第87話  糸魚川君もちょっと素敵かな……

「にゃあ」


 リアル=真君が足元にすり寄ってくる。

 保安官たちの前で喋るわけにはいかないからね。

 あたしはリアルを抱き上げた。


「瑠理華ちゃん」


 おばさんもこっちへ…… あ! 


「何者!?」


 保安官から銃を向けられた。


「あの、この人は悪い人じゃないんです」

「誰なんです?」


 うう……やばい!! おばさんがここでやろうしていた事知られたら……


「彼女は潜入捜査官だよ」


 その声は背後からだった。

 見ると背広姿の中年男性。

 ちょっとイケメンだけど、なんか偉い人みたい。

 他の保安官が敬礼している。

 おばさんも呆気にとられていた。


「おばさん。潜入捜査官だったの?」

「え? いえ……その」


 しどろもどろになるおばさんに不意にイケメンが顔を近づける。


「そうですよね」


 おばさんの顔に驚愕の表情が現れる。


 どうしたんだろ?


「父さん!!」


 糸魚川君がやってくる。


 え? 父さんて……


「なんで、こんなところに?」

「なんでって、私はこの作戦の指揮官だ。現場に出てきて何が悪い」

「いや……指揮官というのは、常に自分だけ安全なところにいて、部下に危険なことをやらせるのが仕事だろ」


 糸魚川君、それ偏見。


「何を言う。私は常に「謀略は誠なり」の精神でこの仕事をやっている」

「また、わけの分からないことを」


 糸魚川君のお父さんは不意にあたしの顔をのぞきこんできた。


「な……なんですか!?」

「ふむ……可愛いお嬢さんだな」

「え?」


 そこへ、おばさんが割り込んできた。


「ちょっと!! いつからロリコンになったのよ!!」

「違う違う。息子が惚れた女の子がどんな娘さんかと思ってな。なにせ、愛のために組織を裏切りかけたぐらいだからな」


 ばれてた!?


「あの……あたしは別に糸魚川君と付き合う気はなくて……糸魚川君も内調を裏切ってなんか……」

「ああ、みなまで言わなくても分かってる。どうせ、あいつが勝手に惚れて君に付きまとっているだけだろ」

「え……あの」

「そうよ。あなたがいつも、やってるようにね」


 おばさんの声がいつになくコワい。

 糸魚川君のお父さんは、ちょっとだけ顔をひきつらせると明後日の方を向く。


「さて、我々はそろそろ姿を隠さなきゃならん。巡視船の中にはマスコミが待っているからな。晶行くぞ」

「え? ちょっと? 父さん」


 糸魚川君はお父さんに手を引かれ、人間離れした跳躍力で巡視船の飛行甲板に飛び移った。

 直後に小型のヘリが飛び立つ。

 ヘリはあたし達の頭上をしばらく旋回してから去っていった。

 あたしは去っていくヘリに手を振る。

 ヘリが見えなくなってからあたしはおばさんに向き直った。


「潜入捜査官て本当ですか?」

「嘘よ。私の立場を守るためそういう事にしてくれたんでしょ」

「そうですか。でも、そうまでして庇ってくれるという事は、あの人今でもおばさんのこと……」

「やめて! たとえ、そうでも私にその気は全くないんだから。瑠理華ちゃんだって、あの少年忍者のことは何とも思ってないんでしょ?」

「ええ……もちろん」


 でも、糸魚川君もちょっと素敵かな……

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