アドミニストレーターズ!
@IRON1005
第1部 プロローグ
九月一日。きっと、学生に一年で最も憂鬱になる日のアンケートを取ったなら上位になるに違いない夏休み明け最初の一日。周囲を歩いている同じ学校の生徒より、私の足取りは重く、ついでに瞼も重かった。
「おはよ、汐音―、久しぶりっ。元気だった?」
重い足取りで校門をくぐった折、同じクラスの友達に横から声を掛けられた。私の暗く沈んだ気持ちなど歯牙にもかけずに勢いよく背中を叩かれて少し辟易。
「おはよ、ももちゃん。でも久しぶりって、先々週遊んだじゃん」
なるべく自分の陰鬱な気分を外に出さないように笑顔を作って隣の友人に声を掛ける。
「二週間も会ってなかったんだから久しぶりでいいのっ。てか汐音、どしたの? 目が真っ赤だよ?」
しまった。態度と表情はいつも通りを装ったつもりだったけど、充血した目までは隠せなかった。そういえば朝、自分の顔を鏡で覗いたとき、まるで吸血鬼みたいだなって思ったのを思い出す。
「ちょっと寝不足でね……眠いの」
「あ、分かった。例のメンヘラ彼氏のことでしょ」
「メンヘラなのは合ってるかもだけど、彼氏じゃない……ただの友達」
二人で会話しながら、校門から昇降口にかけて歩いていく。先ほどまでは重くてゆっくりな足取りだったけど、ももちゃんに合わせて少し速足になる……いや、普通の足取りになる。
「まだそのお友達に粘着されてるの? 大変だねー」
「ううん、もうそういうのはないよ。なくなったんだけど……」
続きを言うかどうか迷う。そのお友達に粘着されなくなったことで悩んで最近眠れなくなっているのだけれど、説明が難しい……というか、出来ない。きっと今の私の境遇を説明しても信じてもらえない。
「あ! そういえばさっきLINEでちらっと見たんだけど、うちのクラスに転校生が来るみたいだよ?」
私が続きをどう答えるか迷っていると、ももちゃんはその雰囲気を察したのか違う話題を振ってきた。
「転校生? ふーん……」
「あれ、あんまり興味なさそう」
転校生っていったら一大イベントなのに! と語気を強めて言うももちゃん。
私も普段だったらどんな人が来るのか興味津々だったと思うけど、今はそれどころじゃないんだよ……。
二人でそんな話をしながら廊下を歩いて教室にたどり着く。私とももちゃんの席は離れているのでそこでお別れ。じゃね、と手を振って、私は窓側から一つ手前の列の一番後ろの自分の席に座る。あれ、いつもなら私の左隣……一番窓際の一番後ろの角の席は何もない空間のはずなのに、今日は机が用意されている。
……なるほど、そこかしこから転校生のことについて話が聞こえてくる。つまり、私の隣の席に新たな生徒がやってくるということなのだろう。いつもの私だったらわくわくどきどきしていただろうか。今の私には、転校生が男の子なのか女の子なのかすらどうでもいい。
始業開始ギリギリだったので、鞄を机の横に掛けるとすぐに先生が教室に入ってきた。久しぶりに見る担任の顔。いつものように朝の挨拶をして、夏休みに関する他愛のない話を少していた……気がする。正直、眠かったり色々あって先生の言葉があんまり耳に入ってこなかった。
「あー、もうみんな知ってるかもしれないが、今日から転校生がうちのクラスに来る。おい、入れ」
先生が教室のドアの方を向いて声を掛けると、ドアが横に開かれて男の子が教室にゆっくりと入ってくる。私はそれを無感情でぼーっと眺めていた。わー、本当に転校生だ。身長は普通より少し高いくらいだろうか。体型も普通……ちょっとがっしりしてるかな? 顔は……まぁ、ちょっと格好良いかも。少し大人びてるな、って印象。老けてる、ってことじゃなくて良い意味でね?
転校生が教壇の横に立つと、先生が自己紹介をするように転校生くんに促す。
「――葉山総司と言います。これからしばらく皆さんと一緒に学校生活を過ごすことになるので、どうぞよろしくお願いします」
なんか顔だけじゃなくて態度とか声色も大人びてるなあ、なんて思っていると、転校生の葉山くんは言葉を続ける。
「それと、皆さんに一つ言っておきたいことがあります」
葉山くんはそう言って言葉を切ると、一つ深呼吸をして。
「俺は、不思議なものを探してます。みんなの周りで何か不思議なことやおかしなものがあったら、どんな些細なことでもいいからすぐに俺に知らせて欲しい。よろしくお願いします」
そうやって葉山くんは大声で言い切ると、深く頭を下げた。
何か変なことをいきなり言い出した転校生に、教室が少し凍り付いて静まり返る。
………………。
えーっと、なんだっけ、少し前にこういうこと言い出す主人公の話が流行ったよね。
……涼宮ハルヒの憂鬱?
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