怪人はどこに⁉
レプレスタの祭り当日、コデロはミレイアの出す屋台で朝食を済ませた。やはり、朝はミレイアのカレーを食べないと始まらない。
コデロの出番は、昼過ぎだ。とはいえ、ここに戻ってくる余裕はないだろう。今のうちに腹に溜めておく。
「そんなに食べたら、ドレスが入らなくなっちゃいますわ」
ラキアスとアテムが、隣であんみつをシェアし合っていた。
「ご安心を。レプレスタの音楽堂に着いたら、ストレスで痩せますので」
「その油断が命取りにならないといいけどな、コデロ」
アテムが憎まれ口を叩く。
「残念です。こんなにおいしい屋台がたくさんあるのに、全部回りきれないなんて」
「まあまあ。演奏会が終わるまでの辛抱だって。本番は、見に行くからな!」
あのドレス姿をアテムに見られるのは、少々抵抗があるが。
「くれぐれも、ご用心を。敵は、何をしてくるかわかりません。お願いします、アテム」
「よっしゃ。外はあたいら【ランドグリース】に任せな」
ラキアスとアテムは、主に外回りを警戒するという。
食事を済ませ、コデロは音楽堂へ急いだ。
音楽堂の控室にて、コデロは準備をする。
ドレスを着させてもらいながら、口臭をチェックした。カレーの残り香がないか、入念に。
『緊張するなぁ、コデロ』
「ええ。こんな大舞台は初めてです」
コデロは、ピンク色のドレスに身を包む。
こんな短いスカートを履くのは、幼少期以来だとか。
美しく変わっていくコデロを、リュートは感心しながら眺めていた。
「ベルト様も、おかしいでしょう? 着せかえ人形みたいな扱いを受ける私が」
『そんなことはないさ。新鮮な気持ちで見ている。キミにも休養が必要だ。今日は楽しもう』
「ええ。ベルト様」
この祭りで、コデロも多少は癒やされるといいのだが。
舞台前には、すでにイクスがいた。
「よく似合っていますわ。さすがわたくしの見立てた衣装ですわ」
こればかりは、イクスの手腕を認めざるを得ない。
コデロが自分で選ぶと、イクスの豪華さに負けていただろう。
「これはこれは、久しぶりですわね。レンゲ」
コデロとイクスは、レンゲと再会した。
レンゲは黒いドレスを着て、髪もセットしている。
「その格好は、どうしたのです?」
「実は、本番ではワタシが歌うことになりまして」
「まあ! それはそれは!」
もともと、レンゲの職業は吟遊詩人だ。問題ない。
「当日の演目は?」
「ディアナ様とセッションをいたします」
「あなたは、講師役だけなのではなくて?」
レンゲがパートナーなら、ディアナも安心して演奏に集中できるだろう。
「楽団側のアイデアなのです。戦えるものが舞台にいるほうが安全だろうと」
「ええ。その方がよろしいですわね」
ただ、とレンゲが舞台に目を向けた。
「本番まで、楽団の用意したピアノを使えないというのが気になります」
試験ではないのだからいいだろうと抗議してみたが、覆らなかったという。
「調節に時間がかかるのかもしれませんわ。悲観なさらぬよう」
「何事もないと思いますが、用心します」
「とにかく、ディアナの演奏を楽しみにしていますわ」
イクスの激励に、レンゲが一礼した。舞台袖へ。
『コデロ、感じないか?』
「ええ。妙な気配が致します」
二人が話していると、イクスが割り込んできた。
「レンゲが怪しいと?」
「そうは言っていません。全体の雰囲気が重苦しいと言っているのです」
「気のせいだといいのですが」
「はい。それと、クリスがいないのが気になっています」
いつも、レンゲの側を離れない男だ。
しかし、アロガント攻防戦以来、一度も顔を見ていない。
演奏会の本番が近づく。
会場が、観客を入れだした。
レプレスタ王は、ジョージ王子と一緒に最上階のロイヤルボックスへ座る。
コデロたちも、すぐ下の階を用意された。一応、VIP扱いを受けるらしい。
「これはこれで、緊張しますね」
『席がイクスの隣だから、いいじゃないか』
それより、気になることが一つ。
「確実に、怪人がどこかに潜んでいます」
席を外したいが、この格好ではうかつに動き回れない。
また、番人である兵もいる。
なにより、自分はイクスのメイン監視も任されていた。
自分が目を離せば、イクスが勝手な行動を起こすのは目に見えている。
『この場こそ、アテムに任せるべきだったな』
「まったくです。ラキアス様のような貴族組に、頼めばよかったですね」
コデロは、アテムに外回りを依頼したことを後悔した。
会場の様子を伺う。
デヴィランなら、貴族に化けて会場入りしているのではないか。
コデロは目を凝らす。
しかし、それらしい客の姿はない。
コブラ怪人なら、すぐにわかる。
腕をケガさせたから、そこをチェックすればいい。
『腕をケガされているご婦人がいるぞ』
右腕に包帯を巻いた、老婦人を見つける。
「いいえ。彼女は改造されていませんね」
『そうだな。なんでもかんでも疑わしく見えるぞ』
純白のドレスに身を包んだディアナが舞台に上がった。
「ディアナですわ!」
イクスが立ち上がった。
続いて、レンゲが舞台に一礼する。
ディアナのドレスとは対象的な、漆黒のピアノが用意される。
観客が二人に拍手を送る中、コデロはひとり立ち上がった。
「フィーンドバスターッ!」
ためらいなく、ピアノに向かって銃を撃つ。
銃弾は、ディアナが座ろうとしたピアノに命中する。
「きゃあああ!」
ピアノから飛び退いて、ディアナが悲鳴を上げた。後ろに倒れそうになるのを、レンゲが抑える。
だが、不気味な悲鳴が「ピアノから」聞こえた。
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