第94話 思いがけぬ再会

 バザルマイトの数ある地上都市のなかでも、狩人協会の統括拠点があるクメロンは一際発展しており。


 リゾートホテルのような巨大宿泊施設も数多く立ち並んでいるが、そういった場所は一泊あたりの料金も高額で長期滞在を予定している俺たちが毎日支払うには少々荷が重い。


 ホテルのレビューサイトのように、インターネットで市内の宿泊施設をまるっと検索出来れば楽なのだがこの世界ではそうもいかない。


 さてどうしたものか…と休憩に立ち寄ったカフェのテラス席で顔を突き合わせ相談していたところ、歩道から思いがけない人物に声を掛けられた。


「ああ、いたいた。 ムホホン。 そこのハンターくん達、少しいいかネ? 」


 その体格や雰囲気からドワーフ族だと一目でわかるその男はどこかで見た覚えがある顔つきをしていた。


 はて誰だったかとこちらが思い出そうとするよりも先に、彼は立派な口髭のカールした先端部を指でピンッと伸ばしながら。


「ワガハイを覚えているかネ? 爆発愛好家こと、バグル・ボムダムの名を」


 と教えてくれた。


「あっ…武勇祭典でわたしの対戦相手だったハンターさんなの」


 当時の記憶が蘇ったルカが「あの時の…」と口にすれば、バグル氏は満足そうに頷いた。


「ウムウム。 ついでに紹介しておくと、こちらの様子をあそこの道で窺っているのはワガハイの愉快な仲間たち…といっても二人だがネ。 チーム名”怪物は爆発だ”のパーティーメンバーなのだヨ」


(怪物は爆発だ…か。 酒豪三盟といい、結構みんな自分たちのパーティーに名前つけてんだな)


 バグル氏が指さした車道を挟んで反対側の歩道に視線を向ければ、ウェポンカバーに収納された武器を背負った同業者と思しきドワーフが二人、こちらへ手を振っていた。


「休憩中のところ、急に声をかけてしまってすまないネ」


「ああいや、それは別にいいんだが…」


「最初の口ぶり、わたしたちを探していたみたいだったの。 何か用があったの? 」


「あー用というかだネ。 実は、狩人協会の建物でキミたちの会話が耳に入ってきてネ。 おおそうだ、一応最初にいっておくと別に盗み聞きをするつもりじゃなかっただヨ? ワガハイたちも依頼の達成報告で隣の窓口にいたからネ、聞こえてしまったんだヨ。 ムホン。 まあそれで、あの時キミたちは等級の話もしていただろ? それを聞いてワガハイ、もしかしたらキミたちが統括拠点のあるような土地にくるのがはじめてなんじゃないかと思ってネ」


「お~! せいかい」


「ムホホ。 そうだろう、そうだろう。 そこで、おせっかいだとも思ったんだケド統括拠点があるこの土地特有の場所について教えてあげようと思っていたんだヨ。 これからここで活動するなら、知っておいて損はない情報だしネ。 まあその、仲間内の話で盛り上がっている間にキミたちを見失って今のいままでこうして探していたんだけどネ。 フホホホ! 」


「そんな、私たちのためにわざわざ…」


「なんだか悪いわね」


「いやいやなんのなんの。 ワガハイたちは皆、ここクメロンの地下都市。 ロンメクに住んでいてナ。 どうせ今日は依頼の報告だけ済ませたら家に帰るつもりだったんだヨ。 たまには仕事を早めに切り上げて子供たちの相手をしないと、妻にばかり懐いてしまうからネ。 トホホホ…」


 パパとしての立場が…とオーバーなアクションでうなだれてみせたバグル氏は、すぐに体をムクリと起こし本題に入ろうとするが――


「ああ! ちょっと待ってくれ。 どうせなら、ここで一緒にお茶でもしながら話さねぇか? 」


「ボムダムさんたちの時間が大丈夫ならですけど、せっかくですし」


 ルカ以外は今まで直接の面識がなかったとはいえ。


 こうしてアウルティア以来の再会を果たし、親切心からわざわざ協会の建物を出てから追いかけてきてくれたのにこのまま立ち話もあれだろうとそう切り出せば。


 そういうことならご一緒させてもらおうと、近くのテーブル席を取りバグル氏のお仲間さんたちも交えてみんなで軽食をとりながら話の続きを聞くことにした。

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