三
今上帝の
典が村から宮の呪術部に入り、五年が経過し、呪術司の補佐の役目をするようになっていた。帝の後継者である海の身辺警護を任され、よき相談役として典は海に仕えていた。
両親が早くに亡くなった典は従姉妹と共に育った。同じ年の
典は久々に村に帰ることを楽しみにしていた。また従姉妹たちが次期帝の海を一目でも拝める機会を喜ぶに違いないと思っていた。まさか、海と麗が恋仲になるなんて予想もしていなかった。
そしてその恋が麗を破滅させることになるなど、想像もできなかった。
数日後、典は海を村に連れてきたことを後悔することになった。
二人は磁石が引き合うように恋に落ちた。そして若い二人は誰も予想もできない行動をとった。帝になる海は黒族以外のものと婚姻を結ぶことができない。愛妾として麗を側に置くことができても、それは二人にとってつらいことだった。
若さのあまり、二人はすべてのしがらみから逃げだ。宮の呪術師として、麗の行動は咎めるべきものであった。時期帝を誑かせた罪と、典とそのほかの兵士は二人を追った。
二人はすぐに見つかり、引き離された。そして麗は
「……帝も見てたんですか?」
「ああ」
典は短くそう答える。
(だから、私をあんなに辛そうに愛おしそうに見ていたのか)
「でも、それじゃ、絶対に麗さんじゃないですよ。関係者って、翠さんしかいないじゃないですか」
「そうだね」
「翆か…どこかの呪術師を使って呪いをかけたか…」
「でもそれにしてはおかしい」
典がそうつぶやき、空を見上げる。
(確かに、もし呪いをかけた本人であれば私達に会うなんて考えられない。しかもあの性格じゃ、そう思えないし……)
「うわああ!!誰か、誰か助けてくれ!」
悲鳴がふいに聞こえ、藍は考えを中断させられる。
「助けないと!」
「あんたたち!何してるの!!」
現場にたどり着き、藍は五十歳すぎの男をつるしあげている数人の人相の悪そうな男を見た。
「おやおや、可愛らしいお嬢さんだ。顔に似合わず、威勢がいいな」
松明を藍に向け、その姿を確認して男たちが下卑た笑いを浮かべる。
「お嬢さん、俺たちを遊ぼうぜ」
「じゃ、遊んでもらいましょうか!」
藍が男達にそう言い放つと気を両手につくり、投げる。
「ぐほっつ!」
「く、呪術師か!」
仲間を気で倒され、残った男達が顔色を変える。
「これもあげる!」
藍は皮肉な笑みを浮かべるとさらに気を放ち、すべての男達をコテンパンにやっつけた。
「よっし、これでおしまい」
男達を一塊にして、木の蔓で括り付け藍はパンパンと手を叩く。
「あ、まずい。火が!」
藍は男達が持っていた松明が落ち、燃え始めた木々を慌てて足でもみ消そうと慌て始める。助けられた男は目の前で繰り広げられている光景を信じられない様子で呆然と見ていた。
「藍殿?!」
駆けつけた強は一塊にされた男達、火を必死にもみ消そうとしている藍を見て驚く。しかしはっと気がつくと側に駆け寄り、火を消そうと動く。
「藍、強。下がって」
たどり着いた典は慌てる様子も見せず、二人にそう言うと両手に気を作る。火に向かって気を放ち、火を上空に飛ばす。するとそれは一気に空で燃えあがり消えた。
「すごい!」
藍は師の技を見て、目をきらきらさせる。
(やっぱり伊達に呪術司じゃない。すごいな)
「大丈夫か?」
強が呆然としている男に声をかける。普通の人が見ると信じられない光景だろうなと強は男の心中を思いやる。
「あ、大丈夫です。ありがとうございました」
強の腕を掴み、立ち上がりながら男は藍に頭を下げる。そして、ふと、典の作った光に照らされ明らかになった藍の顔を凝視した。
「麗さん?!あんた、なんでこんなところに?!」
「?!おじさん、この顔の持ち主を知ってるんですか?」
「この顔の持ち主?あんた麗さんじゃないのか?そうだな。麗さんのわけないか。麗さんが呪術師のわけがない。しかもは紫曼(シマン)の町にいるはずだ」
「紫曼の町?!」
(それってここからかなり遠いんですけど?!)
「旅の方。私たちは麗を探しているんだ。麗の情報を教えてくれないか。私は宮の呪術司で、麗の従兄弟だ」
美しき顔で邪気のない笑みを向けられ、男は呪術司だし、悪い人じゃなさそうだと、麗について知っていることを話し始めた。
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