第60話 タイチとエマ

「エマ!魔物との距離が近すぎるんなら無理に銃に頼る必要は無いぞ。一旦距離を置いたらいい」


「グッ…!分かってるわよ!」


ドンッ!


今ので最後の魔物を倒すことが出来たみたいだな。ちなみに俺は戦闘に参加していない。エマの戦い方を見て後ろから注意していただけだ。


「今日はここまでだな。」


「…え、えぇそうね……。」


俺とエマが合流してから体感で2日ぐらい経過した。トラップで飛ばされたことでここが何層かは分からない。しかし未だにルアとは出会っていない。


 アレからかなりの戦闘があったが基本的に先ほど同じく全てエマに任せている。おれは魔物の解体をしている。このダンジョンに来た目的はルアの記憶回復のためと全員のレベルアップだからな。今は俺よりエマのレベルアップを優先しよう。


 俺は火でダンジョンに入る前に王都で購入していた肉を焼いて調理する。エマは戦闘の疲れで休憩中。ここまで来てエマの精神も肉体もかなり強くなった。既に魔物を倒しても嘔吐するということは無くなっている。レベルもかなり上がっている。レベルだけなら御使い組を越しているんじゃないか?アイツらが今どれぐらいかは知らないが。


「焼けたぞ。ほれ。」


「…あ、ありがとう……。」


 肉を食べながらアイテムボックスの中にある水を飲む。ダンジョンはいつ魔物がやってくるかわからなく、普通の冒険者ならこんなにゆったりと食事することは無いのだがそこは俺の時空魔法で解決だ。


 それにしても珍しいな……。エマが素直に礼を言うなんて……。ただこの事を口に出したら怒るだろうけど。素直に礼を言うほど疲労しているのかもしれないな…。


「……今絶対に変なこと考えたわね?」


「…いいや、全く。ルアのことを考えてた。」


 なんで気づかれたんだ?そういやたまにルアも鋭いところがあるよな……。これが女の勘ってやつなのか?


「ルア……。その…タイチは心配じゃないの……?ルアのこと」


「いいや、全く。」


 いや、待てよ…。食事に関しては少し心配だな……。一応ルアのアイテムボックスには料理できないだろうから加工済みの食事を入れて置いたんだが…。天使族は飢え死にするなんてことは無いと信じたいところだな…。


「なんで言いきれるの?もしかしたら……その……」


「死んでしまってるかもしれないって?」


「……」


無言は肯定ってことだな。


「まぁそんな心配をするのも仕方ないかもしれないが、それは無いから安心しろ。」


「……なんで言いきれるの?」


「なんでって言われても感覚としか言えないが……。」


 そもそもルアが魔物に負けるなんてことはありえない。普段は少し気が抜けているところがあるが、戦いに関しては才能の塊みたいなもんだし。それにルアが死ぬ姿なんて想像できない。まぁそんなことになるなら何がなんでも助け出してやるが。


 何となくだが今もルアが生きていることは分かる。今頃「お腹減った~!タイチ、ご飯作って〜!」とかって言ってるんだろうな…。甘えられるのは嬉しいんだけどな。


「そ、それだけ……?」


「まぁ、強いて言うなら約束したからな。『ずっと一緒にいる』って。」


『私はタイチのものだから、ずっと一緒にいるよ。離れるなんてことしない。だからこのドン底から見つけよう、たくさんの生きる意味を!』


 思い返せばこの時に惚れたんだろうな。全く単純な男だと思うよ。


「というわけでルアは俺が死ぬまでは死なない。俺もルアが死ぬまでは死ねない。つまりルアは生きてるんだよ。」


 食事に関しては本当に心配だが……。きっと何とかして凌いでいると信じよう。


「……ルアが羨ましいわ…。」


 ボソッとだがエマがそう言ったのを俺は聞き逃さなかった。今のはエマの本音なのだろう…。しかし今日は珍しく本心を隠そうとしないんだな。


「……ごめんなさい…。」


「……?何謝ってんだよ。本当にどうした?らしくないぞ。」


「もし、私がこのダンジョンにタイチ達と一緒に来ていなかったら、私がいなかったら…もっと私が強かったら…、きっとタイチは今頃ルアと再会していたでしょうから…。」


 確かに俺はエマと再会してからダンジョンの攻略スピードを大幅に落としてはいるが。


「別に気にすることはないと思うがな…。多分今ここにいるのが俺じゃなくてルアでも同じこと言うと思うぜ。」


「……」


「それに実際貴重なんだよ。俺が信じることができる人っていうのは…。」


「えっ?」


「前にも言ったが俺は御使い組に裏切られて以降人のことを信じることができない。人間不信なんだよ。」


 だから亜人のギルドを作ったんだ。人間に恨みをもつ存在なら信じることが出来るかもしれないって思ったからな。


「でも唯一、エマのことは結構信用してるつもりだ。」


「唯一…」


 ルアは人間ではなく、天使族だからな。別に何族でも俺はルアを信じているが。


「ねぇ、どうしてタイチは私とのその……婚約を認めてくれたの?本当に王国との関わりが欲しかっただけなの?」


「……俺はエマと俺が似ていると思ったんだ。同じような境遇で苦しめられていたからな。けど俺とエマでは違った。俺はアイツらを許す気にならないし、アイツらに復讐する気だった。けどエマは違った。それは力があるとかないとかじゃないんだ。そんなエマが俺は多分……少し羨ましいんだろうな……。」


「タイチが私を……。」


「……喋りすぎたな…。もう寝ろ。見張りは俺がやるから。」


「う…うん。」


 そのままエマは自分のテントに入っていった。ここに来る前に俺が作った簡易用の寝床だ。


「…エマの強みは王族でも決して奢ることの無いプライドと強い精神メンタルだ。忘れるな…。」


 どんな状況でも冷静になることが出来て我慢強く、諦めない。俺とルアの強さを見ても追いつこうとしいる。その努力も欠かさない。これは並大抵の人ができることでは無いだろう。


「すう…すう…」


 返事が聞こえてこないと思ったら寝息が聞こえてきた。もしかしてもう寝たのか…?なら今の独り言は結構恥ずかしいな。さてと、明日こそルアと再会できるといいんだけどな…。

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