第86話 グリーンシープ森林へ(前)

 日が暮れる前にバザルマイトへ繋がる国道から一度外れた俺たちは、宿屋がある町へ向かうことなくそのままグリーンシープと呼ばれる森に向って魔装荷車を走らせていた。


 グリーンシープの森には俺たちが引き受けてきた自由討伐依頼、そのターゲットである魔物たちが生息しており。


 この森で狩りを行ってから、バザルマイトに向う予定になっている。


「おとと…! だんだん揺れが激しくなってきたわね。 そろそろ降りて人力に切り替えた方がいいかもしれないわっ」


「ああ、そうだな。 あんま無茶させて新車が一日でおじゃんになっちまったら、流石に笑えねぇし……適当な所で停めてくれ」


 国道を降りてから一時間ほど。


 この辺りは人通りが少ないようだが流石に魔装荷車で歩道に乗り込むわけにはいかないので、グリーンシープ森林を目指し道なき道を走っていたのだが。


 目的地である森に近づくにつれ、地面のデコボコが目立つようになり荷台に乗る俺たちへ伝わる振動も段々と大きくなっていた。


「んっしょっと、はーい到着っと」


 キキィィイッ、ガゴンッ。


「ふゅっ…!? う、うぅ……? う…? とーちゃく? ここが…グリンしんりんりんなのか~…? 」


「おはようフリート。 まだ目的地周辺よ、ここからグリーンシープ森林までは歩いて移動することになったの」


「お~…。 なるほと…」


 フリートにしてはいつになく静かにしているなと思ったら、いつの間にか眠っていたようだ。


 まだ眠そうに目をこすりながら、ふらふらと荷台から降りようとするのでミアが慌ててサポートにはいる。


(途中からは結構揺れが酷かったはずなんだが…よくここまで起きなかったな…)


「うっし、んじゃあ俺たちも降りて。 荷車をバラすとするか」


「うん。 でも、先ずはアレンさんを起こさないといけないかもなの…」


「アレン……? って…」


(おめーも寝てたのかよっ!? )


「ふへへっ……。 もう食べれない……うまうま……」


 まさか食いしん坊コンビが仲良く二人で寝落ちしていたとは……と驚きつつも。


 あの耳に響く停車音すらものともせず、未だ夢の中。


 よだれを垂らし、だらしない顔で寝ているアレンを揺さぶり起こすのだった。






「それじゃあ、私とグレン、オーディスティンさんで操縦席を荷台から取り外すから…」


「おっけー! ならボクたちは、その間に後ろから荷台を整理しておいて。 スペースを空けておくね」


「よろしくねっ」


「ええ、任せて下さい」


「がんばる、ぞ。 えいえいおー! 」


 魔装荷車は前方にある動力部兼操縦席を取り外すことで、普通の荷車のように人の手で引くことが出来るようになるのだが。


 取り外した操縦席は立体のパズルのように正しい手順でパーツを動かすことで旅行用のトランクくらいのサイズにまで縮小する事が出来き、車輪と共にロープで一括りにして荷台に積み込んでおけるのだ。


 街中にある駐車用のスペースに魔装荷車を停めておく際には、操縦席を外しこのコンパクトな状態にするのが一般的らしい。


 操縦席を外してしまえばただの荷車なので人力で動かすにはそれなりの力が要求されるが、スキルやレベルのような概念があるこの世界では人の力も馬鹿にならない。


 例え大量の荷物を山積みにした状態でも狩人協会に所属するようなハンターであれば問題なく動かすことが出来る。


 とはいえ、楽が出来るのであれば楽をしたいというのが人の常。


 自力で動かせるからといって初めからただの荷車でいいかと聞かれればそれは違うと答えるだろう。


「ロープで結んでっと。 よし、あとはこれを荷台に載せたら終わりね」


「おう。 そんじゃ、こっからは俺が荷車を引っ張っていくから”セーフスポット”まで道案内よろしくな」


「ええ、地図頼りになるけど。 そこは私たちに任せてちょうだい! 」


「えへへ、討伐依頼のためとはいえ。 なんだかワクワクするね! 野宿って」


「そうですね…私は野宿の経験が無いので少し不安ですが…」


「協会が用意したセーフスポットに着いちまえば、ただ野宿するよりは断然快適に過ごせるって話だし…そんな心配しなくたってきっと平気だぜ、ミア」


「ふふっ…はい。 グレンがそういうのであれば、安心できます」


「うー!! グレンっ。 セーフぽっぽっ、て、なにかのか教えて」


「ん? 狩人手帳にも書いてあるんだが…あー、フリート一人で読むには小難しいよな。 いいぜ、セーフスポットっつーのは――

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