第15話
幸子は中学にさえ、ろくに行ってなかった。
いじめがひどかったからだ。
幸子はほとんど学校に行ってなかった。行けなかったのだ。
芸能活動と枕営業に忙しかったし、久々に学校に行けば「売れてないのに芸能人気取り」だとからまれた。勉強にも全くついていけず、それもからかいや蔑みのタネになった。
小さないじめなど幸子には何ともなかった。もっとひどいことを自然と受け入れていたからだ。
しかし、この幸子のいじめを受け入れ受け流す姿勢が事件を引き寄せる。
それは、中二の肌寒くなりはじめた頃に起こった。
その日、幸子はクラスの女ボス猿に、「出る」と噂が広がり、生徒が近づかない校舎の裏に引きずり込まれた。
猿の手下は二人だ。大層なことだ。
手下の二人が幸子を押し倒し、両手を抑えた。
「痛いっ! 離してよっ!」
幸子が暴れるので、二人は抑え込むのに必死だ。
「静かにしなよ」
猿が幸子に近づいた。
猿は幸子の腹にまたがり、幸子の顔を見下ろした。
「たいしてきれいでもないくせに」
「あんたよりましよ」
猿の眦がぐいとあがる。
この猿は醜い。広がった鼻の穴、上下左右の肉に圧迫されつぶれた目、腫れあがったような上唇。
猿が小学校のとき、容姿の醜さからひどいいじめにあっていたのを幸子は横目で見ていた。
かわいそうとも何とも思わなかった。
自分は毎晩のように大人たちにいいようにされていたのだから。
中学にあがりぐんぐんと体を巨大化させた猿は、自分をいじめたものに復讐しはじめた。
それが一通り終わると、猿は幸子に目をつけた。
ないものを持っている者を激しく憎む。
それは幼稚な感情だが、何よりも強い感情だった。
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