店舗を安く買えた理由

「店舗はどこです?」

「あそこよ」


 交差点の角というシチュエーションを、ミレーヌは手に入れていた。


 ミレーヌの店を開店する準備を、アテムに手伝わせた。


 しばらくして、フーゴの喫茶店と同じ風な店ができあがる。


「さっそくカレーをいただきます」

「はいどうぞ」


 示し合わせたかのように、ミレーヌがカレーをテーブルへ。


「アテムだっけ、あなたは何がいい? 手伝ってくれたからサービスするわよ。コーヒーもどうぞ」


「そうだな、あんみつってあるかい?」

 メニューを見て、アテムは即座に答えた。


「はい。あんみつ」


 アテムの前に、甘味が置かれる。

 白玉だんごとホイップクリーム、カットフルーツの上に、砂糖を溶かした黒い蜜がかかっていた。いかにも純喫茶で出てきそうな、生クリームとフルーツたっぷりのあんみつである。


「わーい、いっただっきまーす! うーん、これこれ!」

 子どものように、アテムがはしゃぐ。


「一仕事終えた後ってのは、甘いモンだよなぁ。さすが、ここの看板メニューだけあるぜっ」

 口調はオッサンだが、表情はまるで童女である。この巨体で甘党とは。人は見かけによらない。


「何を言うのです? カレーライスこそ至高です。ここの看板メニューはカレーで決まりかと思いますが?」

 なぜか、コデロがカレー皿をアテムに指し示す。


「労働後にオール炭水化物なんて、舌がお子様すぎるだろ。汗をかいたらあんみつが一番だ」

「あなたに言われたくありませんね。白玉も小麦粉。立派な炭水化物でしょうが! カレーは完全食です」

「白玉あんみつだ!」

「カレーライスです!」


 何を張り合っているのだろう。

 これが女子会というモノか? 


 二人がなぜ言い合いになっているのか、リュートには理解できない。


「アハハ、二人とも面白い!」


 ミレーヌに笑われ、コデロもアテムもケンカを止めた。


 二人に、ミレーヌはコーヒーのおかわりを出す。


「ありがとうございます。素晴らしいお店を借りられましたね?」

「いいえ。買ったのよ」


 なんでも、超破格の値段で売られていたという。


「こじんまりして、丁度いいわ。立地は申し分ないし」

 でも、とミレーヌは虚空を見上げる。

「商業ギルドの人に、苦い顔をされたの。前の店も食事処だったんだけど」


「それがどうして?」


 こんな好条件の店など、誰も手放さないはずだが。


「買い手が、次々と行方不明になったんですって。前の前の店主も」

 役所も動いたらしいが、解決しなかったという。どうやら、いわゆる曰く付き物件というヤツだったらしい。床下も調べてみたが、何も出ないらしい。


「ベルト様。もしかすると」

『ああ。どうも胡散臭い』


 リュートは、嫌な予感がしてならなかった。


「怪しいですね。少し調べてみましょう。アテム、手伝ってくれますか? 報酬はこちらで」


 アテムが受け取るはずだった金貨を、コデロはアテムに突き返す。


「そんなのお安いご用さ。任せておくれ」

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