlineをやっていてたまに感じるよく分からない

 なんでみんな


 考え事をして目の前の女の子への注意が散漫になってしまった。

 

「死ね!」


 突き出される青く光る剣。


 まぁ、


 左腕エルが爪を伸ばして五指で剣を摘む。

 ギャリギャリと黒板を爪でかいたような耳障りな音を出しながらも剣は止まった。


「ちゃんと集中しなよ、危なっかしい」


「あぁ、ごめんごめん」


 少女の鬼の様な形相に、さっきまでの怯えはない。アイドル然とした服装と相まって酷くシュールだ。


「ハハッやれば出来るじゃないか!その顔の方が素敵だよ」


 一回考え事は置いておいて、この子をやってしまおうか。


 エルが抑えてる剣を引き抜こうと頑張っているけどSTRが違いすぎてビクともしてない。


「死ね!死んぢゃえ!」


 うぅーん?この娘だけじゃない。

 全体的にプレイヤーの殺意が高い気もする、ぼくのはだけど。


 これもか?だとしたら何で?


 まぁ置いとこう。


 剣に夢中な女の子の顔を右腕でぶん殴る。

 剣から手が離れ、倒れる。


 容赦無く女の子の顔面を殴るとは思わなかったのか、呆然とこちらを見てくる。


 痛みを認識して、怒りに変質させたのか顔が歪む。


 罵声を吐こうと口を開きかけ


「返してあげるよ。」


 奪っちゃってた剣を、エルのSTRを乗せて彼女の肩へと投げつけた。

 動きを見るに右利きだったから、丁重に右肩へのご返却だ。


 開きかけた口は肩から生える剣を見て、恐怖からの絶叫が迸る。


 絹を裂くような悲鳴とはこういうやつか。


 高く伸びやかな声が他に、誰もいない修道院に響き渡る。


「いい声じゃないか、歌手も目指せそうだね。」


 刺さってる剣を掴みグリグリと動かす。


 痛感軽減をオフにするオリジンスキルなんて多分持ってないだろう。

 痛そうに顔をしかめているが、そんなには痛くないはず。

 自分の肩に異物がぶっ刺さっていることや、それが動かされる事への嫌悪感からの生理現象だろう。


 どうすれば痛感のない相手を痛めつけられるのだろうか?ふと、興味が湧いた。


「なぁ、お姫様。爪先から削るように食われていくのと、身体中を槍で滅多刺しにされるの。どっちが辛そう?」


 オレの態度からナニカ察したのか、剣での傷口が広がるのも構わずに暴れだす。


「ねぇ、慌てないでよ。オレが愉しむ前にHPが全損しかねないでしょう。」


 歯の根が合わない様子で、譫言うわごとのように「いや、いや」とブツブツと繰り返している。


「さっきまでの威勢の良さはどうしたの?元気だして?」


 痛めつける前から戦意喪失しちゃった。

 残念だ。興味が失せた。


「エル、爪先から擦り潰すように食べてみて。最期くらいは、面白いリアクションを期待しよう。」


 エルは面倒くさそうにジト目を向けてくる。


「ラティ、あんまり時間かけるのはやめて欲しいんだけどね。しょうがないな、。」


 無数の乱杭歯の並ぶ大きな口が掌に形成される。


「あーんっと」


 少女の白く細い足首が、顎門あぎとに飲まれ。


 蒼白な顔の少女は暴れるも、ぼくの右手はしっかりと剣を抑えていた。


 次の瞬間


 硬い骨の砕ける食感《てごたえ》がした。

 フライドチキンの骨を砕くよりかは硬い。

 でも、他愛のない脆さだ。


 足首から先の感覚を擬似的にとはいえ、失った事でパニックになってる。


 そうして半狂乱な彼女は頭を振りかぶって、


「賢い!けどやめてねー」


 自身に刺さる剣へと振りおろそうとした。


ごろじて!こ、殺してくださいぃぃい!」


 涙と鼻水でグシャグシャな顔を足蹴にして、剣から遠ざける。


「いま、殺ってるよ」



 そうして、大腿骨くらい食べたところで残念ながら、死んでしまった。

 刺さった剣での継続ダメージもあるし仕方ないね。

 途中でポーションで延命しようとしたら、エルに流石に怒られた。


 まぁ、まだまだプレイヤーはいる。

 東から逃げた獣人のプレイヤーも探さないと。


 ぼくは今、最高にサイコな事をしてると自覚はある。けど、楽しくて楽しくてたまらなかった。


 途中でスタンスをブラすのも、先に殺したプレイヤー達に不公平だしね。


 毒を、喰らわば皿まで。


 いや、本戦も暴れたい。

 もっと、もっと喰らってやろう。


「皿より食らう……あとはテーブルくらい?」


「?……何の話だ??」


 エルとならテーブルくらい食べれるかな。



 _____________________


 この予選バトロワに参加していた、他のエリアにいるプレイヤー達も気付いていた。


 


 鐘が鳴り、マップの表示を注視していれば嫌でも気付いた事だろう。


 各エリアが有利なポジションを抑えたプレイヤー、イマイチ攻めきれない不利なプレイヤーによる膠着こうちゃくした状態が続いていた。


 しかし、東エリアだけは違った。


 予選開始から4時間ほど経っただろうか、東エリアは既に一つの点と大きな一団のみになっていた。


 個人と団体が戦うなんて、ただのリンチだ。

 一つしかない点は消え去るのみだろう。


 多くのプレイヤーが最終局面で、この東の団体との交戦に思いを馳せていた。


 団体と個人の接触、そこでマップ表示の時間は一度終わった。

 その後、思いのほか早く次の鐘が鳴らされた。


 が3分の2が食い荒らされていた。


 孤独な勇者の予想外の奮闘。

 他のエリアのプレイヤー達は、最終局面が楽になるとほくそ笑んだ。


 が、笑ってられるのはそこまでだった。


 次の鐘が鳴った時に点は対峙する2つのみになっていた。最後には1つになった。


 もちろん、団体の誰かが生き残ったのかもしれない。

 だが、15対1を生き残った奴が今更1対1で死ぬだろうか?


 マップにぽつんと赤く光る点が、酷く気味の悪い威圧感を持っている気がするのだ。


 その点が南に向かって動き出すのが見えたのを最後に、表示の時間が終わった。


 感のいいプレイヤーは西へと逃げ出し、迎撃出来ると考えたプレイヤーは留まった。


 そんな光景が西と北でも繰り返される事になるとは、この時は誰も思わなかった。

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