第82話 神都出立(後)
「あっ、お姉ちゃん! 来たよ来たよ! おーい! お兄さーん! こっち、こっちです! 」
(んお? )
エントランスに出てすぐに、どこか聞き覚えのある声に呼ばれ。
キョロキョロと視線を漂わせ、声の主を探してみれば。
「なっ、アンタら…! 」
「ど…どうもです」
「こんにちはお兄さん。 こうして直接話すのは、えっと…。 街で会ったあの日以来? ですね」
「リンナにリンカ…。 二人とも、無事だったんだな…! 」
「ええ、お陰様で。 その…ここで立ち話というのもなんですし、場所を変えませんか? 」
「そうだねっ。 お兄さん、よかったらこれから私たちとお茶にしませんかっ? 」
「ああ、いいぜ。 つーか、その誘い方だと逆ナンみてーだな…」
「逆…ナン? 」
「いや、ワリぃ…。 なんでもねぇ」
「二人とも、早く行きますよ」
リンナとリンカに連れられ、訪れたのは。
以前、リンナの相談に乗った際に訪れた個室付きの店だった。
「あー…リンナ注文頼むわ」
エルーン文字で書かれたメニュー表をそのままリンナにパスし、前回同様注文はお任せする。
「前回と同じようなもので構いませんね? 」
「おう、頼んだぜ」
「えっ、えっ? 前回って、リンナお姉ちゃん私に内緒でお兄さんとお食事してたの…!? 」
「そ、それは…! 偶然、たまたま会ってその…流れでといいますか…」
「ずるーい! 」
「ず、ずるくないです」
「ずるいですっ! 」
「ハハハ」
「グレン殿も、笑ってないで何か言ってやってください! 」
「ハハ、いや、なんつーか二人とも。 前に会った時と雰囲気が変わったな」
「雰囲気が? 」
「ああ、柔らかくなったつーか。 前より姉妹っぽくなった、みたいな」
「姉妹っぽくですか…たしかに、そうかもしれないですね」
「リンナお姉ちゃん…」
「改めて、お礼を言わせてくださいグレン殿。 あの日貴方と話せていなければ、私はリンカに…妹に本心で向き合う事ができなかった。 そして――
「うん。 お兄さんがあの日、あの儀式を…この国の神話を終わらせてくれたから。 私たちはこうして”姉妹”に戻ることが出来ました」
「姫と、姫に仕える騎士ではなく。 姉妹として居られること」
「そして、私が今ここに存在できていること」
「本当に感謝しています」
「お兄さん、ありがとう」
「……。 俺はただ。 自分勝手に、自分が後悔しない選択をしただけだ」
「グレン殿…」
「だけどそれが、アンタたち姉妹。 二人の役に立ったんなら、良かったぜ」
「ふふっ、お兄さんったら素直じゃないね」
「まったくです」
「だぁーっもう、いいだろっ。 面と向かって礼なんて言われ慣れてないから、照れてんだよ」
「ふふっ、なにそれ~」
運ばれてきた料理を摘まみつつ。
リンナとリンカは、あの夜姫継ぎの儀式から逃れた後どうしていたのか。
今後どうしていくのかなどといった話を俺に聞かせてくれた。
談笑する二人の間に、妹を敬称で呼んでいた頃のような壁は既に感じられず。
まだ少し、お互いの距離感がつかめずに会話がぎこちなくなることはあるものの。
本来の、姉妹としての関係に戻りつつあるのだなということが見て取れた。
「それじゃあ二人は、これから姉妹揃って歌姫の仕事を補佐していくことになるわけか」
「はい。 私たちを含め、花園の館に住まわされていた子供たちは誰が歌姫になってもいいように様々な教育を施されてきました。 これからこの国の長い歴史の中でも、もっとも過酷で多忙になるであろう歌姫の業務を支えるのに、私たち以上の適任者はいないでしょう」
「目に見える形での変化はまだ起きてないけど。 どうしたってこの国は、これから大きくあり方が変わっていって…」
「様々な困難が訪れ、時としては軋轢を生むことだってあるでしょう」
「でも」
「本当はこれまでもそうであったように、私たちは神ではなく自分たちの力でこれからこの国を支え栄えさせていかなくてはならない」
「お兄さんのあの日の言葉で。 ようやく、そのことに気づけたんです」
「そうか…」
「グレン殿は、これからどうするのです? 」
「俺か? 俺はこの地でやりたいこともやり終えたし。 仲間と、旅を続けていくぜ」
「そうですか…」
「この国を旅の終着点にしちゃうって手もありますよ! 今ならなんと。 特例市民権が、お仲間さん全員のぶんまとめてついてきます! おっ得ぅ~! 」
「ハハハ、ずいぶん太っ腹だな、 だが、すまねぇ。 俺は、いや、俺たちはこの旅をここで終わらせるわけにはいかねぇんだ」
「グレン殿…」
「そんなに…旅が大事なの? 」
「ああ。 うまくは言えねぇが…大切な目的がある旅なんだ」
「そっか…」
「なら、仕方ないですね…。 作戦変更です、リンカ」
「うん、お姉ちゃん」
「作戦? 」
「お兄さん! 」
「お、おう。 なんだ? 」
「私たち、エルフ・オリジンはとっても長生きなんですよ」
「ああ…そうらしいな」
「だから、今は焦らずに待っています」
「待っています…。 ん、待っています…? 」
「はい。 旅を終えて、お兄さんがこの国に帰ってくるのを」
「幸い、ここアウルティアでは一夫多妻制もその逆も認められています。 つまり、グレン殿がこの国に戻った暁には。 私たち姉妹、その両方を嫁にしてしまっても何も問題ないということです! 」
「よ、ヨメ!? 待て待て待て!? な、何の話だ一体!? 」
「ナニって、結婚です! 求婚です! プロポーズです! 」
「私たちは二人とも、貴方に…その…惚れてしまったのです」
「何故!? 」
「何故って。 あの日、あんな風に助けに入っておいて。 今更何故なんて言わせません! あんなの…あんなの、誰だってドキドキしちゃいますっ」
「そうです。 私たち姉妹の心を奪っていった責任、ちゃんと取って下さいね」
「あっ、それから。 この国で待ってるっていったけど…。 あんまり待たされたら私たちのほうから迎えに行っちゃいますからね? 」
「自分が後悔しない選択をする、そう教えてくれたのはグレン殿貴方ですからね? 」
「覚悟、してくださいね」
「お兄さん♡ 」
◇◆◇
ミツキノアオ。
あの子がこれまでしてきた事を許すことは決してないけど。
少しだけ。
あの子の思いを知るものとして、悪いと思う気持ちはあるの。
グレン。
貴方にわたしは、真実を伝えていないの。
貴方の魂。
その輝きは。
愛しき人、名も無きあの人に似ているんじゃないの。
名も無き人の、魂の輝き。
そのものなの。
貴方はわたしの。
わたしたちの。
愛しき人。
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