純喫茶の引き継ぎ

 翌朝、ダニーにイスリーブへの案内を頼んだ。


「おう、そうか。じゃあさっそく準備するぞ」


「あたしも行きたい!」

 ダニーだけではなく、ミレーヌも手をあげる。


「お前、用事なんてないだろ」

「第二店舗を考えているの。各地にチェーン店があったら、拠点に便利でしょ? いちいち宿屋に泊まらなくていいわよ」

「店はどうするんだ?」

「お店引き継ぎたいって人、案外多いのよ。引退した冒険者とか」


 事実、ミレーヌは飲食店経営したい冒険者をバイトとして数名雇っている。

 今、エプロン姿で動き回っているノーム族もそうだ。元冒険者も時々、ボディガードとして勤めている。


『危険だぞ、ミレーヌ』

「大丈夫。守ってくれるんでしょ、コデロ?」


 ミレーヌは、リュートにではなくコデロに尋ねた。


 うまい。


「も、もちろんです。カレーのため、あなたのために盾となりましょう……」

 ああも期待されては、首を縦に振らざるを得なくなる。


 いつのまにか、ミレーヌはコデロの操縦法を熟知していた。


 コレには、ダニーも舌を巻く。

「好きにしろ。ただし、自分の身は自分で守るんだ」


「りょーかい!」

 気楽な調子で、ミレーヌは敬礼する。


「ああ言ったら聞かねえんだ。誰に似たんだか」

 そう言いつつ、ダニーは妙にうれしそうだった。


『大丈夫だ、ダニー。ミレーヌはオレたちが守る』

 リュートが言うと、コデロも賛同する。


「彼女のような人がいないと、私は復讐に捕らわれすぎてしまいます」

『お目当てはカレーだと思うけどな』

「ベルト様!」


 コデロと口論になると、親子が笑った。


「それじゃあ、馬車に荷を積むから手伝ってくれ」

 馬車が引く荷台に、コメやカレーに使うハーブ類を積んでいく。


 それまでの数日間に、ミレーヌは従業員に業務引き継ぎの手続きと、研修を行う。


 従業員も「自分の店を持てる」と、張り切っている。


「ミレーヌ。言っておくが、ここはおっかあとの思い出の場所だ。捨てる気はない」

 作業が一段落して、夕食時にダニーがこぼした。


「わかっているわ。あたしにだって、この店は思い出深いんだから」



「そう思っているなら、いいんだ」

 言葉少なに、ダニーはうなずく。



「ちょっとセンチメンタルになりすぎてない?」

「そうかもな」


 それからまた数日が経ち、いよいよ、出発の準備が整った。


「明日には荷物を積み終える。俺の技術コレクションはすべて、コウガに託したから、あとはお前らの私物くらいだろ」


 リュートのベルト内部は、まさに研究所然となっている。


「もう準備なら終わってるわ。いつでも発信できるわ」

「私もです」



 だが、荷を引くのは馬ではない。オフロードのバイクだった。

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