骸《スケルトン》教授の影

「ぐおお!」

 逆にアゴを攻撃されて、大砲怪人が吹っ飛んだ。


「今です。コウガ・レイジングキック!」

 跳躍し、コウガが怪人へ足刀蹴りを見舞う。


「なんのぉ。必殺の砲撃を受けてみよ!」

 カメのように、怪人が四つん這いになった。首が固定砲台となって、コウガに照準が向けられる。


「ごほおお。大艦巨砲主義ィイッ!」

 雄叫びとともに、火炎弾が発射された。


 火炎弾とレイジングキックが激突する。


 両者の攻撃によるインパクトによって、凄まじい爆発が起きた。その場で戦闘していた戦士たちはデヴィランの戦闘員たちも、爆風に飲まれる。


『ぬおっ!』

 コウガのキックが、火炎弾を打ち消す。だが、コウガの方も無事では済まない。爆発の勢いで、大きく弾き飛ばされた。 


「必殺技が、効かない!」

 地面に叩きつけられる一歩手前で、コウガは体勢を立て直す。


「コレがコウガの蹴りか! 滾る滾るぅ!」

 大砲怪人が、胸をなでながら高笑いをする。


「これほどのモノノフ、そうそう出会えまいて! 長生きするものだのう! エルフの肉体に感謝じゃ!」

 怯えるどころか、怪人は気分が高揚しているらしい。


「エルフの改造体だけあって、手強いですね」

『あの歳で戦闘狂とはな』

「弱点を探さないと。あの硬い装甲では、レイジングキックさえ跳ね返します」


 こちらも強化されているが、敵も強くなっている。

 適当な攻撃は、反射されてしまうだろう。


「さあ打ってこいコウガ! また返り討ちにしてくれよう……うご⁉」


 勝ち気だった怪人が、ヒザをついた。急に年寄りじみた動きになる。


「あちゃちゃ! ぬう、さっきの攻撃で首が。無理やり対抗したのが災いしたか! 歳は取りたくないのうっ!」


 怪人の首関節に、火花が散った。

 先程まで年齢に感謝していたくせに。


『年寄りなのに、無理をするからだ! トゥア!』

 再度、コウガは跳躍した。蹴りの体勢へ。


「ムダなことを!」

 老怪人は砲台となって、コウガを迎え撃つ。


『首の連結部分を狙うんだ!』

 器用に、コウガは体をねじった。前蹴りではなく回し蹴りを、叩きつける。


「コウガ・錐揉みレイジングキック!」

 大砲発射の瞬間、コウガは怪人の首へとキックをヒットさせた。


「ごっほおおお!」

 砲台が根本から砕かれ、内部でブレスのエネルギーが暴走を始める。やがて怪人の肉体を突き破って、光となって溢れ出す。


「ぬう、歳には勝てぬか! デヴィランの夜明けが見たかった!」

 諸手を挙げて、怪人は爆発する。





「やはりあの程度の怪人では、お前を止められぬか」

 ただならぬ気配を感じて、コウガは上空を見上げた。



 煙の向こうに、人影が見える。


 女性のようだが、それ以上のことはわからない。




「な、何者です⁉ あなたは!」



 そこにいた女性は、スケルディング教授だった。



『貴様がスケルトン教授か!』


「いかにも、我こそ骸教授なり。だが、今は戦う時期にあらず」

 教授は振り返り、天井を伝って逃げていった。


『待て!』

 コウガも後を追う。


「なぜです、スケルディング教授! どうして人類の敵に!」


 スケルトン教授が、足を止めた。体ごと振り返る。

 その顔は半分、骨と化していた。


「我は元々、人類の敵だ。デヴィラン首領のため、活動しているに過ぎぬ」

「あなたの目的はなんです? 人を滅ぼすことですか?」

「デヴィランの首領を、この地に呼び戻すこと。レプレスタの崩壊は、その余興に過ぎぬ」


 もはや、言葉が通じているとさえ思えない。

 彼女の心は、この地にはないように思えた。


 リュートやコデロに去来したのは、どこか遠い世界の人間と対話しているような疎外感である。


 相手に、戦意はなかった。しかし、緊張せずにはいられない。


『フィーンドバスターッ!』

 問答無用で、リュートは撃った。

 

 彼女は人間ではない。目的のために動くマシーンだ。手加減をすれば、こちらがやられる。


 だが、骸教授はあっさり手の平をかざしただけで光弾を受け止めた。


「驚かれても困る。我は『攻撃を受け止められる』だけで、戦闘力が高いわけではない」

 教授は、自身を冷静に分析する。


「首領は、まだ完全体にあらず。いずれ相まみえることになろう。そのときは貴様らの最期となる。コウガよ。決着は首領復活のときに」

 教授が煙となって消えていく。


『待て!』

「今は要塞を止めるほうが先です!」

『うむ!』


 コウガはバイクを召喚した。 


「待ってくれ。オレも連れて行ってくれ。イクスに渡すものがあるんだ」


 後部座席に、クリスも乗り込んだ。


「浮いているだけで、攻撃などはしてきませんね?」

「ディアナ様の魔力が必要なのだ。あの要塞は、レプレスタ王家が管理していたものだ。レプレスタの血統が必要なんだよ」


 他の要塞が過去の戦争で失われ、レプレスタ製の要塞が唯一残っていた。

 アロガントは要塞の起動方法を知っていたが、レプレスタに手出しができなかったのである。


「では、過去にレプレスタが襲われた理由も?」

「まさかさ。レプレスタ王家が狙われた。もっともあの要塞と親和性が高いディアナ様をさらおうとしたんだ」


 だが、今はなき王妃の手によって、ディアナは守られた。


「また、ディアナ様は狙われた。はやく行かねえと」

「しっかりつかまっていてください」


 一直線に、コウガは要塞を目指す。


 そこに、イクスもいるはずだ。

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