八
「あれ、
呪術司室に現れた親友に
「お前こそ、藍殿についていなくていいのか?」
「私は忙しいからね。後、君が傍にいると思っていたけど」
典は机の上に散らばった書簡を片付けながら、答える。
「強、頑張って藍を宮に留めてくれよ。君しかできないから」
「……俺には無理だな。それはお前の仕事だ」
「私?無理だよ。彼女は強情だから。君の願いなら聞くかもしれないけど」
とんとんと紙をまとめ、紐で結びながら典は背中を向けたまま言葉を続ける。
「典!」
強は親友に近付くとその肩に手を置いた。
「本当は、お前……藍殿のことを好きなんだろう?」
「?!」
「俺はお前が、その…藍殿に口づけするのを見た。だから」
「口づけぇえ??」
眉をひそめて、典が振り向く。
「……何を見たんだ?強?」
*
「強……。本当、恋におぼれた君は楽しいよね」
話を聞き終わり、典は腹が抱えるほど笑い、目に涙を溜めたままそう口にする。
目の前の椅子に座る強は顔を真っ赤にして、渋い顔をしている。
「私は、それは藍のことはかわいいと思ってるし、大切にしたいと思ってる。でもそれは妹みたいに思っているのであって、恋愛感情ではない」
「………」
「だから、君が私に遠慮することなどないんだから。さあ、警備隊長殿。君の仕事だよ。未来の呪術司を宮に留めるように」
典はぽんぽんと親友の肩をたたく。
強はまだ腑に落ちないようで眉間に眉を寄せたままだ。
「強、目を離すと。あの藍のことだ。またベッドから抜け出すと思うけど?急いだほうがいいと思うけど」
(水が飲みたい……)
寝ているうちに誰かが水を置いていったらしい。
しかし、水の入った湯呑はベッドから少し離れた机の上にあった。
声を出して呼んでみたが、誰も来るようすはない。
藍は溜息を吐くと、体を起こす。痛みが走ったが、傷は開かなかったようだ。足をゆっくりと床につける。ひやりと冷たい感触がした。
(あ、大丈夫だ)
両足を床につけ、藍はほっとする。
そして、歩き出し、後悔した。
「…っつ!」
お腹が割けるような痛みがして、動けなくなる。
眩暈がして、ぐらりと視界が揺れる。
(あ、倒れる)
「藍殿!」
声がして、体がふわりと浮いた。
「典が言った通りだ。来てよかった」
心底ほっとした様子で強がそう言う。
「なぜ君はじっとしていらないんだ?」
腕の中の藍に強はあきれた様子をみせる。
「え…と。お水が飲みたくて…。誰も来てくれないから」
「水?」
そう言われて藍の視線を追うと、少し遠くの机に水の入った湯のみが見えた。
「そうか、そうだな。悪かった」
強はくすっと笑うと藍をベッドに連れ戻し、湯呑を掴む。
「あ、ありがとうございます」
(来てくれて嬉しかったけど、間が悪い時に……いや、よかったのかな…)
強が来なかったら藍の体が確実に床に激突していた。
恐縮して水を飲む藍に強は優しい視線を投げかける。
「藍殿。やはり、俺は君が好きだ。ずっと傍にいてほしい」
「ぶっつ」
驚きのあまり、水を口から吹き出し、ベッドが濡れる。
「す、すみません!!」
(え、私、何て言われの!?)
どうしていいかわからず、動揺する藍を強はじっと見つめる。
「だから君の世話は俺がするから」
「え、あ、ありがとうございます」
そうして藍は宮に留まることになった。
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