進行状況レポート 01

 白衣の男が、巨大なモニターと様々な記号の明滅するコンソールの鎮座する部屋にいた。


 殺風景な部屋に唯一の趣味の物か、サイドテーブルに紅茶の入ったカップが置かれている。


 時刻は現実時間なら0時を回った。

 プレイヤー達にとっての2日目が始まり、イベントが告知される。


 さて、Variable Real On-lineのリリースから24時間経った。

 1万人弱程度しかいなかったプレイヤーも、最大3万人まで増える見込みだ。


 高単価な家庭用ゲーム機+専用のVRマシンという敷居の高さによって、プレイ人口の爆発的な増加に抑制をかけていたが……


「思った以上に増えたな、増産分もすぐに無くなるぞ」


 そして、何より


「サーバーのキャパシティ的に、一度新規を止めざるを得ないな。」


 眺めるは、モニターに浮かぶ乱高下するグラフ。

 その下にあるメーターが、イエローゾーンのギリギリ下の当たりまで振れている。

 グラフに合わせて微震するそれがサーバーのキャパシティを表していた。


 他にも沢山の要素がモニターには映し出されていた。


 現実と少し違った形のイギリスの地図が映るウィンドウと、別枠に日本地図が映っている。


 日本地図に点在する赤い点や、塗り分けられたが何を意味するのかは、白衣の男しか知る由もなかった。



 地図の横では、複数のウィンドウが代わる代わる表示と消滅を繰り返す。

 白衣の男にはそれが読み解けているのだろう。時折、消滅したウィンドウを戻し、コンソールを操作している。

 さながら、オーケストラの指揮者のように慌ただしくも秩序だった所作は、1つの世界を動かす創造主として堂々たるものだった。


 おびただしい程の情報。


 このモニターには、ゲーム世界全てのパラメータ・全ての人の一挙手一投足すら反映されて


 情報の海と呼ぶべきソレを処理できてしまう彼を見たら、誰もが彼を『神』と認めざるを得ないだろう。



「ん?」


 ウィンドウのポップアップの嵐の中。


 一瞬金色のウィンドウが現れ、

 コンソールの上を踊っていた指が止まる。


「おぉ!『心象スキル』の発現者が増えたか!

 目出度めでたいねぇ!」


 笑いながら、ガバッとモニター上部に浮かぶ一際大きな『0.0012%』の数字を振り仰ぐ。


 少しの間の後、『0.0013%』に変化する。

 益々ますます笑みを深め、手を叩く。


 誰もいない部屋に、パンパンと乾いた拍手が響いた。


「いやぁ、スバラシイ!想定よりも早いペースでだ!」


 サイドテーブルの紅茶をグイと飲み干し、両手を広げてモニターへ、声を上げる。


「舞台は用意した!戦場いくさばだ!


 力が必要だろうなぁ!差をつけなくてはなぁ!


 役者不足じゃ舞台から落とされるぞ!


 それが嫌なら、


 装備を整えろ!レベルを上げろ!


 そして、!!





 フフフ……フゥッハッハッハァ!!ぁっ…ゲホッゲホ!」


 哄笑こうしょうを上げ、変なとこにツバが入ってむせる男。


 慌てて紅茶を飲もうとして、カップがカラで焦る。


「り、再出力リジェネレート、『紅茶』……」


 カップが消え、新しい紅茶が生成された。

 急いで口を付ける。


「アッチぃ!『アイスティー』にすればよかった!」


 涙目でボヤく男にさっきまでの、超然とした威厳は無かった。



「頼んだよ、プレイヤー諸君。


 頼むからでワタシの世界を遊んでくれ。


 それが無ければ、ワタシが世界を創った意味が無いからね」



 神に祈るような、その独白を聞くものは冷たい機械達だけだった。












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