第85話 小公女の部屋に幸せを運ぶ者

 あたし達は飛行甲板に連行された。

 そこではビデオカメラとかマイクとか撮影機材の設置作業が行われている。

 そして甲板の真ん中では人が蹲っていた。


「糸魚川君!!」

「やあ、美樹本さん」


 糸魚川君の顔は腫れ上がっていた。


 ひどい!! あたしを人質にとって、抵抗できないのを良い事に……彼はその気になれば、こんな奴ら皆殺しにだってできるのに……


「なんなの? 奴らここで何をする気なの?」

「僕とリアルを戦わせようとしてるんだ」

「ええ!? なんのために?」

「日本の工作員である僕の手でリアルを殺させ、その映像を世界中に流そうという魂胆さ」

「糸魚川君。リアルを殺さないで」

「やらないと君が殺される。残念だけど今の僕には、そこのオバさんの隙をついて君を助ける余力がない」

「そんな」


 悔しい……あたしさえ、奴らに捕まらなければ……


「だが、心配ない。もう少しさ。もう少しで小公女の部屋に幸せは来る」


 え? 小公女の部屋?


 どういう意味?


「そうね。希望は残っているみたいね」


 博士……いや、真君のお母さんがあたしの前に進み出てきた。スマホなんて見て、なにしてんだろう?

 ここは圏外なのに……

 リンダが警戒して、あたしの首にナイフを強く押し当てる。  


「リアル!! 私と瑠理華ちゃんを見なさい」


 リアルがこっちに目を向けた。

 すると、おばさんはあたしの前に立ち、リアルの方に顔を向けたままあたしを指差した。


「世界中のみなさん。これが見えますか? こんないたいけな女の子にナイフを突きつけている者達の姿が見えますか? 彼らこそがシーガーディアンです。これこそが自ら正義の使者とうそぶいている団体の正体です。彼らは自分の要求を通すために、なんの罪もない少女の命を危険に晒しているのです。彼らに正義などありません」


 日本語のわからないシーガーディアン達はおばさんが何を言ってるのかわからないでキョトンとしていた。唯一、日本語のわかるハミルトンが駆け寄る。


「博士。何を言い出すんです? 我々を裏切るのですか?」

「先に裏切ったのはそっちよ」

「しかし、ここであなたが何を言っても声はどこにも届かないのですよ」

「本当にそう思っているの?」


 おばさんはスマホをハミルトンに見せる。その画面はあたしの位置からも見えた。

 あたしが映っている。

 カメラの位置は……リアル!?

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