五
「
ふいに飛んできた気を避けるため、
気は藍と強の間を突き抜ける。
「雑魚ではないらしいな」
「
藍は現れた坊主頭の男をまじまじと見つめる。
「名前を覚えていたのか。確か、お前は藍だったか?」
男は地面に降り立つと刀を抜き、藍に切りかかる。
キンっと音がして、藍の目の前で男の刀が防がれる。
防いだのは強である。
「物理的攻撃は俺が得意とするものだ」
警備隊長は男の刀を押すと、体勢を崩した紺に向かって振り下ろす。同時に藍が気を作り、男に向かって放つ。
「騒いでもらったら困る」
紺は瞬時に体勢を整えると刀を受け止め、空いた手で飛んできた気を弾く。弾かれた気は藍に跳ね返るが、それを刀で立ち切ると、紺に飛び掛った。
紺は強の脇腹に蹴りを見舞うと、藍の刀を受け止める。腹部をけられた強の体は宙を舞うと建物の壁に激突する。
「強様!」
藍の注意がそれ、力が削がれた隙に紺は気を作り、若い呪術師にぶつける。
「!!」
藍の体は宙を飛び、庭の花畑の中に落ちる。
「もう終わりか?」
「まだだ」
「まだです!」
それぞれの落下地点からむくりと体を起こした二人に、紺が薄笑いを浮かべる。
「なかなかやるな。普通なら今の攻撃で死んでるはずだ」
「甘く見ないでください!」
そう言って最初に反撃したのは藍だった。
刀を両手で掴むと、空高く舞いあがる。そして気を放った後に一気に急降下する。気は弾かれ、庭の木々を破壊する。葉が舞い散る中、強は目を凝らして紺を見た。
キンと音がして藍の刀と紺の刀がぶつかり合う。
強は刀を構えると紺を目指して走り、その背後を切る。
しかし、男は藍の刀を押し、その反動を利用して体を捻る上空に飛び上がる。
目標を失った刀が宙を切る。
「藍殿!」
刀は藍の腕の届き、少しだが血が飛び散る。
「惜しかったな。相打ちだったのに」
上空で紺は笑う。
紺が空に消えたのを確認し、刀を止めようと試みたが出来ない強は咄嗟に刀の方向を変えた。そのため、藍は軽傷で済んだ。しかし傷ついたことは確かだった。真っ赤な血が流れ落ちるのをみて、強は胸に痛みも覚える。
「すまない」
「大丈夫です。こんな傷。それよりも」
藍は袖を破くと傷口に巻く。そして頭上の男を睨みつけた。
「少しはやるようだな」
紺は薄笑いを浮かべると気を放った。
*
「嫌な予感がする」
討論は続いていた。
頭の硬い所司の中には
「帝様。内所様、申し訳ありません。私はここで中座いたします」
所司の中で一番年少者であるのだが、呪術司はそう一方的に言うと席を立つ。
「呪術司殿!」
内所が咎めたが、典は足を止めることはなかった。
「内所。わしが許可する。会議の中座はわしが許可すれば所司の許可はいらないであろう?」
帝に嫌味を言われ
会議が始まり半刻が立っていた。しかし計画は終わりに近づいているはずだと思い、内所は顔を上げると討論を続けた。
「
体を起こしかけた藍に向かって放たれた気を、
「強様!」
その体は気によって吹き飛ばされ、庭の木々を叩き割り、止まる。藍は痛みで音を上げる体を引き擦り、強に駆け寄る。そして息をしているのを確認し、安堵の息を吐く。
「許さない!」
藍は刀を捨てると、両手に気を溜め、男に向かって飛んだ。
「!!」
至近距離で放たれ、男の体が飛ばされ、壁に激突する。
(やった?)
藍は地面に降り立つと男に恐る恐る近づく。
「?!」
どすっと音がして腹部に痛みが走る。血が流れているのがわかった。
「油断は禁物だ。若者よ」
紺が小刀を取り出し、藍の脇腹を刺していた。
「急所ははずしておいた」
「…こ…の」
「刀は抜かない様がいいぞ。助けが来るまで待つがいい」
藍は男の言葉を聞きながら、その場に倒れ込む。
痛みで気が遠くなりそうだった。
男が
部屋に入り、紺はベッドに眠る凜と、その横の椅子に座り顔を伏せてすやすやと寝息を立てている草を見た。
「……悪いな」
紺は草の頭に手を置く。気を高め頭部を破壊するつもりだった。
「!」
しかし、ふとその手を掴まれ、紺はぎょっと手の主を見つめる。
それは寝ているはずの凜だった。
「誰の指示だ?空か」
「俺の意志だ。邪魔をするな」
紺は手を払いのけると凜の首を掴む。そして暴れる凜を押さえながら、別の手を草の頭に置く。
目を閉じて気を高める。
しかし、草の頭部を破壊しようとした時、鋭い気を感じ、凜の首を掴んだまま、体を捻った。
ばしっと音がして、気が部屋の壁に当たる。
「呪術司か…」
部屋の扉付近に金色の髪の美しき宮の呪術師が立っていた。
筍が足止めに失敗したことを悟り、紺は眉をひそめる。
第二波が放たれ、紺は気を避けると凜を気絶させ、その身を肩に担ぐ。元より目的は凜である。
「凜を離してください」
「……それはできぬ相談だ」
紺はそう言うと壁に気を放ち、穴を開けると脱出路を確保する。
「待ちなさい!」
「呪術司よ。俺のことより自分の弟子を心配しろ。手遅れになると死ぬぞ」
男の言葉に典は扉の入口で倒れていた藍の様子を思い出す。
「もう会うこともないだろう」
悔しげだが、慌てて弟子の元に走る典にそう言葉を残すと、紺は宙高く上がり姿を消した。
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