第13話

 建てられて五十年近く建っているビルの汚れた壁にはうっすらとヒビが入っている。

 ヒビの周辺には黒ずんだカビがはえ、それは須藤の目の下に刻まれたクマと同じように暗い。

「最後にちょっと付き合ってくれや」

 須藤は床に落ちている書類を蹴りながら事務所を出ていった。

 幸子は少し遅れてついていく。

 須藤が入っていったのは、薄汚れたラブホテルだった。周辺のホテルより二割ほど休憩料金が安い。

 古びたホテルの中に幸子は入っていく。

 これで終わるなら。

 それしか思わなかった。

 須藤と寝るのは二度目だった。小学生だった幸子の体はすっかり変わったものになっている。

 しかし須藤の体に刻まれた変化もなかなかのものだった。たるんだ腹、黒ずんだ臀部、みっともなく膨らみひろがった乳首。

 幸子はそれらをできるだけ目に入れないように、須藤と体を重ねる。

 須藤が入ってくる。性急なのは変わらない(女に対する思いやりやサービス精神がないともいえる)。

 当時は幸子をぎゅうぎゅうに満たし痛みまで与えたモノは、いとも簡単に幸子に飲み込まれた。

 幸子は痛みも快感も、違和感さえ感じない。

 須藤はほんとに小さかったのだ。

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