第62話「曖昧になる、幼馴染とのリアルの距離感」
✻
洗面所での反省会は誰にも知られることなく、密かに終幕を迎え、その後少々憂鬱な気分で部屋へと戻ると、晴斗は文字通りの熟睡を決め込んでいた。
それもそのはず。
彼は夜行性であるが故に、朝には滅法弱い。その結果が昨日の早朝のような堕落さだったわけで。近くの高校を選んだのも、正直に言えば朝起き対処がしやすくなる、というのが主な理由として挙げられる。
……そういえば、こんな近くで晴斗の寝顔を見たのは久しぶりな気がする。
以前のお泊り会のときは、泣き疲れたこともあって先に寝てしまった。……だって、晴斗が離れようとするのが悪いんだもん。寂しくなったんだもん。自分の視界から晴斗が消えていくのは、もう――。
「(って!! どうして私わああぁぁ~~~────ぁ!!)」
我ながら自分の執着心の強さに引く……。
あれ、おかしいな……。前までは、こんなんじゃなかったはずなんだけど。
冷静沈着で、常に成績優秀で。この伸ばしまくった前髪さえ何とかすれば絶対モテるであろう容姿を併せ持つにも関わらず、煩いと呼称する『カースト』などには居座らない。
そんな、カッコよくて、でも時々不器用で。
……そんなあなただから、私は好きになった。
小さい頃の思い出と、私しか知らないあなたの素顔。それらがあったから、私はあなたを好きになった。……なのにどうして、私はあなたと違うんだろう。
どうして、私にはこんな中身も外身もあるんだろう。
✻
朝7時を迎え、各々先生が部屋を回り、生徒達を起こしに動いている音が廊下から聞こえる。時には「起きてー」と優しくかける声や、時には「起きろやー!」とじゃれ合うようなそうでないような声まで。……朝から元気だなぁ。
私? そんなの聞く必要もないでしょ。
――あまり気分良くないです。以上。
つい先程起床時間になったばかりということもあり、私を除く残りの3人はまだ夢の世界へと意識が持ってかれている。
いや、正確に言えば1人は、起きているが起きていないと云った感じだろうか。
「……渚」
「は、はいっ……!!」
「朝ご飯って、何時からだっけ」
「……え、えっと。し、7時半から、だったかな」
「そっか……」
「……………………」
数分前に起床したばかりで、まだ意識も完全ではなくどこか上の空な返事をした晴斗だけど、起きてることには起きてる……んだと思う。
……それにしたって、この居心地の悪い空気はなに?
晴斗からの問いかけにも、それに対しての私の対応さえもあからさまな動揺が
私自身のは……言うまでもなく、今朝のちょっとしたアクシデントのせい。
けど晴斗の様子までもがぎこちないのは、良くわからない。
……もしかして、今朝のこと覚えてる……とか? いやでも、晴斗にそのときの記憶があるにしても“私”だと断定づける証明はないはずだし、多分大丈夫、なはず。
だとしたら……? と、先程から身支度を整えつつそんな思考がグルグルと脳内を何往復も繰り返し続けている。
あの悪夢のせいだろうか――。
そうも考えたけど、もう自分の脳内が正常に働くことに疲れを覚えてしまっているし、そもそもとして自分の内側に潜む『闇』が奥深すぎて、もう何が正解なのか不正解なのかも、イマイチわからなくなっていた。
それから数分が経過し、晴斗によって蹴り起こされた藤崎君と、私にトントンで起こされた佐倉さんの2人もまた、それぞれ活動を始めていた。
藤崎君は全員の体調と熱を記録した保健カードを先生に出しに、部屋を後にした。
朝ご飯までは自由時間ということで、晴斗は昨日のラノベを取り出して読書を始めてしまった。……昨日の、か。
「……~い。お~い!」
「ふぇっ!?」
意識の沼にハマっていた私を掬い出したのは、佐倉さんだった。
背後から突かれたというのもあるが、急に声をかけられたこともあり、背中がビクッと跳ねる。
「ビックリしたぁ~……、いきなり変な声出さないでよ。そんな女の子っぽい声出しても、多分凪宮君は
「く、くど……っ!?」
毎度ながらに思うけど、佐倉さんって容赦なくスゴいこと言うよね……。
多分だけど、いくら恋愛経験を積んだって私は佐倉さんみたいに堂々と煽り文句みたいなこと言えない気がする……。
「ま、何でもいっか。渚ちゃん、少しだけ眠気覚ましに付き合ってもらえないかな? ほら、透は班リーダーで先生のとこ行っちゃったし。凪宮君はあれでしょ?」
「……人のことを指ささないで、佐倉さん」
晴斗は少し嫌そうな顔をしながらそう言った。
読書中であるにも関わらずこちらに反応するのも珍しいけど、佐倉さんが藤崎君じゃなくて、晴斗のことを指すというのも珍しい気がする。
「まぁ、昨日の疲れが残ってたっていうのもあるけど、それでも起きるの普段と全然違う感覚だからさ、まだ眠気覚めないんだわ。だから、ね?」
「ま、まぁ、少しだけなら……」
「やった~! それじゃあ凪宮君、透戻ってきたらそう伝えといて~!」
「ん、行ってら」
「…………………………」
部屋を後にする私と佐倉さんに向けて、晴斗は静かに手を振った。
たったこれだけの、幼馴染のときでさえやってたことに、何故か今更胸の鼓動が高鳴っている。
でもこれが果たして、反応してくれたことへの嬉しさからなのか、それとも別の意味での心拍なのか。……罪悪感が過半数を
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます