囚われ? のコデロ
さらってきた女性を乗せた大型馬車が、街に入ってきた。検問を圧力で突破し、ロデントスの屋敷へと向かっている。周囲に護衛が複数、併走して馬車を囲む。
これだけ見え見えの誘拐事件を、イスリーブはよく見逃していたモノだ。それだけ、ロデントスの力は強いのだろう。
ロデントスは始末するべきなのでは、と、リュートは思い始めていた。
アサシンなどの冒険者と連携し、馬車を止める作戦に入る。全員が、アテムの知り合いだ。
『あれぇ~』
ボロをまとったコデロが、馬車の前に飛び出した。
自分でも下手な演技だと思う。
慌てた御者が、馬車を急停止させる。
「邪魔だ! ひき殺されたいか!」
苛立つ御者が馬車を降りて、コデロの髪を掴む。
「どくのは、そっちです」
エルボーを一発見舞い、御者を昏倒させた。
アサシンたちが、馬車を囲む戦闘員を排除する。
安全を確認した後、シーフを呼ぶ。
シーフと共に、馬車のホロ内部に入った。長方形の牢が複数あり、女が数人ずつ押し込められている。
助けが来て安心したのか、女たちがわめく。
「静かに!」
アテムが一括し、女たちに言い聞かせる。
「いいか、鍵を開けたら黙って出るんだ。騒いだら連中に気づかれて、また牢屋へ逆戻りだから。いいね?」
コワモテのアテムが、騒ぐ女たちを脅して黙らせた。
シーフが牢のカギを開ける。
「役所は開けてもらっている。助けを呼びに行くんだ」
蜘蛛の子を散らすように、女たちは役所の方へ。
「お次は?」
アテムが問いかけると、ダニーは首を振る。
「こいつらを役所に突き出してくれ。ロデントスの屋敷へは、俺たちだけで行く」
みすぼらしく見せるため、ダニーはコデロの顔に泥を塗りたくった。自分にも。
「マジで言ってんのか? 敵の本拠地に二人だけで向かうなんてさ。死ぬぜあんたら」
「大まじめさ。相手は怪人なんだ。お前らが束になったって敵わん」
ダニーが御者に化けて、作戦が決行された。
「一時間で決着を付けます。それでも連絡がなければ、我々は死んだと思ってください」
女たちを拘束していた手かせを、コデロは自らはめる。
牢に入り、シーフに改めて錠をしてもらう。
「心得た。一時間後に役場のヤツらと共に突撃する」
「お願いします。では、おやっさん」
ダニーが、馬に鞭を打つ。
しとしとと、雨が降っていた。ホロを雨粒が叩く。
牢屋越しに、ロデントスの屋敷が見えてきた。
外見こそ普通に貴族風の家だが、異様な気配が漂っている。
壁を覆うツタすら、今にもヘビのように動きそうだ。
「女を連れてきた」
門番に、ダニーは呼びかける。
「一人だけか?」
「みんな抵抗したんで、殺してしまったぜ」
ダニーが口をつり上げた。
「貴様、伯爵様は数も要求なさるのだぞ」
「知るかってんだ。その代わり、とびきりの上物を連れてきたぜ」
確認のため、門番がホロの向こう側へ。
オリ越しに伝わるいやらしい視線に、コデロは耐える。
「ほほう。確かに」
コデロの美貌に、門番はアゴをさすりながらうなずいた。
「コイツさえいれば、伯爵様もさぞお喜びになるだろう」
下卑た笑いをダニーが浮かべる。思いのほか、様になっていた。
「地下へ連れて行け」
「あーん、どっちだったけな?」
道をしらないダニーは、バカのフリをしてすっとぼける。
「地下への道を忘れたのか?」
「ここんところ、物忘れがひどくてな」
「しょうがねえな」
門番の案内で、地下室の入り口へ向かう。
地下通路を降りると、番兵らしき男が木の椅子に座っていた。
コデロに気付き、顔だけをこちらへ向ける。
「案内人は?」
「金の交渉へ」
「こっちだ」
立ち上がった番兵が、コデロを誘導した。
案内されたのは、陳列台だ。女性たちが手首を鎖で繋がれ、並ばされている。二〇人近くいるだろうか。人種もエルフやドワーフなど、様々だ。暗いので、もっといるかもしれない。だが、彼女たちから浮かぶ表情は、一様に絶望だけ。
コデロは吐き気がしそうになる。リュートも同じ気持ちだ。
「ええい、こっから出さぬか!」
ドワーフの少女が、力を振り絞って暴れ出した。
「うるせえ、おとなしくしろ!」
「がはっ!」
みぞおちに棒を叩き込まれ、ドワーフは咳き込む。ドワーフが、一般人に打ちのめされただけでおとなしくなった。よほどヒドい扱いを受けたのか。あるいは、弱らされているのかもしれない。
彼女たちと同じように、コデロも端の位置に立たされる。鎖で両手を持ち上げられて。
服の裾がめくれ、サラシがほどける。ベルト痕が剥き出しになった。
「おい、このやろう、淫紋があるぜ」
コデロのベルト痕を見て、兵士がニヤニヤと笑う。
「へへっ、マジだぜ。ゲヒヒ。前の飼い主に仕込まれたんだろうよ」
「けどよぉ、処女じゃないと価値が低い」
「なあに。これだけベッピンなら、ロデントス様もお喜びになるだろうさ」
作業員たちが、下卑た笑いを浮かべる。
「ロデントス伯爵が、この外道な行いを主導なさっているのですね?」
「そうだぜ。お前さんたちは、伯爵様に見初められたんだ」
言質を取った。これでロデントスは黒だ。
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