第22話
ある夜のことだった。
幸子は初めての客についた。幸子の客から、幸子のことを聞いてやってきた客だった。
男は若かった。二十七になっていた幸子とさほど変わらなかった。
その年で銀座でひとりで遊べるということは、男は結構な成功をおさめているということだ。
「麗子ちゃんって、テレビ出てなかった?」
幸子の源氏名は麗子だった。
幸子と同時期にデビューし、成功している女優の名前だった。
「え?」
「ほら、あの、学園ものの、先生が寺のお坊さんもしてるやつ。なんってドラマだったっけ?」
客が首をひねる。
幸子は全身の血がすっとひくような気がした。
これまで幸子が芸能活動をしていたことを指摘する客はいなかった。
それだけ自分は「たいしたことない芸能人」だったということだ。それが悲しかったり、くやしかったりしたことは一度もない。
むしろ、この世界に入ってからは好都合だと思っていた。
しょぼい過去ならないほうがいい。
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