第17話 チャンスを掴み取れ
その場にいた魔族達が隻腕になった同志に駆け寄ってくる。特に一番前のめりだったのはアスモデウスだ。先程よりもずっと取り乱し、マモンの上半身を抱いた。
「マモン! しっかりしなさいよアンタ!! ど、どうして腕が……」
「お、
マモンらが乗って帰ってきたドラゴンの正体はどうやら竜人族らしい。皆が人型へ戻って、傷ついた身体を休めている。エレナは魔王に地面へ下ろしてもらい、マモンの有様に言葉を失った。アスモデウスがそんなエレナを鋭く睨みつける。怒りで頬に鱗が浮かび上がっており、竜化しそうであった。
「どうだ小娘! これが人間だ! これがアンタ達だ! アタシの大切なものを次から次に奪って満足か外道!」
「…………、」
エレナは唇を噛みしめた。そうして、一歩ずつマモンへ近づいていく。アスモデウスは牙を剥き威嚇した。
「近づくな人間! これ以上、アタシの親友に近づくんじゃないわよ!! 近づいたらその喉を食いちぎってやる!!」
「アスモデウス! お前──っ、」
魔王が怒鳴る。しかしエレナが魔王を制すように首を振りながら微笑んだ。こちらを見る魔族達を見渡し、エレナは拳を握りしめる。何かを察したルーがエレナの足にしがみ付き、必死に鳴いた。
「──チャンスをください」
エレナが頭を下げる。アスモデウスは唖然とした。勿論、周りの魔族達も。
「私の後釜が、あなた達を攻撃したことは謝罪します。チャンスをください。その責任を取るチャンスを」
「……。……はっ、何を言い始めるかと思えば! チャンスだと!? 人間のアンタが!? 魔法も使えないアンタが!? ふざけるのも大概にしなさい!! マモンの腕を生やしてでもくれるってわけ!?」
「分からない。でもやれるだけやりたい」
エレナはマモンの傍に来ると、ゆっくり膝をついた。そうして再度頭を下げる。魔王がエレナの名前を呼ぶが、エレナは動かなかった。地面に額をつける。
「……簡単に
「……っ、だから、アンタに、何が……っ」
「そこの竜人よ! さっさとエレナにマモンを渡せ! 手遅れになるぞ! どうせ其方らの魔力供給も賭けに近い上に完治にはならんのだろうが!」
甲高い声が辺りに響く。見ると随分と小さくなったドリアードがアスモデウスの眼前にいた。よく禁断の森に植物採集に行くエルフ達や、食料調達に行くドワーフ達が目を丸くさせる。森の管理者であるドリアードが森を離れることなど前代未聞の事なのだから。
「ドリアードさん! どうして……」
「まったく! 傷ついた竜人達が森の上を通っていったのでちょっと心配して見に来てやれば……やはりこうなっていたか。エレナ、大丈夫か? 其方の考えは分かっている。分かってはいるが……まだレイを治した時の疲労が残っているはずだ。その上で聞いている」
「うん、私は大丈夫。無茶してでも、私は友達になろうと言ってくれたマモンを助けたい! そして今この
「……、……そうか」
ドリアードはやれやれと肩を竦めた。そうして、その場にいる全員に語り掛ける。
「──聞け! 城の魔族達よ! エレナにさっさとマモンを診せるのだ! エレナは治癒魔法が使える! 禁断の森の
「ち、治癒魔法だと!? そんな馬鹿な! そんな奇跡がこの世にあってたまるか!」
アムドゥキアスが信じられないとばかりに声を張り上げる。エレナは一歩前に進んだ。エレナを見て目を泳がせるアスモデウスを真っ直ぐ見下ろす。
「……アスモデウスさん、お願いします。どうか、どうか……っ」
「……っ!!」
アスモデウスはゆっくり己の腕からマモンの半身を下ろした。そうして舌打ちをして、一歩下がる。エレナは噛みしめるようにお礼を言うと、魔王に振り向いた。
「見ていて、パパ。貴方の娘を……」
「!」
エレナはそう言うとマモンの身体をよく見る為に膝をついた。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます