7月3日(金) 曇りのち雨

 風を通そうと部屋のドアを開けて仕事をしていると、このところ下の子がリビングからハイハイをしてきては、「私が来ましたよ」と言わんばかりの笑みでままならない言葉を発しながら僕のところへやってくる。

 視線の高さが調度良いのか目につくのか部屋の入口に積んである読み終えた本の中から、何故かいつも村上春樹のアフターダークに手を掛けようとするのだが、それに触れようとするところで妻に捕獲されるように連れて行かれるというのを繰り返している。

 上の子がこれくらいの年頃の頃には当然毎日オフィスへ出社していたため、この頃の印象は薄い。まったく記憶に無い訳ではないし、過去の写真を見返すと着ている服や髪型でこれはいつ頃の写真だというのは割と事細かに記憶をしている方だと思うが、やはり何でもない日常の中で接していると、ひとつひとつ出来るようになっていくことにも気づきがある。

 バイバイと手を振ったり、手を叩けるようになったり、テンション高めの時はハイハイがスピードアップするなどもそうだが、この所振り返ると捕まり立ちをしていたり、観葉植物へ伝え歩きをしては手に掴んだ葉を千切ろうとしている。その度にすんでのところで妻に抱きかかえられては玩具の置かれた定位置まで連れて行かれるのを繰り返す。


 上の子に誕生日は何をしたいかと問うと「パパとママと3人で過ごしたい」と言い、流石に0歳児を放置は出来まいと返すと、「仕事を早く終えてお酒を飲まずに何処かへ連れて行って欲しい」と言う。何のことを言っているのかと考えてみると、昨年の2人で過ごした誕生日に食事を取った駅前のファミレスのことを言っているようだった。

 上の子は最近生意気なことを言ったり、反抗的な態度を示したりもするようにもなったが、事あるごとに2人で過ごした昨年のこの頃の話題を出して来たりする。上の子にとっても印象深い日々だったのかも知れない。


 確かにそんな日々も毎日酒をのみ、家事の合間の買い出しにも水筒にレモンサワーを入れては持ち歩き、幼稚園の迎え後に向かう妻の病室でも水と見せかけて水筒のレモンサワーを飲んでいた。

 振り返ると自分で嫌になるのだが、車を使わず出掛ける際は上の子を抱っこ紐で抱えながらいつも手元には氷結ストロングがあり、ベビーカーを押している際も常にそんな状態だった。マンションでは「旦那さんいつもストロング缶持ってますね」と幼稚園のママ友に言われると妻が言うのだが、妻はそれについて僕を咎めるようなことなかった。

 そんな様子で二日酔いで有給を全て消化してしまうことが何年か続き、酒量を抑えなければ健全に生きていられないことに何となく気付き、昼間から飲んで休日を台無しにしてはならぬと、ようやく出先でも飲み步く日々から抜けられた。自宅もしくは居酒屋などで夜だけ飲むに留めることが出来るようになったのはここ2年くらいの話だ。

 仕事を終えても最寄りのコンビニから帰りの電車、自宅へ帰って夕食を取る間もアルコールが途切れることはなかったし、いくら二日酔いで酒なんて二度と飲まないと苦しい思いをしながらも、夕方には唾液腺から氷結ストロングレモンの味がするような気がして何事も無かったかのようにまた最寄りのコンビニへ駆け込む日々だった。


 週初めに届いた大きなスイカは今年は妻がやはり四等分に綺麗に切り分けて、近所の友達に分けていた。仕事を一旦切り上げて子供達を風呂に入れようとキッチンを覗くと、ダイニングテーブルでスイカを貪る上の子の顔が必死だった。日々の成長や変化と言う面では上の子にも同じことが言える。

 身体に対してまだ大きなランドセルを扱う手元はやはりまだどこかぎこちなく、生活の上での行動の範囲が広がって逞しくなったようにも感じるし、反抗的な態度をいくらとってこようが靴下のがらはピンク色の猫だ。登校時に家を出る際の緊張した表情は最近いくらか和らいできた。

 リラックスさせたくて荷物を全て背負って仕度が出来た時に両手で脇を抱えて高い高いをして送り出す。下の子に同じことをやると高いところを怖がってやはりまだ半べそをかくのだが、試しに毎日繰り返している。

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