VRオンライン ~『異形腕のヤベーやつ』レイドボス呼ばわりされるけど、ただ暴れたいだけなんです~

QU0Nたむ

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Variable Real On-line

 暗く、制御卓コンソールと画面だけが輝く部屋に白衣の男はいた。


 画面を睨む眼は物憂げで、どこか悲しい狂気を滲ませていた。


 これから自身が引き起こす事への恐怖など、とうにてたはずなのに。


 Enterキーに触れる指は冷たく震えていた。



 男はここまできた、道のりを振り返る。



 私の最愛の人は死んだ。


 生物である以上は寿命があるのは必然で、私の幸せは永遠には続かない事は知っていた。


 だが、通り魔に刺されて事切れるなんて

 呆気なく理不尽な最期は認められない。


 


 15年前のあの雨の日、彼女を閉じ込めてでも外出させなければと何度も思った。


 時は無情で起きた事は覆せない。

 失ったものは返ってこない。


 世界の真理ほうそくを究明する学者なればこそ、

 その現実を覆せないのは理解できる。


 だから、覆さない。


 失ったのなら作ればいい。

 巻き戻せないなら1から始めればいい。


 オカルトなんかじゃない、

 科学と人の意思の力で彼女を するのだ。


 思い返す事で、世界に対する憤りにも似た無念が蘇る。


「さぁ、VRを始めよう。」


 せいぜい楽しんでもらおうじゃないか。


 自分が何を使って遊んでるか、

 原理も理解できない猿ども。


 ワタシの計画の為に力を貸してくれ。


 冷たく震えていた指は、静かにキーを叩いていた。

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