第70話 隠された真実、明かされた正体(後)

「太陽の精霊神、テラスアイネだと…」


「うん…でも、この事はまだわたしルカも知らないの。 今はまだグレンとわたしぼく、二人の秘密にしていてほしいの」


「あ、ああ…分かったぜ」


 こんなイベント、原作には欠片も存在しなかった。


 ルカの半身であるグレアの正体が完全に明かされることはなかったし。


 グレアが今しがた口にしたエルフ・オリジンと精霊神の関係性、これが本当だとしたらとんでもなく深い闇がこの国には隠されているようだ。


「いや、待て…グレアが太陽の精霊神だとしたら。 ウッドエルフたちの元を離れ旅に出てしまって大丈夫なのか? 」


「そこはなにも問題ないの。 本来、神と地上の子らは信仰で繋がりはしても依存しあう関係になってはいけないの。 だから、例えわたしがこの世界から完全に消えたとしても、あの子たち…ウッドエルフの民に危険が及ぶような事は何もない」


「月の精霊神の器として生み出されたエルフ・オリジン。 その中で生まれた新たな信仰がわたしを精霊から神へと押し上げ、わたしを信じたあの子たちは月の精霊神の支配から逃れウッドエルフとしての個を得ることが出来たの」


「どうしてわたしが今になって地上に降ろされたのかは分からないけど。 とにかく、月の精霊神であるあの子が長年続けてきた事は決して見過ごすことは出来ないの」


「グレン、どうかわたしに力を貸して。 思い人が再び現れるその時を待ち続け、狂ってしまったあの子の暴走を何としてでも止めないと」


「思い人…そいつが月の精霊神がおかしくなってしまったきっかけなのか? 」


「うん。 月の精霊神は、”地上に落とされたある者”のために精霊から神へと至ったの。 そして、そのある者が地上を去ったとき、あの子が流した涙が大樹アズールを育んだ」


「……んじゃあ、所々ずれてはいるがこの国の伝承はデタラメってわけでもねーのか」


「うん、そうなの。 月の精霊神が待ち続けている思い人は”名前を剥奪されている”の、だから伝承にも残らなかったしわたしもあの子もその人物の名前を思い出すことは出来ない」


「だけど、名前は思い出せなくてもその人物の魂…その輝きは決して忘れることはないの。 そして、グレン。 貴方の魂…その輝きはあの人に似ている」


「俺が…? 」


「だから、きっとあの子を今止められるとしたらグレン…貴方しかいないの」


「…………」


「お願い、わたしに力を貸して。 暴走するあの子と、器として犠牲になり続けてきたこの国の民を助けてほしいの」


(そんなもん…)


 聞かれなくても、答えは決まっている。


「もちろん、力になるぜ。 姫継ぎの儀式だかなんだか知れねぇが、こんな狂った仕来りここで辞めさせねぇと…! 」


「ありがとう、グレン」


「だが…止めるっていっても。 どうやって月の精霊神…神に対抗するんだ? 」


わたしぼくの太陽の精霊神としての力をグレンに授けるの。 そうすれば、グレンはあの子の神の力にも対抗できるようになる」


「あの子が支配するエルフ・オリジンの国に居ながら、ウッドエルフの神であるわたしが今こうして表に出てこれて力を使えているという事はきっと。 あの子は今、新しい器に乗り換える前のギリギリの時期でうまく自分の力をコントロールできていない状態なの」


「だから、行動を起こすなら姫継ぎの儀式で新たな器へと交換されてしまう前がベスト」


「つーことは、俺が招待されている姫継ぎの儀式…。 その日にひと暴れすんのがイイって事か」


「うん。 本当はわたしもグレンについて行きたいけど。 いくらあの子が不安定な状態とはいえ同じ精霊神であるわたしが派手に動き出したら勘付かれて先手を打たれてしまう危険がある」


「そうだよな…それこそ、俺たちの知らない間に器を乗り換えられちまったら終わりだ」


「…うん。 もし器を乗り換えてあの子の力が安定したら、わたしもこうして表に出てはこれなくなる」


「じゃあ、グレア…いやテラスアイネと呼んだ方がいいか? とにかく、太陽の精霊神。 その力を貸して貰ったあとは俺が一人で頑張るしかねーか…! 」


「そこは今まで通り、グレアって呼んでほしいの。 今のわたしはあくまでわたしルカの友魔だからね」


「しっかし、解せないな…」


「? どうしたの」


「新しい器に乗り変える前で、力のコントロールも難しいくらい不安定な状態になってるっていうのに。 どうしてわざわざ俺みたいな部外者を姫継ぎの儀に招待するんだ? 」


「それは…本当のところはあの子に聞いてみないと分からないけど。 きっと、あの子は…」


「自分がおかしなことをしていると、もう気付けていなくて。 ただただ、こんなに努力して貴方を待ち続けていたんだよって事を自分の思い人に見せたいんだと思う」


「今回、姫継ぎの儀式に同行できる前提条件のはずだった姫守りの騎士との対戦もなくなったでしょ? 」


「えっ? ああ…そうだ。 今日の午前中はちょうど、その話を説明されてきたんだ」


「やっぱり…。 あの子はもうグレンのことを、自分の待ち人だと思い込んでいるみたい…」


「どういう事だ? 」


「精霊神武勇祭典は本来”精霊神に願いを一つ叶えてもらえる”という大きすぎる報酬を餌に。 世界中から人を呼び集めるためのイベントなの。 地上を去ってしまった思い人が、生まれ変わって再び姿を現したとき自分の元まで辿り着いてもらうための道標」


「だからこの祭典は、姫継ぎの儀と同じく思い人が再び姿を現すまで永遠に続けなければならないの。 そのために”祭典のルールを崩すことは絶対にあってはならない”。 祭典のルールを無視するような事があれば、その後開かれる祭典もどんどん滅茶苦茶なもになっていってしまうから……」


「じゃあ、つまり…」


「今回、姫守の騎士との対戦を行わずにグレンを姫継ぎの儀へ招待したのは。 もう今後祭典を開く必要がなくなったから…」


「……! 」


「あの子は、グレン。 貴方のことをずっと待ち続けてきた思い人だと…そう判断したの」

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