47話

少し重くなった装備を担いで第二の街の先、第三の街との間の道へときた。ここを抜けていけば第三の街らしいのだが、ここの距離が結構長く、中級者と上級者を分ける道だと言われている。


まずは森から出て川の流れるエリア。少し湿った地面と川付近の岩や水生植物以外には環境に珍しい特徴はないエリアだ。


ここのモンスターは森や草原で出てきた小・中型の哺乳類系モンスターたちや虫系モンスターたちがメインではなく、少し大きい哺乳類系モンスターや、魚を食すタイプの大型の鳥型モンスターがメインになる。


久々な気がするソロでの冒険に胸を軽くしつつ、川の匂いを肺一杯に吸い込みながら歩く。心が癒されているのを感じる。


少し前にも訪れたが僕はこのエリアが好きだ。森や草原よりもレジャー感が強く、現実では味わえないタイプの余暇の過ごし方を体験できている気がするのだ。


「キィィィィ」


【チゾメオオワシ】


まぁこのように時々空中から鳥モンスターが奇襲を仕掛けてこなければもっとゆっくり回るのだが。


ここの鳥は空中から急降下攻撃、そしてまた上空に戻るという行動を繰り返す中々にソロかつ近接殺しの性能だ。これに反応して剣を振り返すか、弓や魔法で打ち抜けなければこの先は難しいという意味らしい。


単純に横にステップを踏み、攻撃を躱す。ここで賢いAIなら横に旋回して追撃を行うのだろうが、所詮はそこらのMOB。急上昇し、こちらの攻撃範囲から逃れていく。


そこに合わせて右腕を斜め上に向け、ボタンを押す。ジャラジャラという音を奏でながら金属の塊が飛んでいく。


「キィヤァ!?」


剣が体の上辺りを掠めたことに慌てたような鳴き声を上げる鳥。

意外と感情表現が豊かなAIだな。避けたと思い込んでいるだろう鳥へ向けていた腕を、鋭く下へ振り下ろす。鎖は重力と新たに加えられた下方向への力に引かれ、地へ落ちる。すると鳥の上を掠めた鎖は、どうなるか。そう、絡めとるのだ。


地面へと引きずりおろした鳥を鎖で雁字搦めにし、左腕に展開した刃で切り刻む。


うーん、僕の戦闘のエグさが増したな。


【チゾメオオワシの尾羽】

チゾメオオワシの尾羽。大きく丈夫。



何回か戦闘して感覚を掴んできたのだがやはり鎖が若干重い。リーシュ君に相談して軽量化できないか聞いてみよう。あと射出や引っ込めるの、推進力を得る機能、全てに結構MPが持っていかれる。いくら【素兎しろうさぎ】に回復機能も付いているとはいえさすがにスキルなどを絡めると厳しいかもしれない。どうにかしてここらの節約ができないだろうか。


MP節約系のスキルを取得する、というのも手だろうか。確かアイテムが使用するMPを節約するスキルとかあった気がする。もしくはこれから上昇するステータスをMPに振るとか……いや、これ以上別のステータスに振りたくないな。それならスキルで補うほうが。いやいや、スキルでAGIを補うとか。


うーん。悩みどころだ。ここで考えていても仕方ない。帰ってからリーシュ君に相談してからにしよう。


しかしHPにもMPにも余裕がある。もう少し散策を続けようかな。


道を見ると川のせせらぎに沿う用に草花が生えている。僕は採取系のスキルやそれをサポートするスキルを取得していないのでわからないが、生産する人はこれらの草花を引き抜いて錬金や調合に使うらしい。


それら植物も種類が多い。群生している物や川辺にしか生えていない物、日の当たる場所や日陰になるところ、それぞれ別の特徴がある。しかも全てが組み合わせによって姿や効果を変え、アイテムの素材になる。


最初の目的が旅をすることだったくらいには、僕はこの世界を歩き回るのが好きだ。現実では味わえない面白さに加え、現実ではありえない発見もある。人にできて自分にできないことはほとんどないし、人それぞれにしかできないこともある。なんか安っぽい感想になるけれど、作りこみがすごい。


【レッドベア】


そうして川に沿って歩いていると、泳いでいた魚を素手で捕まえ、喰らいつく赤い毛をした熊がいた。この捕食行動、これも全てAIに基づいたプログラムの行動だとしても、この世界にリアリティを生む要因を形作る一つとなっていることを考えると愛おしいね。


まぁ、糧にするけど。

≪隠密≫スキルの恩恵か、食事に夢中なのかはわからないが熊はまだこちらに気づいていない。背後から忍び寄り、無防備な背中へ向けて剣を振るう。


【Action Skill : 《一閃》】


高威力の抜刀術に加えて隠密状態からの奇襲攻撃、防御していない背中へのクリティカル攻撃に加え強化された僕のSTR。それらが合わさることにより一撃、とまでは行かなかったようだけれど【素兎しろうさぎ】の回復量からおおまかなダメージがわかる。巨大蜘蛛なら吹き飛んでいる程度のダメージは出ているだろう。


いいよね、数字が更新されていく感覚はどのMMOでも成長している実感がわく瞬間だと思う。新しいスキルを覚えた時、新しい武器になったとき、これが一番楽しいという人もいる。


もう一度一閃でも振るえば倒せるかもしれないけれど、初見の敵なので深入りはしない。何より溜めと硬直が長いスキルなので何回も振るってもし削り切れなかった場合、熊によるイヌいじめが始まってしまう。


右腕を振りぬいた姿勢でいる僕を怒りに満ちた顔で睨みつける顔、その横辺りへ剣を滑らせ、射出する。こちらを警戒していた熊は大きく回避せずとも当たらないことをわかっていたのか、少し体を揺らすだけで回避する。


ただ僕の狙いは熊ではなく、その背後にある木。幹へ深く突き刺さった剣に鎖が取り付く。


【Action Skill : 《シャドウアサルト》】

【Action Skill-chain : 《ハイジャンプ》】


このままではいくら【血兎アルミラージ】で射程が伸ばせるとはいえ、圧倒的体格の良さを誇る熊相手では不利になるかもしれないリーチ。一瞬相手の視界から姿を消し、その場から飛び上がる。


このまま着地すればただその場で跳躍しただけの変人になるが、右腕から伸びる鎖に引き寄せられ、体が横へ動かされる。熊は空を移動する僕を叩き落とそうと腕を振るう。ってそれは危ないわ。僕の当初の予定だとこのまま蜘蛛みたいに木から木へ鎖で動き回る予定だったのに。


うーむ、思ったよりも引き寄せの時の推進力が低いのかな。AGIを参照しないタイプの移動は僕からすると遅すぎるように感じてしまうのかもしれない。一応これもリーシュ君に相談する案件だ。そんなことを考えながら足に刃を展開し、熊の腕に合わせて振るう。

何回も空中での剣戟を行っていたため、空中で行う姿勢制御はもうお手の物だ。しかしスキルの乗っていない攻撃と熊手による右フックだとさすがにモンスターの右フックの方が強いらしく、鎖の方向へ勢いよく吹き飛ばされる。


さすがにVITは初期値、第二の街以降のモンスターのパンチでかなりHPが削られる。しかし勢いよく吹き飛ばされたおかげで、最初に剣を刺した木までたどり着く。靴の裏側に刃を展開し、スパイクのように木に刃を刺しこみ右腕、両足を支えにし側面に張り付く。これ細い木でもできるのかとか、深く剣が刺さってなくてもできるのか実験しなきゃな。ここで落ちたらまぬけすぎるし。


鎖が巻き取り終わり、右腕から射出された剣を収納する。同時に足の刃を引き抜き、地面へ降りる。熊は四足で勢いよくこちらへ迫りくる。


普通に回避して切りつければいいけれど、熊が反応してきても困るし、新機能を実験しに来ているのでそれはしないとして。

うーん、いろいろ試してみるか。できるかわからないが右腕と左腕から剣を熊に向けて射出する。今度も顔の横辺り、耳を掠めるようにわざと外す。鎖はジャラジャラと音を立てるが、怒りに燃えている熊は臆することなくこちらへ突進してくる。


しかし今度は熊の背に何かがあるわけでもなく、剣は空中へと放り出され、重力に従い落ち始める。やりたいことはここで右腕と左腕、剣を振るうことを意識し斜めに振り下ろすこと。


【Action Skill : 《スラッシュ》】

【Action Skill-chain : 《スラッシュ》】


できたわ。


宙から落ちようとしていた剣、そしてそれに繋がる鎖が紫色のエフェクトを纏う。空中で見えない誰かに握られたかのように、不自然な挙動で熊に十字架を刻んだ。


【Action Skill-chain : 《ピアス》】

【Action Skill-chain : 《クロスカット》】


できることがわかったのならそのままスキル連携につなげる。遠隔で人形を操るように鎖越しにスキルを発動する。何が起こったのかわかっていない熊は、鎖に巻き取られるように突然左右から切り刻まれることとなった。最初の攻撃に加えこれらの連携でHPを削りきれたのか、巨体は消え、ドロップ品となる結晶だけを落としていった。


【レッドベアの毛皮】

レッドベアの毛皮。硬く丈夫なため装備に使える。


【レッドベアの肉】食用

レッドベアの肉。食べるとスタミナと体力が回復する。


うん、ハナミさんとリーシュ君のお土産もできたし、そろそろ帰ろうかな。たぶんこのくらいの素材必要ないとは思うけど。


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