閑話 私が見たもの


 本当は、このゲームは父が遊ぶはずのものだった。


 しかし、父は「設定が多過ぎてダルい」と言って私に投げてきた。


 父はゲーム関係の記事を書いている、いわゆるライターをしている。


 乙女ゲーのような興味の薄いジャンルや、今回みたいに手間が多いものを私に寄越す。


 宿題としてレビューを書かなきゃいけないが小遣いも貰えるし知らないゲームで遊べるから悪いことはない

 が、今回のはちょっと面倒くさい。


『VRオンライン』


 誇大広告なのに出してるところが、あのソヒーコンピューターエンターテイメント。

 高級な地雷ゲームなのかそれとも余程の自信作なのか…


 それはさておき、


 ヘッドセットの詳細設定が

 本当にしくかい。


 何が悲しくて体重の登録や、日頃の生活動向を機械に赤裸々に明かさないといけないの?


 スマホへの専用アプリのインストール、接続状況の確認などやることが多い。


 …三時間経過…


「あぁー!長いっ!」


 だけど、やっと終わりが見えてきた。

 …って早くお風呂に入んなきゃ寝る時間が遅くなっちゃう!


 母譲りの金混じりの私の髪は長く、乾かすのにとても時間がかかるのだ。

 ドライヤーで、がーっと乾かせる男子が羨ましい。


 _______________


 お風呂を上がって寝る準備を済ませた私は再び、にっくきVRヘッドセットに向き合う。


 あれだけ手間がかかったのだ。楽しくなかったり、誇大広告だったらボロクソレビューを書いてあげよう。


 スマホとゲームを連動設定を済ませ、ヘッドセットを被る。


 そして、


起動ウェイクアップ


 ゲームは立ち上がり、私は眠りに落ちた。


 _______________


「お早うございます、起きてもらえませんか?」


「う…ん?」


 起き上がった私は、声をかけてくれた人を見る。


「おはようございます、ご気分はどうでしょうか?酔いのような感覚はございませんか?」


「ありがとうございます。大丈夫です。」


 声をかけてくれた人は女の人で、整った目鼻立ちで『出来る女性』といった雰囲気を感じさせる人だった。


「面倒なセッティングをお願いしてしまい申し訳ございませんでした。お疲れ様です。」


「あぁ、大丈夫です…ここは本当にゲームの中なんですか?」


 にっこりと笑って女性は告げる。


「はい、ようこそ『VR オンライン』へ 」


 …全く現実とおんなじ感覚でゲームキャラと話せている。


「すごい、夢みたい。本当にSFのゲームね……」


 本当に本当の夢のようなゲームに

 驚きを隠せないでいる。


「お気に召したようでなによりです」


 嬉しそうに微笑む女性に一瞬見とれてしまう。



 _____________


「申し遅れました、わたくし キャラクター リメイクを担当させていただきます。メイカと申します。」


「あ、よろしくお願いします。私は、小山内おさない あずさです。」


 感動で自己紹介がまだだったのは私も同じで、メイカさんが言い出してくれてよかった。


「梓様ですね。よろしくお願いいたします。」


「よろしくお願いします。」



「さて、ご挨拶が終わりましたので、キャラクターを作っていきましょう。このゲームは現実の梓様とリンクしてキャラクターを作成いたします。」


「よろしくお願いします」


 今いるこの空間はメイカさんと私しかいない白い部屋だ。

 真っ白ゆえに感覚がつかめないが、広さはかなりある。


 鏡など顔を確認出来るものはないけれど、身体に特に違和感はない。


「今後、貴方はEARTHと呼ばれる星で冒険をされます。その星には『スキル』があります。キャラクターリメイクにてそちらを編集出来ます。『種族』の変更も可能になります」


「『スキル』と『種族』の編集だけですか?」


 こういうゲームはアバターを自由にいじれる物だと思ってたけど…ちょっと背を伸ばすとか、たりないぶぶんかさ増しとかは出来ないのね。


「…スキンの変更も出来ますが体格の変更は出来かねます。現実リアルでのトレーニング、及び成長にご期待下さい。」


「わかりました。」


「まずは『種族』を選択してください。」


 ホログラフィックのウィンドウが、目の前に表示され。


 ざっと目を通す。


 …二択かなぁ。


 _______________


【種族:ヒューマン】


 説明:

 EARTH世界に蔓延はびこる優勢種族。一匹見たら70億はいると思え。

 能力値は平々凡々なれど油断ならない

 変数かのうせいを秘めている。


 STR(力):標準

 INT(知力):標準

 DEX(器用)標準

 AGI(敏捷)標準

 MIN(精神):標準

 VIT(頑強):標準

 SP(スキルポイント):高水準

 VAR(拡張性):高水準


 種族特性:

 全スキル獲得可能


 _______________


【種族:ハーフリング】

 説明:ヒューマンの変異種。

 幼稚な思考回路を持ち、成熟しても精神面の成長が無い。

 幼い頃の無自覚の残虐性を残して成長する為攻撃スキルが多彩。


 STR(力):やや高水準

 INT(知力):やや低水準

 DEX(器用)標準

 AGI(敏捷)高水準

 MIN(精神):低水準

 VIT(頑強):やや低水準

 SP(スキルポイント):標準

 VAR(拡張性):標準


 種族特性:

『斬』『突』物理攻撃スキル獲得コスト軽減


 _____________


「ヒューマンかハーフリングかなぁ。」


「この空間内でしたら、再選択可能です。一度選んでみますか?」


「お願いします、ハーフリングからで」


「かしこまりました、完了です。」


 そうして、私はハーフリングになったらしい。背が低めなのは元からだし、変わった感じは余りない。


「どこか変わりました?」


「耳が少しだけ尖ります。他は特に変わりはありませんよ。」


「うーん…かなぁ…」


 ちょっと動いてみた感じ、心なしか身体が軽い。AGIが高水準な設定だからだろうか。

 これを味わうとヒューマンに戻りたく無い気もする。


「…じゃあ、種族はハーフリングでお願いします!」


「かしこまりました、ハーフリングで設定します。」


「種族も決まりましたし、『スキル』に行く前に外見のスキンを変更しませんか?」


「あー、すみません。外見はそんなに弄りたくないのですが…」


「リアルのままですと、あまりオススメは出来ませんが…いえ、いけますね。」


「?…いけるとは?」


「このゲームは外見を変更する際にDNAを元にという仮定を作って変更することが多いのです。」


「元々ハーフの人も周りみんなハーフに弄るので紛れるってことですか」


 そう、私はイギリスと日本のハーフだ。


 そして、母は私が小さい頃に他界している。

 イギリス人だった母の色を色濃く引き継いだ髪や目の色は余り弄りたくはない。


 ちょっと美化したい部分もあるけど、そのままでいいと思える程度には今の私を気に入っている。


「強い思い入れがあるのですね。かしこまりました。スキンの変更はスキップします。」


 _____________


「続いてスキルの設定に移りますが、ゲーム内でのお名前をお伺いしてもよろしいでしょうか?」


「あ、考えてなかった……『AZ』アズでお願いします。」


「かしこまりました。登録完了、こちらがAZ様のステータスになります。」


_____________


【Name:AZ】


種族:ハーフリング


 LV:0


 HP:103

 MP:104


 STR(力):7

 INT(知力):3

 DEX(器用)5

 AGI(敏捷)10

 MIN(精神):1

 VIT(頑強):3

 SP(スキルポイント):75

 VAR(拡張性):75


 スキル:【未設定】 


_____________


 おぉ、ゲームっぽい!


「確認頂けましたか?それでは、スキルの説明に入ります。」


「お願いします」


「このVRオンラインの世界にある、『スキル』は『アクティブスキル』、『パッシブスキル』の2つの『システムスキル』と『オリジンスキル』いわゆるユニークスキルに別れます。」


 ユニークスキルを自分で作れるのね。


「スキルポイント、SPを消費して獲得するのが『システムスキル』になります。

 そして『オリジンスキル』はプレイヤーの『創造』するスキルになります。『創造』のキャパシティを決めるのがVAR(拡張性)のステータスです。

『オリジンスキル』は一度創造すると消せませんので、VARの上限を意識しながら計画的に『創造』してください。」


「また、VARは各種ステータスのパラメーターに振り分ける事も可能になります。一点突破のスキルを作るも基礎ステータスを伸ばすも貴方の自由になります。」


 難しそう…


「難しそうだと思いましたか?

 ご安心下さい。プレイヤーの最初のスキルはこの『オリジンスキル』を作ってもらう所からスタートになります。」


 ありがたいわね。


「『オリジンスキル』はここや、街の教会で基本的に作成が可能です。作成ルーム内にいる限りはスキルが確定されないので作り直しが可能ですが、部屋から『オリジンスキル』として確定しますので、課金アイテム以外では取り消し不可能となります。」


「スキルを構成する要素は主に2つ【行動】と【効果】になります。例えば」


 メイカさんは言葉を切り、おもむろに指パッチンを鳴らす。


 パチンッ ボワァッ


「私が発動したスキルは指をならすという【行動】とMP消費5で火属性ダメージ小の火を生み出す【効果】で構成されています。」


 おぉぉぉ!?


「コストは【行動】がコンパクトだったり、発動が速い物ほど高く。【効果】は高威力、高効率の物ほど当然高くなります。それらの合算がスキルの作成コストになりVARからマイナスされます。」


 すごい!魔法みたい!


「すごいですね!」


「ありがとうございます。こちらのコストは【行動】フィンガースナップが500【効果】MP消費5火属性ダメージ小で500のトータル1000VARになります。」


 お高い!?


「…高いですね」


「手軽に発動が可能なフィンガースナップが高いのはもちろんですが、こちらのスキルにはクールタイムを設けておりません。

 つまり」


 パチンッパチンッパチンッパチンッパチンッ

 ボボボボボボワワワッッ


「MPの続く限り、かなりの効率で発動が可能になります。」


 強いから高いのね。

 私はどんなスキルを作ろうかな。


「どうやって作っていけばいいでしょう?」


「要素を順番に作っていけばよろしいかと思います。

 まずは【行動】の要素から。

 1番有名どころでは『詠唱』も【行動】として適用されます。長ければ長いほどコストを減らせます、その分【効果】にコストを割けますね。」


 おぉぉぉ!!


「詠唱呪文を考えなきゃ!」


 父の職業もあり、沢山のゲームに触れてきた。


 私の厨二力よ、うなれ!


 …一時間後…


「どれも、しっくり来ません…」


「困りましたね…気分転換に先に【効果】を考えてみますか?」


【効果】…そうだなぁ。

 魔法みたいな攻撃的なモノをイメージしてたけど、よく考えてみるとこのハーフリングのときも感じた身体の軽さが補正される感じだと嬉しい。


「身体強化系というか身体が軽くなるといいなと思います。」


「なるほど、風とかそういった文言ですかね」


「風だと気がします…」


 軽やかなイメージは『風』だけど、違うモノを使いたい気がしてならない。


「『風』『雲』…いや、『積乱雲』?」


 唐突に過去の光景が頭をよぎる。

『積乱雲は冷たい風や暖かい風が混在してて寒暖差で気流がすごくて、中は大嵐になってるんだって~

 その積乱雲から生まれる激しい……』

 夏の空に浮かぶ積乱雲を見て、お母さんが呑気な声でそういった事を言っていた。


 その瞬間、言葉が頭に浮かんだ


『私は風にあって風にあらず。

 雲であって雲にあらず。


 私は極寒の突風を内に秘め、

 日の熱量を飲み込む。


 渦巻き、混ざれ、雷光を成せ。

 渦巻き、混ざれ、つぶてを成せ。


 雹をもってあまねく全てを罰し、

 雷鳴とともに去るであろう。


 畏れよ、道を開け

 私を見上げろ


 私こそが

 雹嵐ヘイルストーム


 自然とうたわれたそれに

 私自身が驚く。


 メイカさんも驚いている。


「…素晴らしい詠唱、【効果】は…あら?」


 私の身体を冷気が包み込み、脚は雷光のようなエフェクトを纏っている。


 無性に駆け回りたいような衝動に駆られて

 私は走り出した!

 ビュンと白い空間を駆け回ると

 足が地面に着く度に雷光の強さが増してくる。


 そうして、走り回っていると

 脚の雷光がむずむずしてきたので


 ピッシャァァン ドぉぉぉオン


 閃光と轟音、まさに雷鳴。


「…なんですか?これ?」


「おめでとうございます!貴方の詠唱に込められた想いがスキル効果になりました!」


『システムメッセージ:『オリジンスキル』《雹嵐ヘイルストーム》を獲得しました』


 _____________


雹嵐ヘイルストーム


【効果】総合AGIを三分間2倍にする。

 物理攻撃に氷属性付与。

 歩数に応じて脚部に雷を蓄積する。

 雷は脚を使った攻撃時に解放。

 雷解放にて残り時間に関わらず効果

 を終了する。

 クールタイム30分


【行動】詠唱必須

 詠唱時に他の行動不可。

 発動後は1秒以上の停止不可。


 VARコスト50

 _____________


「わ、わぁい?」


 私が手にした最初のスキルはどうみても

 ぶっ壊れスキルだった。



 _____________


 しばらくスキルの効果を読み直したり

 呆然としたけど、戻ってくることができた。


「スキルが出来たしもう、これでチュートリアルは終わりですか?」


「お望みとあればモンスターを召喚しての戦闘訓練が可能です。

 しかしながら、アズ様のスキルはあと30分使えません。

 また、この空間にて出せるモンスターは最初の草原にいるモンスターに限ると修正が入りましたので、うま味はそこまで無いかと思われます。」


「なるほど、じゃあ大丈夫です。」


「かしこまりました。

 アズ様ともそろそろお別れのお時間です。

 名残惜しいですが送り出さねばいけません。」


 メイカさんがヒールでコツコツと地面を蹴ると床からジャキンと硬質な音を立ててドアが生える。


 緑のプラスチック系の素材で人が逃げるようなマーク。その隣には『EXIT』の白い文字。金属の冷たい質感がする銀色のノブと 錆びの匂い。



「このドアが『始まりのドア』チュートリアル空間からEARTHへの出口です。」


 朗々とメイカさんがうたい上げる。



 このドアを過ぐれば灰の都あり、

 ドアを過ぐれば夢現の別離あり、

 ドアを過ぐれば虚構の民あり

 人の人足るは尊き造り主を動かし、

 混沌なる意思、理性なき智慧、

 生命への渇望、ドアを造れり

 最終確認、決意の証明、

 しかしてドアはあまねく人の前に立つ、


 人よ、ここに入るもの己の欲望を持て




 詠い上げた メイカさんが息をつく


「ふぅ、創造主から全てのプレイヤーへチュートリアル終了時に送るメッセージです。色々伝えてますけど、最後が特に重要だそうです。」


「『この私が創った世界なんだから、各人が楽しいと思える事を全力でして欲しい。中途半端に、だらだらとログインするんならソシャゲでもやってろ』それを伝えてプレイヤーの意思を問うドアです。


 アズ様はどうされますか?」


 少し考えて、メイカさんの横に立ち

 ヒンヤリとしたノブに手をかける。


「せっかく、お母さんの想い出が面白いスキルになったし。駆け抜けてみます。」


 振り返り、伝えると

 メイカさんが微笑みながら手を振ってくれた。


「素晴らしい回答です。いってらっしゃいませ。他の担当わたしに自慢出来る、珍しい体験をさせて頂きました。ありがとうございます。」


 お互いににこりと笑って。


 がちゃりと回す。


「いってきます。」


「いってらっしゃいませ。」


 光溢れるドアへ駆け出した。

 どんな景色が待ってるのかな?


 光に包まれ、一瞬世界が暗転した。


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