34話


一言も発さないワンダードリームさんとがちがちなボタンさんが椅子に腰かけると、クランチャットの方が光りだす。誰だろうか。


【クランチャット】

ボタン:コマ君!聞いてないんだけど!


ボタンさんからだった。いやいや、そういわれても。


コマイヌ:ボタンさんが重要NPCってわかってたので、そこまで驚かないかと。

ボタン:これは誰でも驚くよ!

ハナミ:お、なんかおもろいことでもあったん?

ワンダードリーム:第二の街の大樹の中に入ったかと思ったら王族と話してるなうです。

ハナミ:ワロ

リーシャ:お金になりそうな物があったらパクってきて。


とんでもないこと提案するなこの人。ハナミさんもなんだワロって。


リーシュ:武器とか防具の素材に使えそうなのあった?

ワンダードリーム:コマイヌ君がここから貰ったらしい【世界樹】系のが箱に入ってます。葉っぱは使うので使わないでくださいです。

リーシャ:売れそう、コマイヌ、私に預けないか?金銭は三倍にして返す。


元の値段がわからないのに三倍とは。パチスロ行く前の人みたいなこと言ってるよこの人。


リーシュ:枝あと十本くらい取れない?

コマイヌ:いやー、さすがに無理かと。受けてみないことにはわからないですけど

リーシュ:頼んだ!

ボタン:他人事だと思って!今絶賛気苦労中だよこっちはー!


と言ってボタンさんが最後に苦しんでいる顔文字を送り、チャット欄を閉じる。この間わずか数十秒である。


アル様も双子たちも頭にはてなを浮かべているが、通信魔法みたいなものですと伝えると納得してくれた。実際通信してるんだけど、魔法……?

プレイヤーのシステム的な行動はどれに分類されているのだろうか。ログアウトとかステータスとか。


「それで、今日は何のために?」


そういえば素材を貰いに来たんだった。賑やかすぎて忘れていた。お茶も美味しいし


「ここにいる人たちが葉っぱと枝欲しがってて、何か依頼とか困っていることありませんかね?」


「葉っぱあるの」「枝もまだあるかな」


「そうね。ふふっ、昨日今日で無くなる物でもないし私たちはあげてもいいけど……」


とアル様が扉の方を見ると勢いよく首を横に振るエルフさんがいた。まぁ、なんか大事な物らしいし頻繁にあげれるものじゃないのかな。


「どうしましょう?草むしりとかでもいいかしら」


少し噴き出すボタンさんにワンダードリームさん。先ほどよりも首を勢いよく振るエルフさん。それは僕でもわかるけど、草むしりて。


「ダメかしら……確かに庭師さんのお仕事もあるものね」


そういう問題ではないと思う。


「そうだわ、草むしりってわけではないけど、雑草退治に行ってもらおうかしら」


雑草退治 とは。

雑草というのは何かの隠語で、賊を暗殺してこいとかいうことではないだろうか。今なら前よりうまくやれるけど。それにそういうのが得意な先輩が知り合いにいるんですよ。僕らにそういう依頼ないですか。ミヅキ先輩っていうんですけど。


「今回はそういう物騒なのではないわよ。いくら宮廷とはいえ、そんなに頻繁に誘拐や殺人は起きないわ」


鈴を転がすように笑うアル様とつられて笑う僕に楽しそうな僕らを見て笑う双子。そしてドン引きするボタンさん。


「雑草っていうのは文字通りの意味で、実はこの聖樹の下にはダンジョンがあってね」


「ダンジョンっていうのは……」


「地脈と繋がっている穴ですねー。星の力が漏れ出しているからモンスターも強力だけど、経験値効率もいいっていうやつですー」


「ゲーム内設定詳しいですねワンダードリームさん」


「読み込んでますのでー。あとβにも何か所かダンジョンは解放されてましたよー、正式版では前の場所にはなかったみたいですけどー。こういうところにあるんですねー」


β段階ではそこら辺に階段というか洞穴があって、そこへパーティー単位で入れたらしい。ソロプレイヤーもオートマッチシステムを使えば同じくソロのプレイヤーと即席のパーティーで潜れたそうだ。


僕知ってる、それギミックとか出てくるモンスター知らないと何故かやたら怒られるやつだ。


まぁ、その点βテストをやっている人たちは知識面で頼りになるな。今度世界観とかも教えてもらおうかな?


「ええ、そちらの旅人さんが言う通りね。星の力を糧にしてるからここの木は他に比べて強く、大きく育ってるのよ」


「それで、雑草退治というのは」


「ダンジョンにはもともとモンスターがいたんだけど、倒しても倒しても星の力で復活しちゃうのよ」


なるほど、コンテンツとして再挑戦できることへの設定付けか。


「だから毎日くらいのペースで駆除したいんだけど、軍って動かすのも大変でね」


なるほど、プレイヤーが参加できて現地の人が行かないことへの説明もばっちりだ。


「だからダンジョンの奥にいる植物型のモンスター、これを倒してきてくれたら枝か葉、どちらかをあげる」


扉の辺りにいたエルフさんが近づくとアル様に何かを耳打ちし、それを聞いたアル様がまた困ったような顔をしたあと顔を輝かせた。何か思いついたのだろうか。


「もしこの依頼が達成できたら旅人さんたちに今後も頼もうかしら。週に一回くらのペースで募集したら集まる……わよね?」


「集まると思いますし、その依頼受けたいと思います」


「助かるわ。旅人さんは信頼しているから、頑張ってね?」


了承すると笑顔になるアル様と、なんとか纏まったと思い胸をなでおろすエルフさん。そして話し合いが終わったとわかるとワーワーと僕に纏わりついてくる双子。ふふ、子供の遊びとて容赦はしないぞ。この前のPK討伐で上がったレベル分もすべてAGIに振った僕についてこれるかな!


【クランチャット】

ワンダードリーム:ちなみにβ段階でも各ダンジョンは週に一回でしたねー。経験値効率がいいのでー、適正ダンジョンに週一回通うのは当然みたいな雰囲気でしたー。

ハナミ:もしかしてダンジョン見つかったん?

ボタン:コマ君のユニーク絡みで発展してこの後ダンジョンアタックすることになった……しかも私たちがクリアしないと解放されないって。胃が痛いよ~……

リーシュ:ダンジョン産素材があったらよろしく!

リーシャ:解放って告知されてしまうのですかね?もしされないなら独占して……いや情報を薄利多売形式にしなきゃ恨みが……

ハナミ:その話題のコマイヌ君はどしたん?

ワンダードリーム:奇怪な動きでエルフの子供と遊んでるですよ。



それで、ダンジョンに挑むことになった。全員共通で【聖樹の下の魔植洞穴を攻略する】というクエストを受注した。攻略のために今街中のアイテム屋などで攻略会議をしている。


「雑草退治ということは植物型のモンスターですかねー」


「私は一応火魔法も使えるけどレベル低いからなー。やっぱりヒーラーに徹して、コマ君が前衛、ドリちゃんが遊撃かな」


「夢もサポートってことになりそうですよー、土魔法は範囲攻撃が多いですし、植物には聞きづらいのですよねー」


僕はここで口出しできることもないしなぁ。プレイスタイルは事前にリーシュ君へ送ったビデオを見てくれたみたいで、ある程度把握してくれている。

ちなみにどのような印象を抱いたか聞いてみると

「脳味噌二つありそう」

「リアルで腕六本くらい生えてても驚かない」

「かっこいい……よね?」

と散々な評価が聞けた。脳味噌二つの腕六本あってたまるか。誰が阿修羅だ。


二人が相談しているのに何か口出しもできず露店周りを物色していると前からざわめきが聞こえてくる。だんだんとざわめきが近づいてくるのを聞きいい加減そちらを向くと、見覚えがあるプレイヤーがこちらへ歩いてきていた。


「おう、坊主……コマイヌじゃねぇか。今日は【鼠返し】と一緒じゃねぇのか」


「【暴風】さん、どうもです。今日はクランの二人とクエストに行く予定です」


ムキムキ格闘剣士こと【暴風】さんだ。ムキムキ格闘は僕が勝手につけたのだけれど。なんでも第二の街から第三の街の中間くらいにあとから始めたクランメンバーがいるらしく、それを茶化しに行くところらしい。あの、手伝ってあげたりは。


「干支んところは面白そうなやつが多いからな、で、そんな二人を連れてどんなクエスト行くんだ?」


「ダンジョン攻略ですね」


「ダッ……コマイヌ、ちょっとこっち来い」


そういうと路地裏へ僕を引っ張って歩いて行った。誘拐よー。

という冗談はさておき、なぜ人気ひとけの少ない場所へ。殴らないで。


「殴らねぇよ、さっきの……ダンジョンってのはマジか」


「ああ、そっちですか。本当ですよ、僕らが攻略できたら解放されるらしいです」


「軽く言いやがる……聞かれてたら面倒になってたぞ。ったく……今ダンジョンってのはβに合った場所にもねぇ、んでまだ一つもねぇってのはわかってるな?」


「いや、わかってないですね」


そういえばさっきクランチャットに似たようなことが書いてあったような、あれそれよりも前にワンダードリームさんに教えてもらったんだっけ。そう言われれば聞いたような聞いてないような。


「そういやぁ初心者だったな……まぁそこはいいんだ。問題はおめぇらが失敗したら解放されねぇかもしれねぇってことと、クエストでダンジョンフラグがあるってことだ」


まぁ、確かに僕らの責任重大だなぁと思っていたけど、たぶん行きたいならアル様に頼めばいつでもいけそう。ゲーム的には毎日は無理そうだけど。


「こりゃダンジョンに繋がりそうなクエスト洗い出さなきゃいけねぇかもしれねぇな。wikiんとこにも頼んで……ああくそっ。開発からのもっとクエストもやれっていうお達しか?」


ああ、そういうの父さん好きそう。細かいところを見落とすと痛い目に合うけどそれを隠しておく感じ。


「つまるところ、お前らの発言が聞かれてて、もし失敗したなんてなったら知らねー奴らに何故か叩かれるなんてことにもなってたかもしれねぇってことだ。俺以外には言ってねぇよな」


「クランの人以外には言ってないですね」


「俺相手に勝つようなやつが失敗するとは思わねぇが、クリアするまでは隠しとけ」


いや、あれを勝利にカウントするのはどうかと。手加減に手加減重ねてくれた人に遠距離から初見殺しして勝ったと言いますか。


「んじゃあ、俺はさっそく信頼できる筋と……いや、さすがに汚ねぇか。お前はこの情報公開するのか?」


「【暴風】さんがしてくれるならお願いします。ゲームの仕様が数人に独占されるってのも、不健全だと思いますので」


返答すると獰猛な笑みを浮かべて僕の肩をバンバン叩く。痛い痛い、街中だからダメージないけど気分がすごい痛い。


「わかってんな!VRだからってMMOだ!一人だけが楽しむなんてのは不健全……そう、不健全だな!」


そうですね。その勢いでVIT初期値のプレイヤーの肩を叩くのは不健全というか、暴力です。


とりあえずクリアしたら連絡するということになった。【暴風】さんはとりあえず当初の予定通り、プレイヤーを茶化しにいき、僕からのクリア報告を受けてから精力的に動いてくれるらしい。いい人だなぁ。


おっと、話をしていたらボタンさんとワンダードリームさんを置いてきてしまった。戻らねば。

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