第18話 ダンジョン:星屑の崖 その2(エアリー視点)
今、私は所属するギルド、『星天旅団』のメンバーと共に、最近よく来ている狩場に来ていた。
星屑の崖というダンジョンで、この地域の名前が付いているだけで、中は普通の石レンガで作られたダンジョンだった。
全12階層で下に行くほど敵が強く、私達は6階層でいつも通りレベル上げをしていた。
前衛はサヤカ。職業はファイターとプリーストに就いていて、基本は壁役だが、いざという時は回復も出来る頼れるお姉さんだ。
回復はアグネス。職業はプリーストとマーチャントで、ただの癒し系お姉さんではなく、ギルド内のお金の管理もしている。ちなみに、リアルでもそういう関係の仕事をしているせいか、お金に関してはかなり厳しい。
後衛は私こと、エアリーともう一人、ゆうなが担当している。
私はアーチャーとシーフで、ゆうなはマジシャンとディフェンダーだ。マジシャンは他のゲームでも良くあるように死にやすいが、ディフェンダーのパッシブスキルに身を守る物が多く、彼女の場合はあまりサポートしなくても死なない。
私達はいつも通り、敵が湧きやすい7階層へと続く部屋の、一個前の部屋で狩りをしていた。
だが、突如聞こえた聞き慣れない地面を響かせる大きな足音に、皆の意識は7階層へと続く部屋の方へと向いた。
「なッ! 嘘でしょ!?」
先頭にいたサヤカが一番初めに驚きの声を上げる。
隣の部屋から姿を現したのは、頭部が牛の頭をした二足歩行のモンスター、いわゆるミノタウロスだった。
だが、こいつは普通のミノタウロスではない。このダンジョンの中間ボス的存在で、この6階層に定期的に現れる。出現タイミングはランダムで30分間限定。会おうと思って会えないし、会いたくない時に会うこともある。
ズモォォォッ!!
ミノタウロスが部屋の中に入ると同時に、右手に持った戦斧を振り下ろす。
「クッ! おい、一撃がでかすぎて受けきれないぞ!」
サヤカが左腕に付けた盾で戦斧の一撃を受けながら、こちらに向って叫ぶ。
盾で攻撃を受け止めたとしても、防御力として受けきれないダメージは普通に食らってしまう。
「ヒール!」
アグネスがすかさずサヤカのHPを回復する。
「アローレイン!」
今度は私がスキルを放つ。
ミノタウロスの頭上に放った矢が空中で分裂し、無数の矢の雨となって降り注ぐ。
普通は多数の敵に対して使うものだが、的が大きければヒット数が上がり、ダメージ倍率は高くないが、普通に高ダメージを狙える。
一発1116とそれなりのダメージは出ているが、ミノタウロスの頭上に出ているHPバーは数ミリしか減っていない。
「ヘル・フレイム!」
畳み掛けるようにゆうなが炎魔法を放つ。
マジシャンが使える炎魔法としては、最上位のものだ。
5419といいダメージが出たのだが、それでも私と同じ数ミリほどしか削れていない。
ミノタウロスのHPゲージに対する割合で表すと、それでやっと1、2%減ったかどうかくらいだ。
それほど耐性が高いわけではないが、HPがやたらと多いといった印象だ。
「私がなんとか受けるから、その間に頼むよ」
「わかりました! ヘル・フレイム!」
ゆうながサヤカの背後、ミノタウロスの攻撃に巻き込まれないくらいの位置に付き、立て続けに炎の魔法を放つ。
「私は周りの敵メインにするわね。アローレイン!」
ミノタウロスと戦いながらも周囲に敵は沸き続けるため、私は広範囲攻撃で周囲の敵を倒すことに専念する。
アグネスは主にサヤカのHP回復に専念し、他の人がダメージを負った場合は、逆にサヤカが回復役をしている。
だが、やはり二人をミノタウロスに取られるのは厳しく、普通のモンスターすら倒し切れず、だんだん戦況は苦しくなってくる。
アグネスにはMP回復薬を使ってもらいながら、ひたすらヒールを使ってもらっているが、無くなるのは時間の問題だ。
このままでは倒しきる前に、こちらの消耗が限界を迎える。
「エアリー、このままだと……」
アグネスが私にだけ聞こえるように呟く。
もうこの辺が限界か。
ミノタウロスのHPはまだ9割くらい残っている。火力はゆうな頼りだが、彼女のMPもアグネスと同じく回復薬が尽きたら終わりである。
「サヤカ、ゆうな、撤退し――」
「おい、あんたら大丈夫か? 手伝っていいなら手伝うぜ」
隣の部屋で戦っていた人達が、何事かと様子を見に来たようだ。
まさに渡りに船。この助けを断る理由はない。
「ええ、ぜひお願いするわ」
「おっけー。お前ら、やるぞ!」
『おぉー!』
リーダーらしき男の人が声を高らかに叫ぶと、他の仲間達も同じように大きな声を上げる。
「加勢するぜ!」
真っ先に飛び出しサヤカの横に付くのはリーダーらしき男の人。前衛職らしく一緒にミノタウロスの攻撃を引き受けてくれた。
「プロテクション!」
その動きを見てすかさず防御強化魔法を放つのは、プリーストっぽい女の人。
「エアロ・ブレイズ!」
周囲のモンスターを片付けるべく、風の魔法を放つのはマジシャンの男の人。
なかなか連携が取れているいいパーティーだ。私達と同じように同じギルドの仲間なのかもしれない。
でも、これで私達の負担は軽くなったため、最悪の自体は回避できたと言える。
ただ、ミノタウロスのHPを削り取れるほど、高火力な人はいないようだ。
やはり、長期戦になる――そう覚悟した時だった。
私の横をかなりの速さで駆け抜ける影があった。
「ヘヴィ・スマッシュ」
追加の助っ人だろうか、スキルを発動すると同時に真っ赤な斧を振り下ろす。
「なっ……!」
一瞬の驚きに、思わず声が詰まった。
私達が与えたダメージ以上のものを、その人は1撃で削って見せたのだ。
斧は攻撃力の高い武器や、ダメージ倍率の高いスキルが多いため高ダメージが出やすい。だが、今の移動速度を見るに、AGIにも相当振っていると思われる。私のレベルが今62なので、90後半かもしくは2次職の人かもしれない。
そしてなによりも目立つのは、顔に付けた般若の面。
基本的にゲーム開始時のキャラメイキングで理想の姿を作れば、顔を隠すようなことはないはずなのだが……?
そんな強面の顔とは違い、髪は薄い赤色の髪を頭の天辺でポニーテールにしている。
でも、とりあえずこれで一安心だ。
先ほどの動きを見て、私は彼女ならミノタウロスを倒せると確信した――。
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