第50話 結局報酬ないんですが?
レイアちゃんが攫われたのは、どうやらここから北東にある古城のようだった。
なんか建物の位置関係まで似ている気がするが、気にしないことにする。
私は目の前にそびえ立つ古城を見上げた。
昔はさぞかし立派な城だったであろう石煉瓦で造られた壮観な建物ではあるが、長い年月手入れ無しで雨風に晒されていたせいか、全体を覆うように蔦が伸び、あちらこちらにヒビが入っている。
中に入るとまず一本道があり、その奥にはまるで迷宮のような内装が広がっていた。
一体何のための城なのかと思うほど入り組んでおり、意味もなく登ったり降りたりさせる階段が設置されている。
しばらく進むと一つの部屋を見つけた。
中を覗くとレイアちゃんをさらった男たちが中でくつろいでいた。
「ここに子供を連れてくるだけで、奴隷として高く買い取ってくれるなんて上手すぎるな」
「まったくだ。しかもそれが一国の王女となると値段が数倍になる。やめられねぇな」
こいつらは後で騎士団長さん報告して捕らえてもらおう。とりあえず、中にはレイアちゃんはいないみたいなので無視して先に進もう。
さらに奥に進むと騎士団長さんがモンスターと戦っていた。
ただし、相手はなぜかただのスライム三体だった。
「はぁッ!」
騎士団長さんの一撃でスライム三体は跡形もなく消し飛ぶ。
なんでこんな弱いモンスターの相手をしているのか謎だが、とりあえず無事で何よりだ。
私の気配に気付いたのか、剣を鞘に納めると同時に彼は振り返った。
「まさかメイドのお前が来てくれるとはな……姫を攫われてしまったことにそこまで責任を感じているということか。わかった、一緒に助けに行こう」
ほぼ自己完結的に納得した騎士団長さんと一緒にさらに奥に進む。
古城の奥には地下へと続く階段があり、降りた先には罪人を捕えるためであろう牢屋がいくつも並んでいた。
「レイア様ー!」
地下は暗く何が潜んでいるかも分からないが、騎士団長さんが思いっきり姫様の名前を叫ぶ。
これで敵とか出てこなければいいけど……。
「ベルゼイア! ここだ、ここにいるぞ!」
レイアちゃんの声が奥の方から聞こえ、騎士団長さんが暗闇の中へと駆け出す。
嘘でしょ!? 真っ暗で何も見えないんですけど!
私は急いで道具袋の中からRPG定番アイテムの松明を取り出し、周囲を明るく照らしてから二人の元へと駆け寄った。
というか、騎士団長さんの名前始めて知ったわ。
「さぁ、後はここから脱出するだけです!」
ベルゼイアさんがそう言って階段に戻ろうとした時だった、その行く手を阻むように多数のモンスターが姿を現わした。
「ぬぅん! メイドよ、レイア様を連れて先に行け!」
「わ、わかったわ」
ベルゼイアさんの一撃で開いた突破口を、私はレイアちゃんの手を引いて駆け抜ける。そして、その後を追おうとするモンスター達は当然彼が阻止してくれる。
階段を上り真っ直ぐに出口へと向かう。
さぁ、この一本道を抜ければ――。
そう思った瞬間私は足を止めた。
この先にはきっとアレがいる。いや、同じモノがいるはずはないのだが、おそらく強敵に違いないだろう。
「レイア様、ここに隠れていて下さい」
「な、なぜだ。もう出口はそこだぞ」
「あの先には恐ろしい敵がいます。なので、私が先に行ってお掃除をしてきます」
メイドだけに。
レイアちゃんを出口前の物陰に隠し、私は一人で一本道を進む。
案の定、怪しげな何者かが待ち伏せしていた。頭巾から法衣まで全てピンク色の気味が悪い魔導師だった。
「ほっほっほっほっ。ここから逃げ出そうとはイケない子達ですねぇ。おや、一人足りないような気がしますが……」
魔導師がキョロキョロとあたりを見回したかと思うと、いきなり私に向けて目を見開いた。
「まぁ、あなたを奴隷にしてから聞き出せばいいでしょう!」
何か仕掛けてきた!? と思ったのだが、しばらくしても何も起きなかった。別に私の体にも異変はない。
「さぁ、王女の居場所を教えなさい」
「――なんで?」
「な・ん・で!? 何でと言いたいのは私です! なぜ私の洗脳が効かないのですか!?」
あぁ、洗脳と言うことは精神系かな? とすれば、耐性を150%持っている私に通用するわけがない。
「そんなものは通用しないわ」
相手のスキルを無効化出来るのだ、少し挑発ぎ気味に強気に言い放つ。
「ならば少々痛い目を見てもらいましょう。私は魔王信教の幹部が一人、爆炎の魔術師――ゲロ!」
いや、名前ひどっ!
完全にパチモンな上に名前まで酷いとか逆に可哀そうになるわ!
さて、相手がその気なら私も本気で行こう。
防具をメイド服からいつもの『白銀の鎧』に戻す。アクセサリーはもちろん『漆黒の外套』、そして武器は当然『死神の鎌』。
「ん? あれ、それ私の武器じゃありませんか?」
ゲロがなんかそんなとぼけたことを言い出す。
そんなことは知りません。これは私の武器。あなたのような怪しい桃色魔術師が持つ物ではなく、死神の私に相応しい武器です。
「まぁいいでしょう。武器など関係なく滅びなさい――ダーク・フレイム!」
ゲロの両手からいきなり放たれる黒い炎。いきなりのことに反応出来なかった私は、その攻撃を正面から受けた。
黒い炎を受けながら私はダメージログを確認する。
そこには新しいログは何も出てこなかった。
「あー、それ闇属性? ごめん、私闇属性効かないんだよね」
漆黒の外套は闇属性防具であるため、聖属性には弱いが同じ闇属性は無効化する。
「ぬぅっ! ならばこれでどうです! 私の得意とする最上級炎魔法――」
ゲロの手の中に強大な炎の塊が生成される。それは徐々に大きさを増していき、彼の姿が見えないくらいまでに膨らんだ。
そして、それが放たれる――。
「食らえ! ヌラゾーマッ!!!」
「結局パチモンかーい!」
私はとぼけた魔法へのツッコミと言わんばかりに、迫りくる大火球を横なぎに斬り裂き、そのまま突進してゲロに一撃を与える。
「中々やりますね。ですが、魔王信教は不滅です! げぐぁーっ!」
よく分からない捨て台詞を残し、ゲロは消滅してしまった。
あれで倒すつもりはなかったのだが……どうやら自分で思ってるよりも、私ってかなり強いの、かも?
「おぉ、待ち伏せしていたモンスターまで片付けるとは、ただのメイドにしておくには惜しい逸材だ」
いつの間にかすぐ近くまでベルゼイアさんが来ていた。その横にはレイアちゃんもいる。
「さぁ、今度こそ城に帰りましょう」
「でも中々楽しかったわ。帰ったらお父様とお姉様にお話ししましょう」
「そ、それはご勘弁くださいレイア様っ」
二人は並んで城の出口へと歩みを進める。
さて、私も帰ろうか――とした時、ふいに目の前にメッセージが現れる。
ああそういえば、クエスト達成の報酬かな? 前のミニゲームでは報酬なかったし、期待していいよね!?
意気揚々と現れたメッセージを読み上げる。
『まさかアレを倒してこのクエストをクリア出来る人がいるとは思わなかったので、報酬はまだ用意していません。ごめんちゃい! 用意出来たらメールで送るから待っててね(ハート)』
「な、なんですとぉーーーーーー!!!」
絶対後で文句送ってやるぅ!
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます