第8話 ストーカー彼氏VSストーカーパパ
さて、この話はゴールデンウィーク最終日、アタシ――
そのまま流れで両親に水上を紹介することになったのだ。
パパとママがソファに並んで座り、アタシと水上はその真正面で向かい合うように床に正座していた。
まるで説教されるように――いや、実際説教されるのだ。
「さて、楓。
「楓ったら、水上くんが好きなのはわかるけど、『監禁してくれ』なんて積極的ねぇ」
責めるような口調のパパとは裏腹に、ママは呑気に笑っている。
「ママ、気にするべきはそこじゃないんだ。僕たちに嘘をついたのが良くないと言っているんだよ。しかもこんなチャラそうな……」
「……」
浅黒い肌に金髪のポニーテールを揺らした水上は、ただただ黙ってうつむいている。
ふと、思い切ったように顔を上げる。
「あの、お義父様」
「君に『お義父様』なんて呼ばれる筋合い、ないんだけど」
「…………楓の、お父さん」
「おや、ウチの娘を呼び捨てかい?」
「……うう……」
パパのいびりはどんどんエスカレートしている。水上は今にもぐずりそうだ。
「ちょっと、パパ? いじめすぎだよ」
「いやぁ、一度やってみたかったんだよ、『うちの娘はお前には渡さん!』みたいなやつ」
やってみたかっただけで随分乗り気である。
「それにしても楓は趣味が悪いな。どう見てもギャル男じゃないか。こんなののどこがいいんだ?」
「顔」
アタシがそう言うと、水上は「!?」と言いたげに涙目でこちらを見る。
まあ水上は最近調子乗ってるし、ここらで懲らしめてやったほうがいい気がする。
「はっはっは、顔かあ。楓は面食いだなあ。まあたしかに顔はいいね」
「あら、パパもイケメンだと思うわ?」
「ははは、ママは優しいなあ」
いちゃついている両親を見ていると謎の恥ずかしさがこみ上げる。
「あの、ええと……楓……さんの、お父さん」
「なんだい?」
パパは笑顔だが目が笑っていない。
「とっておきの写真を献上しますので、なにとぞ娘さんとの交際を認めていただきたいと……」
「ああ、君も写真が趣味なのかい? どの程度の腕か気になるなあ?」
「そんなに期待のハードル上げられても困るんですけど……」
すっかり縮み込んでしまった水上は、ポケットからデジカメを取り出す。……いつもカメラ持ち歩いてんのか? コイツ。
しかもその目的がこちらにはハッキリわかっているのがなんか嫌だ。
「あっはは、君、写真下手くそだねえ。ほとんどブレてるし後ろ姿ばっかりだし
「す……すみません……」
パパの口から『映え』という言葉が出るとは思わなかった。
デジカメの中の写真をスクロールしながら、パパは愉快そうに笑う。どちらかというと嘲笑に近い。
「で? とっておきってどれだい?」
「ええと……これなんですけど……」
水上がデジカメを操作して何かをパパに見せる。すると、パパの表情が変わった。興味深そうに写真を食い入るように見つめる。
「……ふむ。これはいいね。家では見られない娘の姿を見られるのはいいものだ。君にはこの調子で頑張ってほしい」
「で、では……!」
「うん、いいよ。定期的にこういう写真を送ってくれるなら交際を認めてやってもいい。これが僕のアドレスだ」
パパは名刺入れを取り出し、水上に名刺を手渡す。
「ありがとうございます……ありがとうございます……!」
「その代わり、ゴールデンウィークの間みたいな馬鹿な真似をしたら容赦はしないからそのつもりで」
「は、はいぃ……」
そういうわけで、アタシと水上は正式に両親から交際を認められたわけである。
「それで、パパ。なんの写真を水上からもらったの?」
夕食後、アタシはパパに訊ねる。
「ああ、明日にでも写真屋さんで大きめのサイズに引き伸ばして印刷してもらおうと思ってたんだけど、ちょうどいいからプリンターで試しに印刷してみようか」
そう言って、パパはプリンターにSDカードを差し込む。
A4サイズの写真用印刷用紙に印刷されたのは――
アタシが昼休み、お弁当を食べている風景だ。
おそらく友人の
つまりは、隠し撮り写真だ。
「あ、あの野郎……」
「隠し撮りならではの自然体な感じが良いね。水上、とか言ったっけ? あの子の写真にしてはブレもなくマトモに写っているからね。これは貴重な記録だ」
アタシは偉人か何かか?
すっかり呆れたアタシに構わず、パパは機嫌が良さそうだった。
……ま、いいや。水上との交際は認められたし。
問題は今後、どうするかだ。
お試しで監禁されてみたが、水上との監禁生活は、まあ……存外嫌ではなかった。二度と出来ないだろうけど。
でも、結局このままではダメだとも思った。
やっぱりこの世界は間違っている気がする。
アタシは水上ともっと健全なお付き合いをしたいし、できればストーカー行為をやめてほしい。
……やっぱり、水上をキープしつつ、歪んだ性癖を矯正するところからだな。
アタシは決意を新たにしたのだった。
〈続く〉
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