第10話
幸子がそう思った瞬間、男たちはがばっと幸子に覆いかぶさる。
幸子は恥ずかしそうに顔を反らしながら、陰で苦笑いを繰り返す。
男たちは迷いを口にしたり、愛をささやいたり、幸子の将来を思いやることで、自身の性欲を正当化していた。
そして、そのあとに幸子を存分に抱いた。
だから男たちのささやかな葛藤や抵抗は前戯にすぎなかった。
余計な言い訳をするだけ興奮するのか(背徳感が高まるのか)、やることはテレビの国のオトナたちより、ずっとえげつなかった。
普通の十代が学校で数学や英語や同年代との人間関係を学ぶ頃、幸子はほとんどの女が一生身につけることのない性技をつぎつぎと習得していった。
ありあまる十代の学習欲、知識欲を、幸子はそこにすべて注いでしまった。
男たちは大層喜んだが、幸子にはむなしさしか残らなかった。
知ったのは「文学を語る男ほど、マニアックで助兵衛だ」ということだった。
幸子は何本かの映画に出たが、演技力は皆無なうえに、伸びなかった。
幸子は映画の世界からも締め出された。
「またか」
幸子は他人事のように笑った。何だかおかしかった。
自分の身の上に起こることもテレビドラマや映画の中で起こることも、同じ重みしか感じなかった。
そのころは幸子はもう自分を天使とは感じなかったし、幸子のことを天使という男ももういなかった。
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