40話

「いやー、思ったより時間稼いでもらっちゃった」


「本当ですよー、絶対あそこまで重ねる必要なかったじゃないですかー」


いやいや、そんな流せる感じの威力じゃなかったですよ。火球降らした部分だけですけどその辺焼け野原になってますよ。このゲームが延焼するタイプだったらたぶんこのダンジョン全部燃え尽きてるレベルで。


「なんだったんですかさっきのスキル」


「んー?さっき覚えたスキルだよ。火魔法の≪火球ファイアーボール≫」


「たぶんそっちじゃないと思うんですよー、猪由来の方ですねー」


そっちですね。いや火球であんなんなるんだったら誰でも火魔法使いになりますよ。PvP地獄絵図じゃないですか。


「ああ、そっちか。そっちはねー、猪系の≪猪突猛進≫ってスキルでね、まぁざっくり言うと、いっぱい使えばいっぱい威力が上がって、いっぱい消費するみたいな」


本当にざっくりだな。それにしてもそのスキル強くないだろうか。僕もスキルで戦う男、スキルファイターとして興味があるんだけど。


「たぶん想像してるより使い勝手よくないよ?今回もコマ君たちが戦ってた時間ほとんどずっと動けないで、MPもすっからかんになるまでやってあれだし」


「ソロとか闘技場だと使い道皆無ですねー。近くにいると隠密状態でもスキルログがすごい勢いで流れますしー」


「普段は回復魔法を重ねて回復量調節したりとか、タンク系の人には自動回復の効果量をあげてかけてあげると喜ばれるねー」


なるほどなぁ。一瞬ゲームバランスめちゃくちゃになってるのかと思ったけれど、結構めちゃくちゃな上でバランス取れてるんだなこのゲーム。そもそもスキルを取得するのも遠いだろうし苦労してそうだ。戦闘中に色々考えられる、視野が広いボタンさんらしいスキルだな。


「それで、何があってこんなことになっちゃったのコマ君」


「ああ、ワンダードリームさんに話したんですけどこのアイテムですね」


そう言ってインベントリから【世界樹の涙】を取り出した。結晶からアイテム化すると黄金色の雫、というより掌いっぱいくらいの液体が収まった器が取り出される。


「へー、泣いちゃったのか」


「そのくだりもうやったのですよー」


「ダンジョン用アイテムみたいですし、これを取ってからモンスターに襲われたので」


思い付きで行動する前に相談するべきだったなと反省している。最低でもトレインしないで一人で片付けるべきだったかな、いやあの量はさすがに無理だと思ったし、僕ならヘイト切れるくらいに遠くに逃げ切れると思っていたんだけど、まさかずっとついてくるとは。


「うーん、何に使うんだろ……普通に考えたら花にあげるとか」


「飲むとかどうですかー?それっぽい器に入ってますしー」


「いやー、食料アイテムって書いてないのに飲むのは危ないんじゃないかな」


確かに、でもこういうのを飲んだらどうなるかは気になる。まぁ舐めた程度では別になくなりはしないだろうという考えの元、とりあえず舐めてみた。


「コマ君今舐めなかった?」


「舐めてないです」


味はほぼなし、舌触りも感じない。触った感じも樹液というよりはさらさらとした、水みたいな感じだ。一応予想通りアイテムが消費されることはなく、特に何も起こらなかった。いや、体力が少し、気持ち程度削れている気がするのでダメージだったのかな。人体には有毒なタイプかー、じゃあ飲むパターンではないだろうな。まさか回復し続けて飲み干せなんて拷問みたいなギミックではないだろうし。


「じゃあ花にかけてみますかー」


「そうだね、でももし花にかけてみて何も起こらなかったら」


「まぁ壁に攻撃打ち込めば取れるんで大丈夫だと思いますよ?」


最悪僕がひとっ走りいって、今度はモンスターに遭遇しないようなルートで走ってくれば大丈夫だ。仮に遭遇したとしても事前に構えてもらっていればマシだろう。


ステージギミックと推測した白い花に樹液を垂らす。すると樹液を浴びた花は淡く光ったかと思うと、黄金色に輝きだした。


「おおー、正解ですよー」


「でも光ったけどどうすればいいのかな」


「こういうのはたぶんー」


というとワンダードリームさんが花を無造作に引き抜く。あ、せっかくの花が……と言葉にする前に先ほどまでとの違いに気づいた。花は枯れることもなく、ワンダードリームさんの腕の中で光り続けているのだ。

そして花が独りでにめしべを伸ばしたかと思うと、何かを指すように直角に倒れた。え、折れた?


「どういうことなんでしょうかねー、解説のボタンさん」


「ええー?私?えーっと、折れた方向に行けってことじゃないかな」


「無難な回答ですねー。まぁ夢もそう思うのですよ」


なら一言多かったじゃん……と呟くボタンさんをしり目にワンダードリームさんが花が示した方向へ歩いていく。その方角はよく考えると僕が傷を付けた方向のちょうど反対側だろうか?


なるほど、一応端から端まで歩けというギミック……かな?まだ方角を示したのか、方角だとしてそちら側に何があるかはわからないけれど。


「うわー」


気の抜けた悲鳴が聞こえてきたかと思うと植物に囲まれまたしゃがみこんでいるワンダードリームさんがいた。ワンダードリームさんの防御携帯だ!頭を抱え込んでしゃがむという何の防御にもなっていない!

植物モンスターたちはワンダードリームさんに攻撃を加える……と思うと掌に握られた花を盗んだかと思うと、口のような部分でむしゃむしゃと食べた。そして花が残骸すら残らずに散ると、また非アクティブ状態になったことを表すように動かずじっとし始めた。


「なるほどこれは……」


「ごめんなさいですコマイヌ君ー……ダッシュでー」


任せてください。今度はモンスターのいなそうなルートを選んできてやりますよ。



三階のギミックがだいたいわかったのでよしとしよう。まずは壁まで行く。効率だけで言うなら二階から降りてすぐの壁に傷を付けるのがいいのだろうな。

すると涙という樹液が手に入るので採取。採取した時点でモンスターたちがアクティブとなるので攻撃されないように中央の花が生えている場所まで走る。花に樹液をかけると黄金色に輝き、採取することが可能になるので花を採取。そのあとは花が指す方向へ向かうと。


先ほど少し実験してみたのだがインベントリにある樹液を奪う攻撃があるらしいので、花や樹液をしまっておいても意味がない。何なら最悪の場合死ぬまで襲われる可能性があるので持ち歩くこと推奨、かな?


「三階すごい経験値稼ぎに使えそうですねー、通常は非アクティブのモンスターで、ポップしてる数も多いですよー」


「そうだね、慣れてきたりレベル上がってきたらここの階全滅させる周回が流行りそうかな?」


「攻略班が今さら第二の街に戻ってくるとはー、気分がいいのですよー」


「ドリちゃんがもうちょっとやる気出してくれて、ミヅちゃんとかハナちゃんの予定が合えば第三の街行けると思うんだけどなー。今ならコマ君もいるし」


話を聞き流して攻略情報をメモしようとしていたら僕も含まれていた。いやいや、確かにレベルが上昇してきたとはいえ【暴風】さんとかクランの皆さんと肩を並べられる段階ではないと思うんですよね。


というわけにもいかず聞かなかった振りをして壁際まで行くと、触れたわけでもないのに傷がついたような木の壁があり、そこの下には黄金色に輝いている花と似たような品種の花が並んでいた。先ほどまで壁際も観察していたが、こんな花は咲いていなかったと思うけど。


花を傷ついた壁に近づけてみると花が輝きだし、黄金色のオーラのようなものだけが壁に飛んでいく。オーラは壁に当たると傷がみるみる修復されていった。そして修復されたと同時に足元の花たちが光り輝いたかと思うと散っていき、全ての光が収まった時には花があった部分に階段が現れる。


「ぐあー、花が光った瞬間スクショとれなかったのですよー」


「なんか色々残念な発言ですねそれ」

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