第92話 魔法の疑似餌と土鼬(後)

「アレン、その光魔法を拡散させろッ」


「う、うん! みんな、下を向いててね…! 」


 仲間への合図を送り、アレンが光の球に追加の魔力を流しその場で爆発させる。


「ギィ!? 」


 強烈な光の拡散に驚いたピッドミンクーは空中で体勢を崩し地面に叩き落される。


「フリートちゃん、これを…お願いします! 」


「まかせ、られた! 」


 万が一奴が穴を掘って逃げた場合、ミアがタレントを使い追跡出来るよう。


 ミアから受け取った針をフリートがダーツのように投げつけ、ピッドミンクーの身体に刺し込むことに成功した。


「めいちゅー!! 」


「ナイスです…! 」


 体勢を立て直し、威嚇するように牙を剥きだすピッドミンクーだが。


 周囲の木々を利用したご自慢のかく乱戦に移行することなく、右に左にしきりに辺りを確認する仕草をみせるなどどうにも様子がおかしい。


(うまくいったみてぇだな…! )


「よしっ、狙い通りね…! 」


「ミアさんっ! 準備はいい? 」


「ええ、アレンさん…! ここで仕留めましょう…!! 」


 しっかりと休息をとったことで闘気も回復したようで。


 闘気を十二分に纏わせたミアの鞭が風を切り、強烈な一撃がピッドミンクーの頭部を捉えると。


 奴がよろめいたその隙に、アレンが懐に潜り込み盾による殴打を交えた連続斬りを叩き込んだ。


「うりゃー!! どうだっ!! 」


「油断しちゃダメ、逃げるわよっ! 」


「させません…!! 」


 足元を薙ぐようにして振るわれたミアの鞭に後ろ脚を絡めとられ。


 地面に潜っての逃亡を図っていたピッドミンクーは、痛みに悶えるようにしてその場で転がり込んだ。


「トドメだ!! 跳躍円斬! 」


 空中に飛び上がり縦回転を加えながら相手を切りつけるこの技は、勇者が序盤に覚える武技の中では貴重な多段ヒット攻撃になっており。


 その分、実戦で使うには隙が大きいが体勢を崩した敵に対しては絶大な効果を発揮する。


「や、やったー! 」


「やりました…! 」


「いい連携だったわねっ」


「う。 おみもと」


「お見事だな」


「ピッドミンクーを逃がさず倒のはなかなか難しいの…凄いの」


「あとは素材がドロップすれば、ここでの依頼は全て完了ねっ」


「おちろ~! そざー、おちろ~! 」


 魔物が魔力の粒子となって消滅するまでには少し時間が掛かるため、今のうちにピッドミンクーが地面から現れる際に出来た穴を埋めておく。


 こういった後始末は、細かくルールが定められているわけではないのだが。


 同じフィールドで活動する同業者や旅人たちの迷惑にならないためにも、下手をすれば怪我の可能性もある穴などは俺たちで処理しておくべきだろう。


「それにしても、今回の作戦。 気持ちいいくらいに上手くいったわねっ」


「疑似餌でおびき寄せるやつですか? 」


「うんっ、それもそうだけど。 その後のことも考えておいたのよ。 地面に落とされたアイツの様子、どこかおかしくなかった? 」


「そういわれてみると…」


「う~ん、なんかキョロキョロしてたような…? 」


「そう、そこよっ。 ピッドミンクーが厄介な点は、地面に潜ってしまう他にもう一つ。 木から木へと飛び回って、かく乱しながら攻撃してくるところにあるわ」


「確かにボクたちの頭上を飛び回られたらって考えると…。 すっごくやり難そうかも…! 」


「鞭での攻撃はある程度の距離まで対応してますが…流石に木に登られてしまってはお手上げですね…」


「でしょ、そこで今回。 奴から木を奪うことにしたのよ」


「木を奪う…ですか? 」


「でも、木ならそこら中にあるよ…? 」


「そうね、でも奴はあの時周り木があるにも関わらずそれを見失っていた」


「なんだかそう聞くと、なぞなぞみたいですね」


「木があるのに木が見えなかった…? 」


「あっ…! そういえばたしか、ピッドミンクーは目があまりよくないという話ではなかったですか? 」


「あっじゃあ、ボクが拡散させた光のショックで木が見えなくなっちゃったのかな…! 」


「惜しいっ。 見えなくなったんじゃなくて、感知できなくなったのよ」


「感知ということは…魔力ですか? 」


「そうっ。 ピッドミンクーが地面に潜っていても餌であるマッシュルームメイルアントやライトボールビーを見つけられるのは奴らの魔力を感知出来るからなの」


「今回倒した奴も、疑似餌につられて地面から現れたわけだしな」


「そういえばそうだったっ! 」


「そして、目が悪いピッドミンクーが木から木へと飛び回っていられるのもこの魔力を感知できるおかげよ。 微量ではあるけど木や岩、あらゆるものにそれぞれ魔力は宿っているわけだしね」


「そっか、もともとあんまり見えないんじゃ…木の位置とかも目で確認してたんじゃないんだね」


「そういうこと。 だから今回、アレンの光魔法は疑似餌であると同時に、奴の魔力感知を利用して混乱させるためのものでもあったのよ」


「あの時、アレンが光魔法を拡散させただろ? つーことは、だ」


「そっか…。 拡散した光魔法…。 散らばった光の魔力がそこら中にあるせいで木が見つけられなかったんだ…! 」


「ええ、その通り。 色んな魔力がそこら中にある森の中から、餌を見つけられるピッドミンクーの感知能力は素晴らしい精度だけど。 自然界では発生しない、魔法として成立するような高濃度の魔力には対応していなかったというわけね」


「魔力に敏感な事が、今回は仇になったの」


「魔物の生態を知っていると、こうして戦いにも生かせるわけですね」


「ふふっ、まさか小さい頃お父さんの影響で呼んでた魔物図鑑の知識が、こうして役立つなんて思わなかったけどね」


「魔物図鑑ですか…。 私も、興味がでてきました」


「ボクもボクも! 」


「そういえば、グレンもかなり魔物に詳しいけどどこかで勉強したの? 」


「あーいや…」


「私たちと暮らしていたころは、そういった勉強はしていませんでしたし…。 旅立ってから学んだのですか? 」


「私の家で暮らしてた時もそんな様子なかったけど…」


(マズったな…なんて答えるか)


「いやいや、これでも休日とか借りてた部屋で勉強してたんだぜ? 一応、俺も警守衛隊だったわけだしな」


「そうなんだ…って! 一応じゃなくて、今もそうよっ。 いつかバンダスランダに戻ったら私と復帰するわけだしねっ」


「へ? 」


「…それはどうでしょうか? グレンは私と共に、みんなが待っている孤児院我が家に戻るわけですし」


「それ、ちがう。 グレン、フリートと…」


「まずはなにより。 本人の意思が一番大事だと思うの」


「「「…………」」」


「ちょっとグレン――


「おっ! みんな! 見てみろ、素材ドロップしてるぜ! 」


 ピッドミンクーが残した素材を回収し、後ろを振り向けばリーニャたちは何故か難しい顔でこちらを見ていた。


(ぉ……? これで任務達成なんだし、もうちょい喜んでもよさそうだが…? )


「ええと…まあ、この話はまた今度にしましょう、か」


「…そうですね」


「いちじ、きゅーせん」


「まずは夕飯にするの」


 グリーンシープ森林での自由討伐依頼を終えた俺たちはセーフスポットで一夜を明かし。


 再び国道へ戻ると、バザルマイトの都市クメロンを目指し魔装荷車を走らせるのだった。

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