第34話 開示された情報

 精霊神武勇祭典の本戦へと駒を進めた十六名の参加者達。


 その内訳の殆どを二つ名持ちの狩人が占めているが俺以外に三名、二つ名持ちではない参加者が予選を突破していた。


 その中の一人が…。


(ルカ・オーディスティン…やっぱ、ルカもこの祭典に参加していたんだな)


 本戦出場者の名前が綴られたリストには友魔使いであるルカの名前も記されていた。


 フエーナルクエストでもルカは武勇祭典の本戦へと進みそこから勇者の仲間となるイベントへと発展するので、色々と筋書きが変わってきてる中でもここは原作通り進んでくれてるようでホッとする。


(ルカの対戦相手はバグル・ボムダム氏…爆発愛好家とはこりゃまた…物騒な二つ名だな)


 以前アレン達が持ってきてくれた週間誌の情報によると、バグル・ボムダム氏は地底深くに広がる地下ドワーフの帝国…バザルマイトの出身らしく、愛用の戦斧からど派手な爆発を引き起こす威力型の武技を得意としているらしい。


 彼の使う武技がゲームと同じ爆発属性を含んでいるのであれば、爆発そのものの威力もそうだが爆破攻撃を受けた際は気絶しやすい点や、爆発属性は使用者にも微細なダメージが入る点なども考慮しておかなくてはならない。


(ま…っても、これからバグル氏と戦うのは俺じゃなくてルカなんだけどな…)


 リーニャの実家であるボンデ武具店に二年近くお世話になり、バンダスランダに住まう丘ドワーフの住民にも色々と良くしてもらったおかげか、成り立ちこそ違うもののドワーフというだけで少しバグル氏を応援したい気持ちにもなってくるが恐らくここは原作通りルカが勝利を収めるのだろう。


(たしか…ルカが仲間に加入するきっかけになるイベントは二回戦目に起こる筈だしな)




 ◇◆◇




 ロンドさん達とのどんちゃん騒ぎから三日後。


 なんでも本戦へと出場した選手には既製品の武具を用いていた予選時とは違い、訓練用である事に変わりは無いが一人一人に合わせてカスタマイズされた専用の武具が祭典の運営者から支給されるらしく。


 今日は俺の武具を一から作るにあたっての身体測定などを、職人立会いのもと行うため早朝から出払っていた。


 そんな中、せっかくアウルティアまで来たのだからと俺が不在の間女性陣は街でショッピングを楽しんでいたようで、正午を少し回った時刻に宿屋でリーニャ達と合流すると昨日までは部屋になかった大量の荷物が山積みされていた。


「あっ! グレンお帰り~! ご飯、グレンの分も買っておいたよ~さっそくお昼にしよっ」


「グレン、こと待ってた。 フリート、いい子」


「おっ、ワリぃな。 んじゃ、ちゃちゃっと手洗いとか済ませてくっから飯にしようぜ」





「はい、食後のお茶ですよ…熱いので気を付けて下さいね? 」


「ありがとな、ミア」


「そういえば…とうとう本戦の組み分けが発表されたわねっ」


「ああ、俺達が使う武具が配布されて最終チェックが終わり次第本戦が始まるってことだが…」


「ざっと見た感じ。 やっぱり本戦に進んだのは二つ名持ちのハンターが多いみたいね! あっ、だけど…グレンの一回戦目の相手は雑誌にも載って無かったし、さっき大通りで確認したら狩人協会の所属でもない人みたいよ」


「ん、大通りで…? 」


「ええ、さっきミアさん達と買い物に行って来た時に大通りの掲示板の前も通ったんだけど…本戦出場者十六名の簡単なプロフィールがばーんって張り出されてたわよ」


「なっ…マジか! 本戦出場者の…つーことは、俺の事ももしかして載ってるのか…? 」


「う。 バッチし、載るてた! 」


「グレンのことは狩人協会期待のルーキーとして紹介されてましたよ」


(期待のルーキーって、まるでつい先日ロンドさんから聞いたような言葉だな…)


 とはいえ、ゲームの知識を含めグレンのことを知り尽くしている俺と違い、協会所属の新人ハンターである事以外知り得る情報がないこの世界の人々から見ればそういった認識になるのも頷ける。


「なるほどな…。 俺の一回戦目の対戦相手についてはどんな事が書いてあったんだ…? 」


「ふっふっふ! グレンがそう言うと思ってちゃんとメモしてきたわよ! 」


 これを見なさい! とドヤ顔で折りたたまれた紙きれを突き付けてきたリーニャに、ありがてぇ! と頭を下げる。


「じゃあ読むわねっ! えっと…本名、ゴダム・マジャム。 猿獣人族の槍使いで、南国の少数民族の出らしいわ。 なんでも、部族一の槍使いとして”ヴェル”という特別な名前を与えられているらしいわよ」


「槍使いか…」


「どう? 参考になりそう? 」


「ああ、助かったぜ」


 槍を用いた武技についてもキッチリと記憶している為、ある程度の対策は立てておくことが出来る。


 とはいえ、フリートのようにゲームには登場しない武技を使ってくる可能性や…俺が縮地一刀を回避の手段としても用いるように、知識として頭にある武技でも予想外の使い方をされる事も念頭に置いておいた方が良いだろう。


(せめて、原作でアレンが戦った相手だったらもう少し綿密な作戦がたてられたんだが…)


 原作では、勇者…アレンの一回戦目の対戦相手は俺が雑誌を読んだ際に注目していた鳥人族の弓取り、「氷凍の射手」の二つ名を持つレイ・ミンティアであった。


 しかし、今回武勇祭典に参加したのが俺である事が影響したのか本戦での組み合わせについては原作通りといかず、槍使いの戦士…ゴダムとの戦いがこの後控えている。


(もとからやれるだけの事はやると決めていたが、カインも本戦に進んでいる以上アイツより先には敗退したくねぇ…)


 組み合わせの関係上…俺もカインも一回戦目を無事に突破した場合二回戦目で直接、奴と対決する事が決まっている。


(絶対に…アイツは俺が倒す)


「あー!! そういえばっ! 」


「きゃっ! ちょ、ちょっとアレンさん急に大きな声出さないで…! ビックリしちゃうじゃないっ」


「あっ、ごめんね」


「いいわよ。 それで、どうしたの? 」


「えっとね…。 もしかしたらボクの見間違いかもしれないんだけど。 今日の買い物の途中で寄った専門店ばっかりが立ち並ぶ通りがあったでしょ? あそこで、この間グレンが話していたカイン? って人を見かけた気がするんだ」


「っ…! ほんとか!? 」


「う、うん。 ボク達は予選の間グレンの事をずっと応援してたからカインって人の顔までは知らなかったんだけど…。 大通りの掲示板で見た似顔絵と、グレンから聞いてた特徴の両方を合わせて、ピッタリ当てはまる人が薬屋から出てくるのを見たんだ」


「う! それ、フリートも見る、た」


「薬屋…? 」


(いったい…何を)


 一瞬、危険な薬品の存在が頭の中で思い浮かぶがそう決めつけるにはいくら何でも早計過ぎる。


「何んだか急いでいたみたいで…店内に向かって一度お辞儀した後に、すっごいスピードで通りを走って行っちゃったんだ」


「そうか…」


 正直、アレン達が見た人物が本当にカインだとして。


 奴の凶行を知ってる俺としては…店内に向かってアイツがお辞儀をしている姿など想像できないが…。


 とはいえ、青い髪で狼獣人族という特徴は俺が遭遇したカイン・バーストと完全に一致している。


 単純に二つ名を持つ狩人としての外面なのか、それとも…。


 結局のところ、俺はまだ奴の一面しか知り得ていない。


(それでも、アイツが他の参加者にしていた事は変わらねぇ…)


 今はただ目の前の事。


 来る本戦、第一試合。


 ヴェルの称号を持つ槍の名手…ゴダム・マジャムとの戦いに集中しよう。

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