23話

山の中には木が生えており、木の葉に隠れるように洞窟を観察する。


プレハブとクランハウスの違いは入れる人間に制限がない……つまり特に認証が必要ないことらしい。今潜入しようとしている僕たちからすると都合が良いけど拠点の意味を無くしてないか。


と思って聞いてみたところ、プレハブというのは仮の名前で、こいつらが使っているのは秘密基地作成キットというアイテムらしい。

本来はマップ内に秘密基地のようなものを作って遊ぶもので、フィールドにいい感じのスペースを見つけ家具などを配置し、ハウジングして遊ぶのが目的のアイテムだそうだ。それだけだと趣味アイテムだが利点があり、秘密基地内で比較的安全にログアウトもできるようになるらしい。


今回の闇クランはそれを利用し、街中に入ることなくログインログアウトをして、消費アイテムは脅し取りゲームを謳歌しているとのことだ。


いやー大変だなー許せないなーと脳内で棒読みしつつ門を見ると、盗賊らしくご丁寧に見張りを立てていた。しかし見張りの顔も例にもれず普通のプレイヤー顔だ。ちょっとイケメンだけど飛びぬけてはいないような、中途半端な顔だ。


どうして……そこまでやるならどちらかに突き抜けてほしい、ものすごい悪人顔かものすごいイケメンに突き抜けてほしいのに、なんでそんな普通なんだ……!


まぁ顔のことはさておき、この後クラン員を壊滅させていくわけなのだが作戦はあるのだろうか。ないなら適当に突っ込んで様子見してみるけど。ミヅキさんは少し隠密を維持したまま待てと言っていたので何かあるのかな。


するとミヅキさんは僕ほど早くはないが機敏に、隠密が解けないほどの速さで洞窟へ近づいて行った。そして洞窟の周辺に何か四角い物を置き、次は洞窟の上側、さらに崖の上など何か所かに続けて設置するとまたこちらへ戻ってくる。


「あの、何したんですか?」


「これおいてきた」


と言って僕にアイテムを投げて見せてくれる。何とかキャッチしそのアイテムを見てみると……ダイナマイト?


「なんてもん投げるんですか」


「それはまだ爆発しないから」


このゲームのダイナマイトがどんな仕組みか知らないけれど、いくら今爆発しないとはいえ爆発するものを投げるのはよしていただきたいが。

というか今これを設置してきたって。


ミヅキさんが僕がダイナマイトを返すとそれをインベントリにしまい、代わりに何かボタンが付いた物を取り出す。ああ、察した。


ポチっと擬音が聞こえてきそうな勢いで押されたボタンとほぼ同時に、洞窟周辺で爆発音が響く。すると同時に見張りが爆発に巻き込まれ、態勢を整えようとしたときに上から降ってきた土砂崩れに巻き込まれ埋もれていった。


へー、崖崩れとかにも攻撃判定あるんだなー。


「というかミヅキさん、洞窟の入り口埋まっちゃいましたけど」


「それも爆破して作るから大丈夫」


「それに今ので侵入がバレルんじゃ」


「気づいた奴らからやっていく。集団で来たらいったん外に出て森の中で各個迎撃」


にしてもここまで派手にする必要があるのか……と思ったけどこれは見せしめらしい。あんまりマナー違反してるとここまで派手にやられるぞという意思表示なのだそうだ。


そういうことなら……しいて言うなら僕これ必要でした?ミヅキさん一人でいいのでは?

この後おそらく出番があるらしい。おそらくかぁ。出番がないなら別にないでいいんだけどな。ミヅキさんとかハナミさん以外との対人って初めてだから緊張する。

なんで以外とのにしたかって、明らかにその二人普通じゃないし。消えたり武器変えまくったりビームみたいなの撃ったり。


「明らかにレベルが高いのは対応する」


「雑兵を散らせばいいんですね」


「雑兵も対応する」


おそらく出番があるのおそらく部分の内訳を教えてもらってもいいでしょうか。



数度の爆発音を響かせたあとに洞窟内へ侵入する。洞窟と言ってもそこは仮拠点、奥は長く、左右に何個か部屋がある。洞窟というよりアリの巣みたいな構造に感じる。東の森の遺跡ほどは長くないので迷いはしないだろう。基本大きな道は一本道みたいだし。


最初の爆発音ですでに入り口に寄っていたのだろうプレイヤーが三人現れる。全員が武器を構え、怒りを顔に滲ませているのでこれが件の人たちで間違いないのだろう。


「お前らか!人の拠点で暴れてるのは!」

「俺らを知ってるのか?『ゴブリンヘッドシャーク』様だぞ!」

「てめぇら覚悟はできてんだろうな」


一様に武器を構えこちらを威嚇するように凄んでいる。しかし全員モブ顔だ。ちょいイケメンくらいのフツメンだ。何故かこれっぽっちも怖さとか出てこないのはなぜだろう。怒りすら覚える。それは僕の表情に出ていたのだろう、モブ顔たちが何故かうろたえ始める、


「い、いやなんでお前が怒ってるんだ?」

「PKに怒ってたってより俺らの顔見て怒ったよな」


ミヅキさんは不思議そうな顔をしたまま相手に近づいて行った。モブ顔たちは僕の方に注目していたため近くに接近するミヅキさんを一瞬だけ見落としていたらしい。


【 Action Skill : 《串刺し》 】


そして一番意識が外れている盾持ちのモブ顔の無防備な姿にスキルを一当てする。おそらく僕よりもSTRに振っているミヅキさんの攻撃は不意打ち、クリティカル、防御していないところと重なり相手のHPバーを半分減らした。おお、そういえば攻撃したプレイヤーの体力は見えるんだな。


「このガキ!女が調子に乗りやがって!」


先頭にいたモブ顔がミヅキさんをようやく視認し剣で切ろうとするが、ひらりと身をかわし逆に手に持った針を数本投げつけられる。避けようとするも洞窟内かつ周りのプレイヤーに足を取られ、数本突き刺さる。わかるわかる、その針横に避けないと避けづらいんだよね。


残り一人のモブ顔は魔法使いらしく、少し後方に下がり魔法を詠唱し始めた。僕も少しくらい戦っておくか。【血兎アルミラージ】。


針に刺された二人がミヅキさんに注目していたため魔法使いを守るものはいなく、直線的に攻撃が通りそうだった。なのでそのまんま直線を【血兎】で貫く。僕の貧弱なSTRでも相手は魔法使いらしくVITと防具ともに薄かったようで、最初の≪スラッシュ≫で体力の三分の一は持っていける。

いや、基本ボスと戦っていたからわからなかったけど意外とプレイヤーって脆いのだろうか。冷静に考えたら全員が全員VITやHPに振るわけでもないし、僕だって【血兎】の撃つスキルなんて喰らったら消し飛ぶ自信がある。


なるほどなぁと一人納得していると僕が剣を伸ばして攻撃とかいう不可思議な行動をしていたことが前衛二人にばれたらしく、一人がミヅキさんの対応に、一人がこちらへ寄ってきた。


しかし僕の方へ寄ってきた一人がミヅキさんから視線を逸らした瞬間、後頭部めがけて針が飛んで行った。おそらく針が高速で自動補充されるのを知らなかったのだろうプレイヤーはストトッ、という効果音が似合うようにキレイに三本刺さる。


そして僕の前には体力が減らされた奴一人、【血兎】は現在伸ばしているためこういう近接戦闘になると振り回しづらい。相手もそう思ったらしく盾を前に構えた。そして体に引き寄せ、こちら側へ突き出す際盾が紫色のエフェクトを帯びる。


【 Action Skill : 《シールドバッシュ》 】


恐らく僕の片手剣のスキルの盾版であろうスキルだ。【血兎】を引き寄せるのは間に合いそうになく、モブ顔は当たったことを確信しにやりと笑った。


【 Action Skill : 《バッシュ》 】


お返しに僕の足に展開した刃を紫色に光らせ、盾に合わせるように蹴りぬいた。無事相手のスキルに合わせることができたものの相手のSTRの方が高いからか、スキルの効果かはわからないけど少し後ろに吹き飛ばされた。ただ体力はそこまで減っていないので威力は相殺できたことだろう。


当たることを確信していたモブ顔は急に流れたスキルログと僕の右足に困惑を隠せないようだった。なるほど初見殺しと読み合い。こういうことか。【血兎】を引っ込めながら次は……そう思っているとすでに一人を片付けたらしいミヅキさんがモブ顔の背後に回り込む。そのまま首を捻り、モブ顔をデス送りにした。足や腕にエフェクトがあったのでスキルだとは思うのだけれど、このゲームそんなスキルあるんですね。


前衛二人が倒されたことに動揺を隠せないような魔法使いだが、魔法を撃って逃げようと考えていたらしく先ほどからまた詠唱の声が響いていた。撃たれると困るので、こちらに向けている杖の下あたりに潜り込むように走り寄る。AGI振りと対面したことがないのか驚き詠唱をキャンセルして引こうとする。

≪スラッシュ≫≪スラッシュ≫≪スラッシュ≫……と四発目の切りつけを行おうとするとすでに驚愕の顔を浮かべデスしていった。


初の対人戦は大成功じゃないかな。

  • Twitterで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る