お転婆王女はこいねがう ~神授の王証と、始まりの孤独~

仕黒 頓(緋目 稔)

第一部 始まりの旅

第0話 或る会話――十七年前

 双聖暦そうせいれき四百八十一年。

 アイルティア大陸中央に位置するプレブラント聖国西部の峡谷に面した聖砦せいさいにて、ある予言が下された。


《――斎王よ。子供が生まれるぞ》


 赤みがかった陽光が天窓から差し込むだけのがらんどうな空間に、男とも女ともつかない声が響く。


《歪で、孤独な二人だ。特に片方は、ジオを失えば、早晩無に飲み込まれるだろうな》


 その語調はどこか幼く、それでいて老獪ろうかいさを滲ませて、たった一人佇立する老年の女を愉しげに脅しつける。

 しかし女は少しも怯むことなく、ただ声のする方――扇状に広がる空間の起点にある祭壇に向けて言葉を返す。


「それは翌年に生まれる予定の、わたくしの曾孫ひまごのことでしょうか」


 女が話しかける祭壇には拳大ほどの黒い雫型の石が置かれているだけで、周りに人影はない。しかし子供とも大人とも思える声は、当たり前のようにそこから返ってくる。


《一方はそうだろう。だが他方は別の場所のようだな》


「彼らがジオとなることはないのでしょうか」


《運命の子供たちが同時期に生まれる理由など知らないが、それは難しいだろう》


 一縷の希望に縋るような女を、声は淡々と否定する。


《早くしなければ、無に見付けられて、今度こそ世界を作り替えられてしまうぞ》


「孤独……」


《あぁ。あれは、恐ろしいものだからな》


 懐かしむように、畏れるように、声が呟く。それきり、広間には再び物寂しい静寂だけが在った。

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