61話
「……というわけで、コマイヌっち……いえ、師匠に是非とも教えを乞おうと思いましてっすね」
「うーん、話を聞いた感じ変な動機でもないし、無理やり連れてきたわけでもないから私はいいけど……初心者なんだよね」
「はい!自慢じゃないっすがウサギさんを倒しづらくてまだスライム一匹倒した程度の初心者っす!」
スライム一匹って相当だからねこのゲーム内だと。そういえばスクラさんがスライムを殺さないように切り刻んでいたのって何かしらのスキルの取得条件なのかな。僕もあの頃に比べたら成長したし、暴風さんとも知り合いになったので久しぶりに会ってみたいな。今度のPvPイベントで会えるだろうか。第二の街開催だった気がするし来てたら会えるとは思うけど。
「とりあえずうちの加入条件としては第二の街に自力で行ってもらうことなんだけど、そこはまぁいいとして」
「なんとしてでも入るっす!」
「そこはそんなに気張らないでいいけど……コマイヌ君と同じ動きかぁ」
そういってもの言いたげな目をこちらへ向けるボタンさん。なんですかその目は。僕だって教えられるなら教えてあげたいですよ。
「だ、ダメっすかね?」
「いや良いとは思うけど、コマイヌ君の動きってこのクラン一……いや、私が知ってる中だとBfTの中で一番奇怪な動きしてるからなぁ」
「失礼な」
この装備がすごいだけで別に動きとしてはそこまで変な動きをしていないはずだ。しいて言うならAGIマシマシに対応できる反射神経とかは自慢だけど。
「だって、ねぇ?この前のダンジョン攻略とかレイド戦よりはさらに極まってるわけでしょ?」
「空中にある岩を蹴り飛ばしながら縦横無尽に駆け回っていたっす!」
「一人だけ住んでる世界が超時空武闘の世界なんだよね」
今回のスキルを見た感じそろそろ空中を数歩行くくらいはできそうです。
でも僕がそれ以上何を言っても、おそらくもの言いたげな視線を向けられるだけな気がしたので、先ほどの戦いで取得できるようになったスキルを確認する。
おお、あの≪脱兎之勢≫もきっちりとれるようになってる。前提条件が≪ダッシュ≫に≪ステップ≫に≪ライトウェイト≫、そして最後に≪紫電一閃≫なのは奇跡的噛みあいだな。
スキルを使用時のAGIを1.2倍にする、さらに後方へ移動する場合は上昇量が1.5倍となる、か。電気ウサギは正直二割増しどころか二倍になっていた気がするけど、プレイヤー版スキルとしての調整かな。
それでも元の数値を参照する分壊れてるけどね!僕以外に全然使えそうなプレイヤーがいないのもいい!
AGIを1.2倍というのも中々だけど補正系スキルは全部強いと思うけど、他にないのだろうか。まぁ必要スキルポイントがめちゃくちゃ重いし、バランスよく振ってるプレイヤーからしたら優先的にとるほどでもないのかな。
いや、INTとかSTRみたいな攻撃力に関係するスキルは誰でも欲しいのでは?実質威力アップのバフだし。元数値参照だし。なんならSTRが貧弱な僕でも欲しい。存在するのかもわからないけど。
うーん、≪雷帝怒涛≫≪マグネットブロウ≫≪紫雷槍≫辺りはどちらかというと魔法系スキルに分類されるらしい。MPの消費が結構重いな。鎖の射出と巻き取りにMPを使う僕からするとここら辺のスキルを取得してる余裕はないからなぁ。
とりあえずスキルポイントに相談していろいろ決めよう。最悪使いづらいスキルが出てもなんとかなるし。
「うーん、第二の街にたどり着くのが条件みたいになっちゃってるんだけど、平気?」
「そんくらい全然問題ないっす!」
加入する方針で固まっていたのか、ボタンさんが笑顔で提案している。ボタンさんからするとまともなプレイヤーの入団ということで元気がいいのかな。いや僕もまともなプレイヤーだが。
「それでコマ君、相談なんだけど」
「嫌……んんっ。なんですか?」
条件反射で断るところだった。ハナミさんやリーシュ君と違ってボタンさんの頼みなんだからそんな面倒なことになるはずがないって。
「この子がコマ君と同じような戦い方がしたいっていうんだけど……ご教授できたりとか」
断っておけばよかった。
◇
クランハウスの庭のようなところ、最初にハナミさんと戦った、いや遊んでもらった場所に出てきた。レイドバトルで見たけどあの虎出されて屠られたあの試合だ。今なら頑張れば避けれそうな気はするけど初心者相手にあれ出したハナミさんは絶対に許さない。いつかリベンジする。
「それで、僕と同じ戦い方というと」
「びゅんびゅんって動いてしゃしゃしゃって倒せるやつです!」
うーん感覚肌。言いたいことはわかるんだけどね。ボタンさんは苦笑いしながらもこちらに投げる姿勢だ。
「と言っても僕の動きは半分スキルと装備のおかげと言いますか。というわけで技術顧問に来ていただきました」
「やっほー!やっぱり正式版は新人さんのペースが速いね。リーシュでーす」
「おおー、先輩なのに小さいっすね!シバっす!」
たぶん実年齢君よりも……いや、どちらの結果に転んでも女性にこの話題を振るのはやめよう。
当クランの技術顧問、リーシュ君だ。今のところ僕の装備に加えて他のクラン員の装備も担当している。僕だけがユニークな装備しているのかと思っていたけど他のクラン員の装備も更新するたびに謎機能が追加されてるらしい。
ちなみに一番謎なのはハナミさんの手袋につけられた酒の発酵が早くなる効果。絶対いらないと思うけどハナミさんは喜んでいた。そしてリーシュ君はやっぱりもにょもにょした顔になっていた。
そうだよね、最初の僕の装備案とか今の装備の効果的にリーシュ君はガシャガシャしたサイバネティックなのが好きなんだよね。断じて安眠とか発酵とか計算機が仕込んであるようなの作りたいんじゃないんだよね。
「コマにぃの装備となりますと素材自体は問題ないんだけど……何個か質問していいかな?」
「なんでもいいっすよ!」
メモ帳らしきものを取り出しながらメガネをかけて質問を始める。メガネわざわざ作ったのリーシュ君。このゲーム視力とか関係ないだろうに。
「えーとまずは、『全身の筋肉を自在に動かせるような特技がある』」
「なんすかその質問、いいえっすね」
化け物か。
「じゃあ次はー、『動体視力は人間の限界値に近いほうだ』」
「運動は軽くしてるっすけど平均よりちょい上くらいっすかね?いいえっす」
化け物手前の人間、いや何の質問それ。
「じゃあ最後、『人智を超えた挙動をしたことがある』」
「見たことはあるっすけど自分ではないっすね」
見たことはあるんだ。すごいな。
「うーん、一つも当てはまらないとなるとコマにぃの装備使いこなすのは無理そうだね」
「いや僕も一つも当てはまった記憶がないんですけど」
おかしな点に思わずツッコミを入れるとその場にいた全員にあれ?という顔をされる。まるで僕が普段から全身の筋肉を動かして人智を超えた挙動をしているみたいじゃないですか。動体視力は結構いい線行ってると思いますけど。
「それにコマにぃはAGIに振ってるから基礎の素早さがあるんだけど……見た感じSTRにVIT、HPとかも盛る普通に前衛って感じじゃない?」
「そうっすね!ちょっと遅れて始めちゃったんでしばらくはソロでやる予定だったんで!何でも自分でこなせる感じにしようかと思ったっす!ただHPとかVITに振るところをちょっとMPとかに振って魔法スキルもちょっと覚えてるっす!実践経験は全然っすけど」
「同じソロ思考なのにコマ君とシバちゃんでどうしてここまで発想に差異が出ちゃったんだろうね」
ボタンさんまでなんてことを言うんですか。別に僕はソロだとかそんなの一切考えないで、ずっと走ってられるスタミナが手に入ると言われたからAGIに振っただけですよ。最近走り続けるより前に速すぎて目的地についちゃうけど。
「でもそういう前衛の戦士職っていうのかな。うちのクランではいなかったから基調だよね。その路線で進んでほしいくらい」
「でも目標がコマにぃならここからAGIに振るしかないんじゃないっすか?」
「ここからAGIにまで振っちゃったら器用貧乏になっちゃうんじゃない?」
「自分は万能型にしたかったっすけど……言い換えると器用貧乏なんっすよね。難しいっす」
「このゲームのビルド問題はすごい議論が盛んなくらいだからね~ウチは個性豊かに!って感じだけどやっぱりきっちりしたクランだと足並み合わせて~とかもあるみたいだよ」
足並み合わせてのクランに僕が入ってしまった場合、僕に足並みを合わせてくれる人はいたのだろうか。個性を大事にするクランに入れてよかったけど。
「とりあえず個性を尊重するとして……ちょっとシバねぇとコマにぃ、戦ってみてくれない?」
出た、リーシュ君特有の戦闘観察だ。
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