続『29』~縁~

葵 しずく

幸せの未来予想図

第1話 わたしの夏休みの宿題

まえがき


 はじめまして、作者の葵 しずくと申します。


 この作品に目を止めて下さった皆様にお知らせがあります。


 この作品は本編 『29』~結び~のアフターストーリーとなります。

 なので、本編を読んで下さった皆様はそのまま読んで頂きたいのですが、まだ読んでいない皆様にはこの作品から読んでも意味が解らないと思いますので、是非本編の方から読んで頂ければと思います。


本編 『29』~結び~へは、こちらからどうぞ!


https://kakuyomu.jp/works/1177354054894909740

  

本編を読破された皆さんは、このまま読んでやって下さい。

―――――――――――――――――――――――――――――



 皆さん、はじめまして!


 間宮まみや 伊織いおりっていいます。


 小学2年生です!


 ちゃんと自己紹介できて偉いでしょ! ムフー!


 パパに教えてもらったんだ。


 え? パパ?


 わたしのパパは間宮良介っていうんだけど、知ってる?


 わたしねー、パパが大好きなんだ。

 この前ね? パパにわたしがおっきくなったら結婚しようねって言ったら「パパと結婚してくれるの? ありがとー」ってもうデレデレだった。

 一緒にいたママはプンスカ怒ってたけど……。


 パパとママはいっつも仲良しでね? わたしもパパが大好きだからいつもママとパパを取り合ってるんだけど、わたしのプロポーズを受けてくれたから、ママはもう過去のオンナ。


 愛は何時の時代も非情なんだ、ママごめんね。


 因みにわたしのライバルだった(過去形)ママはすっごくモテるんだ。

 どれだけモテるかっていうとね?ママと手を繋いでお買い物に行った時にね。わたしという可愛い娘が一緒にいるのに、知らない男の人から声かけられてた。

 凄くない!? というか、声かけてきた人の神経疑うレベルじゃない!?


 ママはパパには甘々だけど、他の男の人にはまるで絵本で読んだ雪女みたいに冷たいんだ。


 声をかけてきた男の人にも「は? 子連れの女に声かけるとか、アンタの脳みそどうなってんの?」って背筋がゾクッとする冷たい声で言うんだ。

 言ってる事は正しいんだけど、この冷たいママとパパの前では甘えたの猫さんみたいなママが同一人物だと思えない。

 これもギャップ萌えっていうのかな。


 モテるのはママだけじゃないんだよ?

 わたしもすっごくモテる。


 幼稚園の頃は殆どの男の子から「結婚して」って毎日しつこいく言われてきたし、小学生になったら結婚してって言われなくなったけど「好きなんだ」とか「付き合って欲しい」とか告白されまくってる。

 だからわたしはいつもこう言うの。


「わたしはもうパパのフィアンセだから、ごめんね」って。


 これだけモテる女の子と結婚出来るんだから、パパも鼻が高いというものだね。


 因みにわたしは基本ベースはママだけど、目の優しい感じはパパに似ているらしい。という事はですよ? わたしはパパとママの良いとこ取りしてる顔って事になる。

 つまり超勝ち組の女の子というわけだ。ムッフー!


 そんな勝ち組確定のわたしにも、悩みがある。


 それは、わたしはパパと結婚するって言ってるのに、諦められないのかしつこく粘ってくる男の人がいるからだ。


 その人は言葉ではわたしを振り向かせる事が出来ないと踏んだみたいで、会いに来る度に色々な玩具をプレゼントしてくれる。

 始めはわたしが絵を描くのが好きだからと塗り絵とか、100色の色鉛筆とか持ってきてたんだけど、今はデジタルで絵を描く時代だからとペンタブってのを持ってきた事があった。

 そのプレゼントはパパが気に入らなかったみたいで「子供になんてモン渡そうとしとんねん!」と怒ってた。

 きっと、わたしがモテモテだからヤキモチを焼いているんだろう。パパ可愛いっ!


 そんなわたしにゾッコンなのは、雅紀クンだ。

 雅紀クンはわたしのお爺ちゃんなんだけど、わたしがお爺ちゃんって呼んでたら「お爺ちゃんは現役やから、お爺ちゃんの事は雅紀クンって呼ぶんやで」って言われたんだ。

 散々自分でお爺ちゃんって言ってるんだから、現役? じゃないと思うんだけどなぁ。

 まぁ、お爺ちゃんの事をそう呼んだら凄く喜んでくれるから、いいか。パパはそんなわたしに溜息ついてたけど。

 きっと、これも嫉妬の一種なんだろう。


 雅紀クンを紹介したから、次は涼子お婆ちゃんの番だね。


 涼子お婆ちゃんはねぇ。何時もニコニコしててとっても優しいの!

 わたしが寂しくならないようにいつも近くにしてくれて、いっぱい遊んでくれるんだ。

 それに、とってもお菓子作りが上手なんだよ?

 パパも子供の頃からお菓子はお店のじゃなくて、涼子お婆ちゃんの作ったお菓子を食べてたって言ってたけど、あれだけ美味しかったらそうなるよね。


 パパとママはお仕事で帰ってくるのが遅い日が多いから、私は学校が終わったら家に帰らずに真っ直ぐに雅紀クンと涼子お婆ちゃんの家に行く。

 お友達が遊びに来る時もおうちじゃなくて、雅紀クンの家で遊んでる。

 雅紀クンの家は大きいから沢山お友達呼んでもヘッチャラなんだもん。


 ……でもね、やっぱりパパとママがいないと寂しい。

 だから2人が帰ってくるまで頑張って起きてようとするんだけど、何時の間にか寝ちゃってて朝起きたらおうちの布団で寝てて、そんな私を挟むようにパパとママが寝てる事がほとんどだ。


 そんなパパとママの寝顔を見てたら、寂しかった気持ちが萎んでいく。

 だって、2人の温かさに包まれてる気がするんだもん。


 そうそう、実は今度のお休みに旅行に連れて行ってくれるんだって!

 どんなにお仕事が忙しくても、こうしてお休みの日には必ずわたしとの時間を作ってくれる。

 寂しい時もあるけれど、賑やかな雅紀クンやいっつも優しい涼子お婆ちゃんがいてくれる。それにわたしの事を第一に考えてくれてるパパとママがいるから――いつも笑っていられるんだ。


 そんな二年生の一学期の終業式が終わって明日から夏休みだとお友達と喜んでたら、教室でたっぷりの夏休みの宿題が配られて、皆のテンションが一気に萎むのを見て吹き出した。


 実はわたしは勉強が嫌いではない。

 というか、どちらかといえば得意な分野にある。

 だって、躓いても昔塾の先生をやっていた経験があるパパが凄く分かりやすく教えてくれるんだもん!

 そのおかげでテストはいつも殆ど満点なんだよね!


 だからわたしは主要教科の宿題リストを見る事なく、自由研究のテーマとか夏休み特有の宿題の一覧表をすぐにチェックした。


 今回のテーマは『自慢の家族』と書かれている。


 パパとママの自慢かぁ。そんなのしょっちゅうしてるから、今更感が半端ないからあまりやる気が起きない。


(うーん。じゃあ、今のお話じゃなくて……)


 ◇


「ねぇ、パパ、ママ」

「ん? なんだ?」

「どうしたの?」


 学校から雅紀クンのおうちに行って遊んでいたら、今日はパパとママが帰ってくるのが早かったから、皆で夜ごはんを食べた。

 その時に『よくできました』しかない成績表を見せて、皆に褒めて貰ったのは言うまでもない。

 それから涼子お婆ちゃんが焼いたケーキを皆で食べながら、私はパパとママに夏休みの宿題の事を話そうと声をかけた。


「夏休みの宿題で作文があってね? そのテーマが自慢の家族なんだけど、私いつもパパ達の自慢してるから今更なんだよ」

「え? いつもパパ達の自慢なんてしてるのか? お友達から引かれたりしないか?」

「え? ううん。いつも『いいなぁ』って言われるよ?」

「……そ、そうか」


 パパはホッとした様子で、それを見てたママはクスクスと笑ってた。

 わたし、何か変な事言ったかなぁ。


「でね!」


 まぁいいや、話しを戻そう。


「パパとママがわたしのパパとママになるまでのお話を聞かせて欲しいんだ!」


 そう! わたしはパパとママの昔の話をテーマに作文を書く事にしたんだ。

 少女漫画やキッズ向けの恋愛小説とか読んでる私だけど、きっとパパとママのお話は絶対に読んできた本より、キュンキュンするはずだから。


「パパ達のお話っていっても、前に話さなかったか?」


 うん。確かにパパとママが恋人になったお話なら聞いた事があるけど、私が訊きたいのはパパとママが結婚して私が生まれるまでのお話だ。


「うん。でもね、私はパパとママが結婚するまでのお話が聞きたいの」


 私がそう言うと、パパとママはお互いの顔を見合って少し気まずそうに苦笑いして、何故かいつも賑やかな雅紀クンまで元気がなくなった。

 絶対にラブラブなお話のオンパレードだと思ってたわたしがパパとママの様子に首を傾げていると、パパが小さく頷いてこっちを見た。


「うん、分かった。でも、ちょっと難しいお話になるけどいいか?」

「難しいお話?」


 ラブラブなお話じゃなくて?と付け足したわたしに、パパとママはまた苦笑いする。

 これは予想以上のよく読む恋愛小説みたいなパパとママの物語があると確信したわたしは「勿論! 早く聞かせて!」と催促すると、パパが懐かしむような口調でお話を始めてくれた。


――――――――――――――――


 ガヤガヤとした方々から聞こえてくる話声と、スーツケースのキャスタ―が転がる音が聞こえる。


「あー! いっつも思うけど、楽しい時間ってなんであっという間に終わるんだろうねー」


 愛菜が溜息交じりの零す言葉に、俺達が同意する。


 いつもの仲間達と旅行に行っていて羽田空港に戻ってきた俺達は休憩をとろうと空港内にあるカフェにいた。

何気にこのメンバーで旅行に行ったのは志乃達の卒業旅行以来で、志乃達が大学生になればこういう旅行が増えると思っていたから少し意外だった。


志乃達大学生組はこの旅行が終われば、本格的に就活に取り組む事になっている。

 一身上の都合ってやつで愛菜は就活をしないのだが、それについては追々話そうと思う。


 兎に角、圧倒的なまでの自由だった大学生活を送っていた志乃達は、これから社会を強く意識していくのだろう。

 それぞれがどんな未来を求めて生きていくのか楽しみにしているのは、きっと俺だけじゃなく真っ黒に日焼けした松崎も同じだと思う。


 それぞれがそれぞれの新しい生活を初めても、この関係はずっと続いていくのだろうと疑っていなかった。


「んじゃ、そろそろ帰りますか!」


 カフェで程よく休憩した頃合いを計って松崎が伝票を持って、俺達にそう促す。


「あぁ、そうだな」


 俺がそう答えると、志乃達も席を立ってそれぞれの荷物に手を掛けた。


 カフェを出て一旦中央ロビー前に移動した俺達は少し談笑した後に腕時計で時間を確認した松崎を先頭に、各々の岐路に着く。


「じゃー、俺達は電車で帰るから、2人共またなー!」

「おう、向こうに行く前に一度飲もうぜ!」


 松崎が愛菜達を引き付けて駅に向かうのを、ここまで車で来ていた俺と一緒に家まで送る事になっていた志乃が見送る。


 元気に手を振って駅の方に消えていく皆の姿を見送った後、隣にいる志乃に顔を向けて「俺達も帰るか」と声をかけて駐車場に向かおうとした俺に「ちょっと、いいかな」と志乃が呼び止めた。


「どうした?」

「ん、話があるんだけど」

「話なら、車の中で聞くぞ?」


 人が多いこんな場所じゃ落ち着いて話なんて出来そうにないのだから俺は当然の提案をしたんだけど、首を横に振って「ここで」と言う志乃の表情はついさっきまでとは別人のようだった。


「本当にどうしたんだ? 疲れたのか?」

「んーん。大丈夫」


 また首を横に振る志乃は少し溜めるように息を吐いたかと思うと、俯いていた顔を上げて真っ直ぐに俺の目を見る。


「良介……あの、ね」

「うん」

「私達――ここまでにしない?」

「…………え?」


 具体的な主語がない志乃の言葉。

 その言葉だけでは様々な意味で捉える事が出来るはずなのに、俺には最悪な意味でしか聞き取れなかったが、信じたくないと惚ける事を選択をする。


「えっと、どういう意味だ? 1人で帰るって事、か?」


 自分で言ってて白々しいと思った。

 だけど、そうであって欲しいと心の底から願ってたんだ。


――しかし、その願いは見事に裏切られる。


「良介……。ううん、


 久しぶりに聞いた志乃の口から発せられる苗字呼びに、心臓が止まるかと思う程の衝撃を受けたが、この直後にそれすらぬるく感じる言葉が俺の鼓膜を震わせる。


「私と――別れて下さい」



―――――――――――――――――――――――――――――


あとがき


 いよいよ連載を開始したアフターストーリー 続『29』第一話はどうでしたでしょうか?


 アフターストーリーを本編から別枠で掲載したのは、僕の中で『29』はあそこで終わっていて、アフター作品を書く予定ではなかった為です。

なので、正直最後まで書き切る自信があまりもてないので、本編が未完のまま終わってしまわない為の処置だと思って下さい。


 出来るだけエタらないようにしようと考えていますが、あまり反応が芳しくない場合有り得る事を事前にお知らせさせて頂こうとあとがきを書かせて頂きました。


 僕自身沢山の読者様が支持しているのに、途中でエタらせた作品を多くみてきました。

 作者様も色々な事情があったのだと思うのですが、せめて一言だけでも残してくれればなと残念に思った事も事実です。

 そういう作品を読んで残念に思った事が多々あったから、なるべくエタるのはしたくないと考えていますので、この意思がフニャフニャの弱っちい男をパソコンの前から離れさせないように、面白いと思って下されば応援よろしくお願いします。

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