コウガ出撃

 国王が王子に詫びを入れ、食事会はお開きとなった。

 今より、王は対策本部へ場所を移すそうだ。


 食事会の後、急いでコデロは戦装束に着替えた。


「私が様子を見に行きます。イクス、あなたはここの死守を」


「ワタクシも!」


 イクスも準備を始めようとしたが、コデロが止める。



「もし魔物だとして、真っ先に狙われるのは、ここでしょう。とにかく、ご家族の安全を確保してください」


 ここでヘタにイクスが外出し、エスパーダの正体が発覚したら、コデロも動きづらくなる。


「でも、アファガインの先生がいらっしゃるのでしょ? 黙っておけませんわ!」

 イクスはてこでも動かないつもりらしい。


「これは戦争です。ただの殴り込みではありません」


「承知していますわ! でも……」


「あなたは、妹君の側にいてあげなさい!」


 コデロは、イクスの胸ぐらをつかんだ。そのままイクスを壁に叩きつける。


「いいですか! 我々は破壊者じゃない! 人々を救うためにあるのです! なのに、あなたは率先して破壊に向かう!」

「そんなこと、わかっていますわ!」


「わかってません!」

 コデロは、腕の力をさらに強めた。



「私には、仲間がいます。ベルト様だって力になってくれています。でも妹君には、あなたしかいない! あなたがいなくて、誰が妹君を救うのです⁉」


 反論しようとした様子だが、イクスは口ごもる。



「これは、戦士・コデロでも、ヒーロー・コウガとしての言葉でもない。家族を失った、コーデリア・ドランスフォードとしての言葉だと知りなさい」


「わかりましたわ。西の警護を頼みますわ」


 コデロは、イクスを放す。


「行って参ります。その代わり、ここをお願いします」


 一つため息をついて、部屋のノブに触れた。


『待って、コーデリア』

 ノーマンが、妹のコデロを呼び止める。


『イクスはボクに任せてくれ。絶対、ヘタなマネはさせない』


「はい。イクスをお願いしますね。兄上」

 優しい顔になって、コデロはノブを回す。 


「失礼致します」

 部屋をノックする音が。


「その声は、ラキアス姉さまでしょうか?」

「はい。イクス、ここを開けてくださいませ」


 ラキアスと、護衛をしているアテムが、部屋の前にいた。



「大きい音がしたもので、何事かと」

「失礼。少々手荒なマネを」


 ラキアスは、それ以上詮索しない。部屋を見て、状況を理解してくれたようだ。



「城の安全は、あなたにお任せします。アテム!」

 アテムに、コデロは声をかけた。


「よっしゃ任された。ホントはあたいが行きたいんだけどな。あたいの分まで派手にヤっちまえ!」


「承知!」


 コデロが出ようとすると、ラキアスが呼び止める。


「ご無事で」

「必ず、すべてカタをつけて戻ります」 


 



 ギルドへ顔を出すと、扉が乱暴に開いた。


 大勢の冒険者が、外へ出ていく。


「おお、あんたか。ちょうど出向こうとしていたんだ」


 クリスとレンゲが、コデロと並走する。


「何事ですか?」

「魔物が襲撃に備えて、西方面に集結してるってウワサだ。冒険者共も息巻いてやがる」


 確かに、冒険者たちが向かっているのは、西方だ。

 馬で行く者、箱馬車を使う者と、規模は様々だ。


「警備が手薄な、西方面を狙われました」

「レプレスタは西の各国とは、仲が悪いんだ。そこをつつかれた。アファガインがパイプ役だったんだが、そいつらを足止めするとは」


 定刻通り、街のガレージへ。


「よく来た。準備万端だ」


 コデロもバイクを確認する。

「なんですか、これは? えらくゴツゴツしていますが」


「襲撃に備えた特別仕様だ。考えつく限りの武器を盛ってやったぜ」

 ドヤ顔で、ダニーが腰に手を当てた。


『ミサイルの技術なんて、どこで知った?』


 サイドに取り付けられた箱型のポッドに、大量の小型ミサイルが当うさいされていた。


「マジックミサイルって魔法があるんだよ」

 魔法で作った矢を、相手に飛ばす技があるという。


『本当に、戦争でも行くみたいじゃないか』

「戦争をするんだよ。怪人相手にな。とにかくお前は場を乱せ。で、使えそうな武器があれば教えて欲しい」


 今回の作戦は、実験も兼ねているようだ。

 標的は怪人だ、何もためらわなくていいと。


「お前さんが先行して、化け物共を始末してくれ。できるだけ強そうなやつを優先して潰すんだ。冒険者共は怒るかもしれんがな」

「心得ています。手柄は、彼らに譲ります」


 何も自分たちは、魔物退治で生計を立てようなんて思っていない。


「そうじゃねえよ。奴らだってプロだってんだ」


「魔物相手に、プロも何もありません」

 まじめに、コデロは答える。


「彼らは、人を超越しています。悪魔に魂を売ったと言っていいです。そんな怪物など、人間では太刀打ちできません。今はまだ」


 そのために、コウガがいる。コウガが必要なのだ。


 皮肉めいた笑みを、ダニーが浮かべる。

「大陸破壊砲台でも、積んでやりゃあよかったぜ」


「あるのでしたら、ぜひ」

「ねえよ! 冗談だ! あったところで、予算が飛ぶ!」


 おそらく、コデロは本気だ。魔物を殲滅するつもりだろう。


『用意できるなら、しておいてくれ』

「オマエさんもかよ。ベルトでも持て余すぜ!」

『オレに不可能はない。頼む』 

「わかったよ。予算は……レプレスタからちょうだいするかね」


 イクスなら、いくらでも出すだろう。

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