第5話
老人の家に泊めてもらって数日が経った。その間にいくつか気付いたことがある。まずこの家には老人以外に人がいたであろうという事。過去形なのは、この家にはベッドや椅子が3つずつあるが、今は老人しかいないことと、子供服がやけに小さい事。そして・・・
ガタッ
ある日、僕は物音で目が覚めた。まだ日が完全に登る前なので辺りは暗いが、老人が動く気配がする。
(こんな時間になんだろうか?)
そう疑問に思っていると扉が開き老人が外に出ていった。少し気になったのであとをつける。老人は家を出て井戸のほうに歩いていく。しかしその手に桶は持っていない。やがて井戸を通り過ぎそのまま家から遠ざかっていく。どれほど歩いただろうか。草原を抜けると海が見えた。どこまでも広がるその海をバックに、ぽつんと墓がたっていた。老人の目的地はそこだったらしい。墓の前で立ち止まると両手を合わせ祈りをささげる。なんだか老人に気付かれないようにあとをついてきた自分が恥ずかしくなる。
ジャリッ
どうやら動揺が行動に表れたらしい。その音で老人がこちらに気付いた。老人が少し驚いて見せる。しかし老人は何も言わず、僕も話を切り出すことが出来ない。話を切り出したところで言葉は通じないのだが。結局沈黙が場を支配し、いたたまれない気持ちになる。
(せめて僕も祈ろう)
そんな罪滅ぼしのために祈ろうとしたが、左手がないので祈ることが出来なかった。なくなった左手を見ていると今度は老人のほうがいたたまれない気持ちになったようだ。何も言わずにこちらの手を引き家までの帰路につく。帰り際、草原に僕の左手を食った化け物がいた。忌々しい存在であり、その化け物を睨んでいると老人が憐みの目を向けてくる。その目線の意味は分からず、すぐに化け物に意識を戻す。
(そういえばあの化け物は図体がでかいのに、なんで僕は気付けなかったんだろう)
そんな疑問が浮かぶ。こちらに来てから分からないことの連続だ。いくら考えても答えなどでず、思考の海に沈んだどころで光は見えず永遠に沈んでいくだけ・・・。今は分からないことだらけだけど、今は老人と共に暮らそう。老人と共に過ごし時間を共有する過程で、この世界のことを少しづつ知っていこう。そう心に決めた。
_____
着火の魔法
「この着火の魔法を唱えると火が発生する。これで火打石ともおさらばである。もし着火の魔法の紋様を施すと、その施されたものは火達磨になる。ちなみにこの魔法は火の精霊に嫌われていると使えないので、読者諸君はきっぱりと諦めるよーに」
カカの魔法辞典改訂版
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます