第711話 連理之枝

 鶫たちの迅速の調査により、酒が水に入れ替わった真相が直ぐに判明した。

「上杉氏お抱えの業者の独断、か」

「はい。『京に入る途中で酒樽さかだるを落としてしまい、動揺して入れ替えた』と」

「……最悪だな」

 呆れた大河は、膝の上の茶々と摩阿姫まあひめを抱きしめていた。

 抱擁は2人からの指示だ。

 徳川家康、千姫、元康は早々と江戸に戻った為、寂しがり屋状態に入った大河を、2人が体を張ってなぐさめている所である。

「業者とは既に契約を解除し、現在、新たな業者を選考中です」

「基準値が高いがすぐには決まらないだろうな」

「はい」

 大河は茶々の肩に顎を乗せつつ、摩阿姫の頭を撫でる。

「真田様♡」

「えへへへ♡」

 茶々は接吻で応じ、摩阿姫は笑顔で頬ずり。

 2人とも夫の弱い所は見たくないのだ。

「残念だけど、今後、酒を含む全ての業者の搬入はより厳格にな?」

「真田様」

 摩阿姫が、小さく挙手。

「ん?」

「山城真田家が直接、酒蔵を造ればいいのでは?」

「う~ん。自前でねぇ」

 酒は酒税法に基づいた酒類製造免許が要る。

 自分で消費する分には良いのだが、朝廷に献上する物もある為、酒蔵を造るには、酒税製造免許保有者の確保が必要不可欠だ。

「……鶫、我が家で造れるか、想定してくれ」

「は」

 鶫が去った後、大河は茶々の頭を撫でつつ、摩阿姫を褒め称える。

「目からうろこだよ。ありがとう」

「いえいえ。それほどでは」

 謙遜するも嬉しいらしく、その頬は朱色だ。

「それよりも、妹たちを可愛がって下さりありがとうございます」

 大河は彼女たちが帰宅後、実子の心愛、類などと共に一緒に遊ぶなど、可愛がっている。

 休日には添い寝したり、買い物したりと、非常に交流が深い。

「婚約者だからね。楽しんでもらわないと」

「では、私もそろそろ立候補してもよろしいでしょうか?」

「うん?」

 摩阿姫は、寄りかかる。

「妹たちを優先する賢姉けんしにも時にはご優先してほしいので」

「……」

 最近、摩阿姫が自重していたのは、大河に恩を売る意味があったようだ。

 困って茶々を見ると、

『平等』

 と目で告げてきた。

「……分かったよ。じゃあ、2人は子守りに託して何処か行こうか?」

「一緒に参拝をお願いしますね♡」

 大河の手を強く握って摩阿姫は、笑顔を見せるのであった。

 

 平成28(2016)年時点で文化庁が把握している寺社仏閣数は、以下の通り。

 寺院 7万5798ヶ寺(*1)

 神社 8万1073ヶ社(*1)

 これらは、コンビニの5万5924軒(2020年末時点 *2)よりも多い数字だ。

 その中で京都府では、

・3027ヶ寺(*1 3・9%)

・1757ヶ社(*1 2・1%)

 となっている。

 都道府県別では寺院は、

・大阪府 3297ヶ寺(*1 4・3%)

・兵庫県 3215ヶ寺(*1 4・2%)

・滋賀県 3070ヶ寺(*1 4%)

 に次ぐ4位。

 神社は、

・新潟県 4743ヶ社(*1 5%)

・兵庫県 3857ヶ社(*1 4・7%)

・福岡県 3410ヶ社(*1 4・2%)

・愛知県 3356ヶ社(*1 4・1%) 

・岐阜県 3272ヶ社(*1 4%)  

・千葉県 3184ヶ社(*1 3・9%)

・福島県 3058ヶ社(*1 3・7%)

・静岡県 2847ヶ社(*1 3・5%)

・広島県 2783ヶ社(*1 3・4%)

・茨城県 2490ヶ社(*1 3・07%)

・長野県 2460ヶ社(*1 3・03%)

・富山県 2282ヶ社(*1 2・8%)

・高知県 2171ヶ社(*1 2・67%)

・大分県 2124ヶ社(*1 2・61%)

・埼玉県 2022ヶ社(*1 2・4%)

・栃木県 1915ヶ社(*1 2・36%)

・石川県 1889ヶ社(*1 2・32%)

 に次ぐ19位だ。

 そんな京にて摩阿姫が選んだのは、夫婦円満のご利益がある神社であった。

 現在の市内に当たる範囲内では、

・白山神社

・吉田神社

・松尾大社

・八坂神社

・下賀茂神社

・三嶋神社

 などがそのご利益で有名だ。

「♪ ♪ ♪」

 上機嫌な摩阿姫に幸姫は、満足気だ。

「そんなに逢引が楽しみ?」

「だってほぼ初めてだし♡」

 豪姫、与免に遠慮していた分、今回は独占出来る。

 2人の子守りを担当する与祢、伊万に感謝しなければならない。

「真田様は?」

「貴女の準備が出来るまで、心愛様と遊んでるよ」

「良いなぁ。独占出来て」

「なら、養子になる?」

「いや、それだと結婚出来ないから

 大河が子供に注ぐ愛情と妻に注ぐ愛情には、大きな違いがある。

 摩阿姫は後者を望んでいる為、養子になる気は更々ない。

「姉様、お勧めの場所ある?」

「う~んとねぇ」

 姉妹は一緒に地図を覗き込む。

 大河を介して、姉妹の絆は深くなるのであった。


[参考文献・出典]

*1:平成28年度版宗教年鑑

*2:日本フランチャイズチェーン協会 

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