第686話 心腹之疾

 万和6(1581)年5月3日。

 京都新城から多くの馬車が出立する。

 出羽国に行く面々は、以下の通り。

・朝顔

・エリーゼ

・デイビッド

・ラナ

・上杉謙信(近衛大将代理)

・上杉景勝(同上)

・累

・ヨハンナ

・マリア

・伊万

 の合計10人。

 居残り組は、

・お市

・心愛

・浅井家三姉妹(茶々、お初、お江)

・前田家三姉妹(摩阿姫、豪姫、与免)

・猿夜叉丸

・早川殿

・ナチュラ

・橋姫

・立花誾千代

・阿国

・鶫

・風魔小太郎

・幸姫

・甲斐姫

・松姫

・アプト

・井伊直虎

・珠

・楠

・姫路殿

・与祢

・綾午前

・小少将

・稲姫

 の28人。

「じゃあ、楽しんでくるね?」

「ああ。行ってらっしゃい」

 朝顔に接吻して見送る。

 それから大河は、直ぐに天守に戻った。

 愛妻との別れを済ました後の優先事項は、与免の体調だ。

 天守の大河の寝室では与免が、高熱でうなされていた。

「う……う……」

 一時は嘔吐、下痢もあったが、薬が効いているのか熱だけで済んでいる。

 この状態での長距離移動は出来ない為、居残りは正解だろう。

 氷枕は寝汗でぐっしょり。

 珠が頻繁に替える。

「あ、若殿。お帰りなさいませ」

只今ただいま

 座って与免の手を握る。

 手汗でぐっしょりだが、与免は微笑んだ。

「さなださま……♡」

「寝れた?」

「すこし……」

「分かった。御伽草子おとぎぞうし、読む?」

「はい♡」

「何が良い?」

「しゅてんどーじ」

「……」

 大河が目配せすると、井伊直虎が首肯し、本棚に向かう。

 その間、大河は与免の額の汗を手巾で拭き取る。

「読んだ後は、お粥と薬な?」

「おくすり、にがい」

「苦いよなぁ。俺も苦手」

「さなださまも?」

「うん」

「こどもwww」

「そうだな。子供だな」

 大河は、微笑む。

 父娘のような会話に摩阿姫は、別宅で暮らす父を想った。

(父上もこんな感じで接して下さったかな?)

 父・前田利家は戦国時代、織田家の一員として働き、安土桃山時代に入るとその閣僚として多忙を極め、あまり子供と交流する機会が少なかった。

 その為、幸姫、摩阿姫、豪姫、与免は子煩悩こぼんのうな父を知らない。

「にぃにぃ、与免は?」

「熱はあるけど、大丈夫そうだよ。与免、熱以外に何か悪い所ある?」

「無い!」

 断言した与免は、大河に抱き着く。

 汗まみれだが、大河は不快を示さない。

「さなださま、よんで!」

「はいよ」

 直虎から渡された御伽草子・『酒吞童子』(愛姫作)を大河は、音読し始めるのであった。


 昼頃。

 与免の熱は少し下がる。

 それでも風邪なので油断大敵だ。

「zzz……」

 眠る与免の近くで、大河はお市と過ごしていた。

「心愛と一緒に行けばよかったのに」

「良いのよ。出羽の方は謙信が纏め役だから。こっちは私が必要でしょ?」

「でも、誾が居るよ?」

身重みおもに心労かけないの。ばか」

 軽く小突かれ、大河は頷く。

「それもそうだな」

 心愛は、お市の母乳を吸いつつ、

「ばか~」

 と真似する。

 父親としては叱らなければならないのだが、大河は子供に甘い。

「うん。馬鹿だねぇ~」

 肯定しつつ、心愛の頭を撫でる。

「おねえちゃん、かぜ~?」

「そうみたい。だからあんまり近づいちゃ駄目よ」

「うん……ちちうえは~?」

「ちゃんと予防しているよ」

 予防薬の瓶を見せると、心愛は興味津々に見つめる。

「それおいし~?」

「苦いよ」

「じゃあ、いや」

「飲め、って言ってないよwww」

 心愛の手を握ると、

「……ん」

 与免が目覚め、手を伸ばす。

「ん~」

「ここに居るよ」

 心愛から離れ、添い寝し、与免の手を握る。

「ん♡」

 安心したらしく与免は目を閉じ、再び眠り始める。

 お市が囁く。

「(まるで子供みたいだね?)」

「(実際、子供だからな)」

「(この子と将来、夫婦になるんでしょ?)」

「(分からん。でも、この子が望めばな)」

「(好きなの?)」

「(実子のように大切だよ。これが好意に変化するかは分からないが)」

「(泣かしたら殺すからね?)」

 お市は睨むと、大河の耳朶じだを甘噛み。

「痛いよ?」

「恋心をもてあそんだら、嚙み千切るから」

「へいへい」

「あは♡」

 お市を抱き寄せて、その頬に接吻。

「……」

 与免と握手しつつ、お市とイチャイチャし始める実父の軽薄さに、心愛はジト目を向けるのであった。

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