8話
あの後街の中に戻り、中央広場から東西と歩いてみたが意外とプレイヤーショップでもNPCショップでも武器屋はあった。しかしどれも初心者から脱したい人向けと言ったところで僕の財布では若干厳しかった。
その旨をNPCの鍛冶屋に伝えてみたところ有益そうな情報を教えてもらえた。
「店頭に並んでる武器で欲しいのがないのかい?なら素材を持ち込んでくれれば作ることも出来るぞ?」
店頭にある武器より安いのはありますか?と質問したがこれが帰ってきたところ、最低限不自由にならないように会話できるAIみたいだ。少し求めていた情報と違ったけどためになることを教えてもらった。
ウサギの角で作れるかと聞いてみたがウサギの角だけでは素材としては弱く、なんらかの素材を混ぜるか別の素材を作ったほうがいいらしい。あんまりドロップしないくせに使いみちが薄いとはウサギめ。
武器を作るなら必要なのは確か……鉱石・木材・モンスター素材だっけ。
基本的には鉱石にモンスター素材を混ぜたり鍔より下は木材を使ってそれを強化するのにモンスター素材を用いるのがメジャー、らしい。
このウサギの素材を売ったお金でとりあえず伐採用の斧と採掘用のピッケルを1つずつ購入した。両手に持って二刀流、なんちゃって。
◇
というわけで本日も訪れました始まりの草原、こちらのピッケルを持ちまして叩きつける先はそこら辺の岩。AGIにまったく慣れていなかった僕の体とウサギがよくぶつかっていたあの岩ですね。ピッケルを持って見ると採掘ポイントが岩に現れ、これにカツーンと叩きつけると鉱石に変換できる結晶が……出ると聞いたのだけれども出なかった。
まぁ採掘仕事をする人や鍛冶師さんと比べたらそりゃSTRが貧弱なのは当たり前か。地道に何回もカツーンカツーンと突き立てる。数回も打ち付ければ岩は崩れ落ち、後には結晶が残る。
【岩の塊】
ごつごつとした岩の塊。加工にはあまり適さない。
【銅鉱石】
銅の鉱石。精錬することにより様々な物の制作に使用できる。
【鉄鉱石】
鉄の鉱石。精錬することにより様々な物の制作に使用できる。
こんな具合にはずれとあたりの何種類かが落ちるのでそれを集めるのだ。もちろんこれもスキルを取れば効率もよくなるし採掘用のアクティブスキルもあるみたいだけど……まぁこのためだけに取るのもね。
どこまで一人で行けるかなんてわからないけれど、ソロと行ったらなんでも一人でやれなきゃダメだろう。あれもこれもと取るのは万能というよりは器用貧乏になってしまう。
途中僕の採掘を邪魔するようにウサギが突進してきたが我貴様らの親玉を討伐しそのあとのなんかよくわからない化け物の角を折りし男ぞ。油断していなければ体がAGIに振り回されることなんてなく無事二刀流の練習台になってもらった。
「うーん、片手剣のほうがやっぱり慣れないなぁ」
利き腕で片手剣を、反対の手で短剣を持っているけど片手剣の方に集中すると威力は高いけど当てづらく、使用できるスキルも少ない。短剣に集中すると取得したスキルの使用感もわかり当てやすいが威力が物足りなくなる。
元々手数や攻撃力を補うために取得したと言ってもいいスキルなので、恐らく短剣に集中するのが正しいのだが二本使う感覚が身に沁みついていない。
今までVR以外でプレイしたゲームでもあんまり二刀流って見なかったから、どう動けばいいのかわからない。なんか参考にするものがないか今度動画サイトでも見てみようかな。自分で動くのと感覚が違うけどファンタジー世界の二刀流が一番参考になりそうだ。
とりあえずそれまで二刀流は封印しておこう。うん。どっちつかずが一番微妙な結果になるんだって察しがつく。
というわけで利き腕に短剣を持つ。うんしっくりくる。電気ウサギ討伐あたりからこの立ち姿と短剣がしっくりハマった感じがする。漫画の主人公とかが強敵との戦闘で何かを掴む描写があるけどそれが起こりえるとはね。
短剣を数回振り回して感覚を戻し、一息ついて周りを見る。すると遠くのほうにモンスターは見えるのだが、プレイヤーらしき姿が見えなくなった。
あれこれこの前見たな。電気ウサギの時と似たような風景だけど周りにはモンスターもいる。少し待ってみるも特にシステムメッセージが流れたりもしないし、それこそ電気ウサギが現れたりもしない。
うーむ。確かにやや遅い時間になってきたけどプレイヤーがいなくなるには少し早い気がする。それどころか夜中はMMOプレイヤーの時間な気がするんだけどな。何か初心者の僕が知らないイベントでも起きているのだろうかと視線を上にあげると女の子のプレイヤーが二人、こちらへ近づいてきていた。
なんだ、初心者じゃないとはいえプレイヤーはいたか。なら偶然周りから初心者のプレイヤーがいなかっただけだろう。
「コマイヌであってる?」
突然二人組の女性、背丈がやや小さいほうの女性から問われる。隣にたった成人済みの女性だろうか?そちらは苦笑いをしながら僕らの会話を静観する構えのようだ。
「えっと。まぁ僕がコマイヌであってますけど」
「そう。ならお届け物」
そういうと結晶をポンと渡される。何かと思い見てみると【血を吸いし至高の一槍】とでる。なんだろうかこれ。
「ウサギの復讐MOBのドロップ。五分経つとほかの人でも拾えるようになるから覚えといて」
「まぁ初心者誰しも通る道やな~、初心者のうちからこんなレアドロ見逃しそうなんは初めてみたけど」
復讐MOB……ああ、電気ウサギの。まさか戦闘に負けたのに経験値だけでなくドロップまでしているとは思わなった。しかもわざわざ届けに来てくれるとはずいぶん親切な人たちだ。
「それは……ありがとうございます」
「それで」
「うん」
なんだろう。なぜか小さいほうの女性が武器……細い針のようなものを逆手に構えた。
「私たちはPKで、あなたは今レアなドロップ品を持っている」
「うん?」
何を言っているのだろうか。今あなた方から貰ったばかりなのだが。ていうかPK?
「だから、貰いに行く」
【 Action Skill : 《ダッシュ》 】
【 Action Skill-chain : 《串刺し》 】
そういうと小さいほうの女性が針をこちらの目に突き刺そうと突進してきた。反射的に手に構えていた短剣で防御すると小さい女性は驚いたように僕のことを突き飛ばし距離を取った。
「本当に初心者?」
「初心者だしウサギのドロップならあげるので勘弁してもらえたりは」
「個人的に興味がわいた。続行」
「ですよね!」
今度はスキルを使用せずにこちらの視線を振り切るように蛇行し、僕の短剣の間合いまで入ってきたかと思うと斜めに鋭く跳び背後を取ろうとする。ただ素のAGIは僕のほうが高いらしく、それに僕の動体視力ならこの程度では見失うこともなく逆に短剣を振り下ろす。
【 Action Skill : 《スラッシュ》 】
スキルの発動に合わせ相手もこちらが動きを把握していることを理解しすぐさま飛び退く。相手も行動をキャンセルし避けた代償というか、僕のスキル硬直に差し込むようなスキルはなかったようだ。
「あのー、あなたはこちらの女性を止めてくれたりとかは」
「ああ、うち?うちはミヅキちゃんの同伴やから止めもせんし、参戦することもないから安心しいや~」
手をひらひらと振りながら実質の傍観者宣言をされた。しかし仮に僕がミヅキと呼ばれた女性に止めを刺そうとした場合に妨害してくる可能性はある。PKなんて名乗った人たちの言うことなんて信じられるわけがないし。
ここは隙を見て逃げるのが一択……
「余所見してる?」
「うっわぁ!」
逃走経路の確認を行おうと意識をそらしている間に針を投げられる。意識を誘導するのが目的だったのか、なんとか回避することはできた。が、あなたのメインウェポンじゃないのそれ!と相手の手元を見るといつの間にか針が再度握られていた。
「グングニルかな?」
「必中がいい?」
そういうと次は三本、それも回避すると次は五本と飛ばされる針の数はどんどん増えてくる。槍じゃなくて針ですもんね!
「反撃しないと、そろそろ当たる」
「ご丁寧にどうもありがとうございます!」
ハッタリや脅しではなくまだ全力ではないのかこちらを様子見するように針を投げ続けてきている。相手側の針がどのような仕組みかわからないけれどまだまだ余裕そうな姿から、相手からしたら安定択で、こちらはVIT的に一発でもあたると致命傷のミスを許されないゲームだ。
【 Action Skill : 《スラッシュ》 】
それならばと針を短剣で弾く、横からバットで打ち返すようにスラッシュを発動し、何本かを打ち返すことに成功する。
この反撃は予想だにしていなかったようで大げさな回避行動をとらすことに成功した。
【 Action Skill-chain : 《ステップ》 】
スラッシュの硬直をキャンセルするためだけの目的にステップを発動する。回避スキルをここで切ると、この後の回避行動は自力で避けるしかなくなる、が。
【 Action Skill-chain : 《ラッシュ》 】
一歩前に踏み出すような動作をとるラッシュでさらに距離を詰める。PKを名乗るだけあって対人経験も豊富なのかスキルのチェインによるスキル攻撃を弾き、避け、落とされる。
反撃とばかりにステップを踏めない僕の正中線の真ん中、鳩尾≪みぞおち≫のあたりへ針を突き出してくる。
【 Action Skill-chain : 《飛燕》 】
取っておいてよかった≪飛燕≫!飛び上がるような動作で無理やり軸を外し、相手の攻撃を回避する。相手も上に跳ぶことは想像していなかったらしく、僕の貧弱なSTRからの一撃が入る。
「…っ!」
【 Action Skill-chain : 《ピアス》 】
そして≪飛燕≫からさらにスキルを繋ぐ。スキルチェイン時の猶予、どのようにスキルを放つかというほんの少しの猶予で体を反り、相手の後ろから突き刺すような形でスキルを撃つ。
後ろからの防御貫通攻撃、しかも首のあたりを貫いたためクリティカルエフェクトが出る。少なくとも僕だったら即死するくらいの大ダメージが入ったと思うけど……!
期待するように地面に着地した後、視線を上げると相手のHPバーが薄れていく。それだけでなく相手の姿まで目の前から消え去り、周囲をきょろきょろと見回しても長身の女性しかいなくなっていた。女性はこちらへひらひらと手を振る。
あれ、倒したにしては手ごたえが……
と思うと途端に背中のほうへ気配。それも殺意などと呼ばれる鋭い感情を感じ咄嗟に振り向く。
「わかった、本気でヤる。【 Action Skill : 《鼠の…… 」
「はいストップよミヅキちゃん。そんくらいでええんちゃうかなーってお姉さん思うんやけど」
アクションスキルの発動を口に出して宣言しようとしたミヅキと呼ばれた女性を長身の女性が止めた。まさか僕じゃなくてお仲間のほうが止められるとは。
「ハナミ……邪魔……」
「あらー、今回は偵察って話だったやろ?」
「邪魔するなら……」
「お、うちとやるんか?ええけど……相性悪いでぇ?」
小柄な女性は針を構え、長身の女性はポケットに手を入れたまま笑顔を作る、が……笑顔が獰猛な獣を思わせた。
少しの間睨み合いを続けると諦めたのか小柄な女性が針をしまい、長身の女性は獰猛な気配を散らしパッと笑顔を改めこちらへ向き直った。
結局なんなんだこの人たち。
「いやー、ビビらせてもうて堪忍なぁ!うちはハナミ!んでこっちの小ちゃい可愛いのがミヅキちゃん!」
「えっと、どうも?」
ミヅキさんはこちらを睨みつけたままほんの少しだけ頭を傾けた。殺し合いのあとに自己紹介するとは。これもゲームならではというか。
「まぁコマイヌ君も何のこっちゃやと思うんやけど」
まぁそうですね。
「クランとか気になってたりせぇへん?」
…………。
もしかしてここまでの長い前振り、勧誘のためだったの?
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます