特撮ソング

 コデロは、バイクを快調に飛ばす。


「案外、早く着けそうですね」

『そうだな……むっ』


 ハンドルを握るコデロの手が、汗ばんでいる。


『コデロの魔力を使うと言っていたな。平気か』

「心配ありません」


 まだ、コデロは元気そうだ。


「俺の馬車は、そんなに燃費は悪くないぜ。イスリーブまでは持つはずだ」


 試しに、スピードを上げてみる。


『どうだ? 辛いなら言ってくれ』

「今は平気ですが、途中でペアーチの実をいただけたら」


 やはり、速度を上げると疲れるらしい。


「普通にその辺で自生しているわよ。休憩がてら、もいでいくわ」

「すいません」


 今回は、魔力の底上げをするプランに変更した。

 フーゴでは魔法の使い方を習った程度なので、魔力などの限界値までは分からない。

 魔力の最大値さえ上げておけば、不測の事態が来ても対処できる。


 数時間バイクで走っては実を食べて休憩し、また走った。


 こうして、旅の一日目は終了する。



 一夜にして、コデロはヘトヘトになっていた。

 魔力は底を突き、食事を終えるとすぐに眠ってしまう。


 炊事係のミレーヌも、早々と眠った。


 火を見つめながら、ダニーは酒瓶をラッパのように傾ける。


「へばってるな、コデロ」

 代わり映えのしない風景を、コデロはずっと何日間も走らなければならない。コレも修行の一環である。しかし、今後を考えると、辛いかも知れない。




『任せろオレに考えがある』


        ◇ * ◇ * ◇ * ◇


「ねえ、ベルト様」

 コデロはムッとした顔で、リュートに尋ねてきた。



『どうした?』


「なんですか、この曲は?」

 コデロが不満を漏らす。ベルトから流れている歌に、コデロは難色を示しているようだ。


『特撮ソングだ。退屈しのぎに丁度いいだろう』


 コウガのベルトには、リュートがこれまで聴いてきた特撮の主題歌・挿入歌が、実に五〇年分曲ダウンロードされている。ほぼ、一生聴いていられる数だ。


『気を紛らわせる手段はないか探っていたら、見つけたんだ』

 両親と遠出するときは、スマホに曲を詰め込んだモノである。


『どうだ、気分が高揚してくるだろ?』

 リュートはご満悦だ。


「しかし、何時間も聞かされると」

 コデロはうんざりした様子である。


 女性だから歌詞の内容が刺さらないのか、異文化故に印象が薄いのか。


「ベルトちゃん! わたし、お昼に聴いた曲が好き。女の子が歌ってるの『デートでもカレーが食べたい』って歌ってるの」


『ああ、この曲か?』


 リュートは、ミレーヌの求めている曲をチョイスした。深夜にやっていた実写魔法少女の歌だ。


「確かに、この曲ならガマンできますね」


 特撮というか、深夜特撮ドラマのEDで、ただのタイアップなのだが。スタッフロールと本編が同時に行われない上に、サビしか流れない。


『オレの趣旨には反するが、楽しめているならいいか』

「あなただけ盛り上がっても、仕方ないんですよ」

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